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第2章
11「休暇2日目」
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三日間の休暇の初日、まだ陽が高く昇っているうちに ついに番となった璇と夾。
発情が収まってからも昼夜構わずひたすらくっつき合い、ほとんど食事もまともに摂らないまま過ごしていた彼らは、翌日のもはや昼になろうかという時刻になってようやく寝台から起き上がることにしたのだった。
激しく身体を動かすなどしていたにもかかわらず疲労感がなく 妙にすっきりとした気分になっているのは、番となって互いの【香り】を存分に感じ合っていたからに違いない。
ずっとそうして寝台で引っ付いていたいと思いながらもやはり動いた分 腹は減るものであり、寝台はさながら全身もなかなかに汚れてしまっているので、2人はまず揃って湯浴みをすることにした。
璇が湯を用意するために浴室へ向かった後、まだ少し寝台から体を起こすには億劫だった夾はそっと自らのうなじに触れてふくふくとした気持ちに浸る。
指先に触れるうなじのはっきりとした咬み痕…
間違いなくそれは彼がこれまで待ちわびてきた『愛の証』だ。
ついに名実ともに璇と番になったのだということを実感して笑みがこらえきれなくなる夾。
浴室の支度を終えたらしい璇が寝台のそばに戻ってきて「韶、先に湯浴みをしてろよ」と声を掛けると より一層番になったという実感が湧いてくるようで堪らない。
甘ったるさでいっぱいの朝だが、今日ばかりはその甘さに酔いしれるのもいいだろう。
寝台から起き上がろうとした夾が自らの中から何かが流れ出しそうになったのを感じて動きを止めると、それを察したらしい璇は夾を横抱きに抱え上げ、浴室へと向かった。
抱え上げられた夾は「そ…そんな、いいですよ、俺は重いでしょう……?」と一応遠慮しながらも、それにかこつけて璇に抱きついたりしていた。
夾の湯浴みは思っていた以上に時間がかかった。
というのもどれだけ掻き出しても中からはとめどなく璇の白濁が漏れ出してきていたからである。
彼が何とか体を洗い終えて浴槽でゆったり体を温めている間、璇は湯浴みを終えた後に着る衣を用意したり寝室の片づけをしたり、洗濯をしたり軽く食べるものを用意したり…となかなか忙しく動き回っていたようで、璇と共に湯浴みをしようかと待っていた夾は結局のぼせてしまう前に湯浴みを切り上げることにしたのだった。
さらさらとした生地の衣に身を包んで浴室を出ていくと、程よく温まった室内はなにやらいい香りに満ちていて、夾はそこでようやく自分が昨日から碌なものを口にしていなかったことを思い出す。
食卓に置かれているお椀には鶏ガラ出汁と共に炊かれた溶き卵の美しい色が映える雑炊がよそわれている。
思わず ぐぅっという腹の音を鳴らした夾に、璇は「お腹すいてるんだろ?そりゃそうだよな」と匙を差し出した。
「いくら好きに過ごしていいとは言っても 多少は健康に過ごせるよう気を遣わないとな」
健康に気を遣って生活したいという考えを璇も同じくしてくれているらしいと知って嬉しくなった夾が何もかも璇1人にさせてしまったことを申し訳なく思っているということを話すと、璇は夾を椅子に座らせて言う。
「違うよ、これはなんていうか…俺がしたくてやってることなんだ。多分これが『アルファの本能』ってやつなんじゃないかな。韶のために何かしてたいっていうか、韶のためにすることはどんなことでも ちっとも苦に思わないっていうか」
「…っていうよりもさ、俺、韶に思ってほしいんだよ『このアルファを番に選んで良かった』って。俺を番に選んで良かったって…そう思ってほしいんだ、がっかりさせたくない」
まさか璇がそんな事を言うとは。
夾は彼が本当に『番になったことを後悔されてしまったら…』と心配しているらしいと知り、その事実が可笑しく愛おしくなって柔らかく微笑んだ。
ーーーーーーー
温かな雑炊を腹に収めてから後片付けと朝の身支度の一切を済ませ、茶を飲みつつあらためて家の中をぐるりと見渡してみる夾。
寝室も食卓も、なにもかも。
棚に置かれている小物の配置ですら何一つ変わっていない いつもとまったく同じ光景であるというのに、どういうわけか室内がそれまでとは異なる温もりに満ちているような気がしてならない。
どう表現するのが適当なのか…とにかく色が鮮やかになったような、穏やかな感じが増したような、そんな感じだ。
その変化というのは彼が璇と番になったために生じたものだろう。
これまでだって充分良いと思えていた世界がそれまでよりもさらにより良いものに見えてくるのだから 本当に不思議なものだ。
浴室から聞こえてくる璇が湯浴みの音、つまり湯の流れる音も心地良くてたまらない。
「………」
…ふと思い立った夾は寝台との壁を挟んだ背向かいに置かれている鏡台の前へと向かった。
この鏡台はその昔 夾の父が母へと贈ったものであり、いわば彼の両親の形見である品だ。
いつも彼が大切に丁寧に手入れをしているため、その鏡面には今も少しのキズも曇りもない。
その前に立った夾はうなじを露出させるようにしつつ、そこが鏡に映るよう少し横向くなどしてみた。
うなじについているその痕は合わせ鏡にしなければ全体像をはっきりと見ることはできないが、しかし端の方の部分だけならばこのままでも目にすることができる。
ようやく触覚だけではなく視覚からもきちんと咬み痕の存在を確認することができた彼はしばらくそうして何度も角度を変えたりしながら咬み痕を眺めた後、部屋の中に大切にしまっておいた【うなじあて】を取り出してきた。
それは璇が夾のためにとあらかじめ職人に依頼して製作し、贈っていたものだ。
2種類の星を表わす紋様が絶妙に組み合わされた意匠が目を引く留め具とうなじの咬み痕部分を直接覆う紺碧の布帯が一組になった うなじあて。
布帯に通したうなじあて本体を首の後ろから当て、前の部分で留め具をカチッと嵌め込むと、彼の首やうなじはほとんど肌色を晒すことなく覆われる。
布帯や留め具はそれぞれ ほどよく伸縮するように造られているおかげで俯いてみても息苦しさを感じることはなく、さらにその上布帯の洗い替えはもちろん 飾り部分に関しても通常のものよりも汚れにくい仕様となっているのだそうだ。まさに彼のためのうなじあてである。
すっかり『番がいるオメガの姿』になった自分に夾が目を瞬かせていると、浴室から戻ってきた璇は濡れた髪を拭いながら「…うん、よく似合ってる」と夾の隣に立って同じように鏡の中を覗き込んできた。
「色もよく似合ってるし、星の紋様も綺麗だし…キツさはどうだ?布に通してる部分でいくらか調節はできるみたいだけど」
「大丈夫です、今くらいがちょうどぴったりだと思います」
「そうか、それなら良かった」
わずかに言葉を交わすと、璇はあらためて鏡に映る夾の姿をまじまじと見つめながら「あぁ…俺達って本当に番になったんだな…」と呟く。
夾はそんな璇の方を振り向くと、ちゅっという軽い音を立ててその頬に口づけた。
唐突に頬に口づけられた璇はお返しとばかりに夾の瞼や額や鼻筋に細やかに何度も口づける。
傍から見ればどうしようもないほど甘く、目を向けていることすら憚られてしまうほどの心酔ぶりを披露している2人だが、当の本人達はお構いなしだ。
「なぁ、韶。今日くらいはこのままダラダラと過ごすのも良いんじゃないか?本を読んだり話をしたりして…適当に何か食べてさ。どうだ?」
「…はい、そうしましょう璇さん。今日はもう外に出るのは止してのんびりしましょう」
「うん」
今日は一歩たりとも外には出るまい。
そう決めた2人は揃って寝台のある寝室へと向かった。
すっかり綺麗になっている寝台の上に腰掛けてのんびりと両足を伸ばす夾。
薄い白の窓掛けを通して射し込んでくる陽射しの温もりに満ちた寝室はなんとも穏やかで安らかな心地にさせる。
昨夜はやりたい放題をしたが その分深く眠りもしていたので、璇も夾も今のところはあまり眠気は感じない。
寛いでいる夾を見つめながら満足そうに微笑む璇は濡れた髪を拭うために肩に掛けていた浴布でおおざっぱに髪を乾かし始めた。
両腕を上にあげて髪を乾かす璇。
彼の湯上りの薄い衣はきちんと留め紐が結ばれているものの、腕を上にあげたことによって上衣の裾が捲れ、彼の腹部を露わにする。
無駄なく引き締まっている腹だ。
なめらかで色白で、縦長のへそとすらりとした筋肉の線が見る者の視線を根こそぎ掻っ攫っていくような…そんな肉体。
衣が捲れ上がったことで見えたその腹部は真裸での状況以上に煽情的で性的な魅力に満ちている。
ごくりと息を呑んだ夾は次の瞬間には璇の捲れ上がっている薄衣の裾を掴んで下へと強引に引っ張り、その腹部を隠そうとしていた。
「ど、どうしたんだ?」
突然の夾の行動に驚いた璇が尋ねると、夾は夢中になって衣を引っ張りながら言う。
「ダメです、ちゃんと隠さないと。他の人に見られでもしたら大変でしょう。璇さんのこういう姿は他の誰にも見せちゃいけないんです、見せたら…璇さんが盗られてしまう」
「璇さんは俺の番です。俺のアルファだから…他の人になんか絶対に渡しません。絶対に、絶対に…」
なんとか璇の腹部を覆い隠そうとする夾だが、璇が着ている上衣はそもそも動きやすいのを好む彼のために少し丈を短くしてあるものなので、そう簡単には思い通りにすることができない。
それでもどうにか隠そうとする夾。
璇はそんな彼の必死さが妙に嬉しくなって「なんだよ、俺が他のオメガに盗られると思ってるのか?」と唇の端に笑みを浮かべた。
「俺はもう韶と番になっただろ」
「だってこんなに素敵な人…見れば誰だって惹かれるに決まってます」
「いやいや、さすがにそれは言い過ぎだって…嬉しいは嬉しいけどさ」
「言い過ぎなんかじゃないです。本当のことですから」
「…言ってくれるね。そういえば俺が胸に紋様を刻むのを反対したのも『体を彫り師に見せないで欲しいから』だったっけ?」
「…そうです」
「俺としては耳飾りよりも胸にきちんと刻みたかったんだけどな」
「だめです。絶対にだめ」
つい先ほどは璇が夾に『俺を番に選んで良かったと思って欲しいんだ』と吐露したのだが、夾の方も璇が誰か他の人間に見初められはしないかと心配でいるらしい。
それほどまでにお互いが相手には自分のそばにいて欲しいと願っているということだ。
璇が夾の頬を手で包み込むと 夾は伏し目がちになって顔を上げる。
恥らっているような、少しむくれているような。
その表情を見つめていると(このかっこよくて可愛くて、愛らしさの塊みたいな韶が…もう今は俺だけのオメガなんだよな…)というふくふくとした思いが湧きあがってきて璇はさらに嬉しくなる。
すると夾はそんな璇に訴えかけるかのようにじっと寝台の方を見つめだしたのだった。
彼の言わんとしていることははっきりとしている。
「さすがに韶の体が心配になってくるんだけど…大丈夫なのか?」
湯浴み上がりの身体はさっぱりしていて気持ちがいいということもあり、再び昨日から散々味わっていた感覚を思い出してしまう。
しかし寝台は綺麗にしたばかり、食事もしたばかりなのだ。
まだ少し小休止が必要だろうということは2人ともよく分かっている。
そのため璇は夾の手を引いて寝台のちょうど真向かいにあるふわふわとした長椅子に座り、そこで横並びで座って寄り添い合ったり、膝枕でもしたりしながらいくらか体が落ち着くまで過ごそうと考えた。
…だが夾は璇の横ではなく彼の膝の上に跨って座る。
少しも迷うことなく流れるように、ごく自然に腰を下ろした夾に璇が苦笑すると、夾は「あ…重い、ですよね」と膝の上から降りようとしたので、璇はそれを引き留めた。
窓から射し込む柔らかな昼の光は夾のあの美しい瞳をより一層輝かせる。
そして真新しいあの うなじあて も…
彼のうなじあての留め具にあしらわれている星の紋様は中央辺りにある小さな星2つが金で造られており、控えめで悪目立ちはしていないのに素地の白金との対比がとても美しく仕上げられている。
白金、金、紺碧
見事に調和したそれらは夾の首筋に元から存在してしかるべきものだったかのようで、それをあらためて真正面から眺めた璇は思わず感嘆のため息を漏らす。
「本当によく似合ってるな…このうなじあて」
すると夾は「そりゃそうでしょう、俺のアルファが俺のためにって造って贈ってくれたものなんですから」とはにかんだように笑った。
璇もそれにつられて笑みを浮かべながら夾の頬を撫でる。
うすい小麦色をした健康的な肌に凛々しさと優しさを兼ね備えたような彼の眉、目元…それらは見つめているだけでもどんな芸術品や装飾品以上に胸をいっぱいにする。
しかしその右の眉のあたりについている傷跡を目にした璇は、ふと表情を曇らせたのだった。
その傷跡は夾が璇をかばった時に負ったあの傷である。
硝子板の端で切ってしまったその傷は陽の光に当たると薄い桃色に煌めいていつもよりも少しだけはっきりと存在感を示す。
璇が申し訳なさでいっぱいになりながらそこを指で撫でると、夾はそんな璇の手を取って『まだ気にしてるんですか』と言いたげな視線を向けた。
肩をすくめながら「…分かってる」と答える璇。
「本当に…番に怪我を負わせるなんて俺はアルファとして失格だな。でも、そんなことがあっても俺と関わろうとしてくれて…ありがとう、韶。韶と一緒にいる時間が大切過ぎて、愛おしすぎて…もう俺達が出逢えてない人生があったらなんていうのも考えたくもないくらいだ。それくらい俺はお前のことが…」
それは璇の本心からの言葉だった。
誰かと番になることなどまったく考えられなかったかつての自分を振り返ってみると、璇はその時の自分の人生が 彩りのない冷たいものに思えてならなかったのだ。
もちろん当時だってそれなりに楽しく毎日を過ごしていたので そんなことは思いもしてなかったのだが。
しかしこのように心も体も満たされる充実した生活を知ってしまった今では もはや1人きりで過ごしていたあの時には到底戻ることなどできるはずもないと思えてならなかった。
すっかり2人でいるのが当たり前になったからである。
もはや『彼と出逢えていなかったとしたら…』などと考えただけでも悲しくなってきてしまうほどに。
すると夾は眉根を寄せてくすくすと笑いながら「俺達が出逢わない人生なんて、そんなのありえませんよ」と声をかけたのだった。
「俺は璇さんと初めて話したあの日にはもう璇さんが自分にとって特別な人だと感じていたんです。自分でも不思議なんですけど…それまで会ってきたどのアルファとも璇さんは明らかに違った、というか。なので俺達は遅かれ早かれ一緒になっていたはずですよ。俺がこの酪農地域で育っていたらもっと早く出逢ってたかもしれないし、逆に工芸地域からここに戻ってくるのがもっと遅かったら出会いも遅くなってたでしょうけど…でもとにかく俺達はこうなっていたはずです。たとえ俺達がベータ同士だったとしても、多分…きっと」
『そうでしょう?』と微笑む夾。
璇はそんな彼のことを「うん、そうだよな」としっかり抱き寄せた。
今のこの瞬間を慈しむかのようにして。
ーーーーー
室内に2つある大きな長椅子はどちらも大人の男が横になって眠れるくらいの大きさがある。
そのうちの1つは窓のそばに置かれているのだが、璇と夾が座っているのはまさにその長椅子だった。
璇が夾の尻を覆うように片手で撫でると、夾は言う。
「俺の身体は丈夫なんです、だからなんともありませんよ。もし心配なら…ご自分で直接確かめてみたらいいじゃないですか」
昨日散々したことを考慮して今日ばかりは大人しくしていようと思っていた璇だったが、そう誘われるとどうにも歯止めが利かなくなってくるもので、ついに彼は「そうか?じゃあ確かめてみようか」と夾の下衣の留め紐に手をかけた。
ごくりと息を呑みながら、夾は璇に導かれるままに下半身を曝け出す。
明るい昼日中に秘部を晒すという羞恥に満ちた行動は彼に恥じらいと興奮をもたらしていて、なんだか変態的だが、完全に2人きりであるという今のこの状況ならばそれも正当化できる気がしてならない。
璇は自らの膝上から降ろした夾を長椅子の上で四つん這いにさせると、尻の肉を左右に押し広げ、ひそやかな部分をまじまじと眺めた。
普段ならば決して陽に当たることのないそこは彼の元の肌の色そのままに美しく、中心は桃色をしていて、きゅっと閉じている。
尻の肉を揉むとそれに従ってわずかに はくはく と動く秘部。
璇が軽く息を吹きかけてみると、一瞬びくりと跳ねてから、恥じらいによって一層キュッと引き締まる。
璇は秘部の周囲や尾骨のある部分、そして陰嚢の裏や会陰の辺りへとくまなく口づけだした。
洗い粉の爽やかな香りが残っているそこはそうして口づけているとごくわずかに夾自身の【香り】までもがし始める。
おそらく昨日の発情で多く【香り】を発散させてしまったため、濃くは放つことはできないのだろうが、そのうっすらと漂うのすら香水を上品に纏っているような感じがしてたまらない。
次第に元々甘く勃起していた彼らの陰茎は頭の中を支配している欲に忠実に従うかのように固くなり、そして夾の秘部からもオメガの愛液が滲み始めたのだった。
それを指先で掬った璇は柔らかく揉み解すように、塗り込むようにして秘部と体内を刺激する。
「すごいな、昨日あれだけしたのに…もうこんなに濡れるなんて」
「あっ…せ、璇さん、下が汚れちゃいます、から…」
「…それなら韶が俺の上に乗るか?それなら射精しても椅子は汚れないだろ」
指を3本に増やしながら腹側にある微妙な膨らみと奥にある こりこりとした触感の部分をしつこく攻めると、夾は腰をそらせながら激しくガクガクと震わせて軽い絶頂を迎えた。
秘部からわずかに溢れ出る愛液は夾の会陰を濡らす。
璇がすっかり愛液に塗れた手で自身の勃起した男根を擦ると、それを見た夾はごくりと息を呑み、璇の太ももの上に跨った。
ちょうど璇の男根が尻の割れ目にぴったりと沿う位置に腰を落ち着けながら自らの上衣の留め紐をも解いていく夾。
あらためて明るいところで目の当たりにする彼の胸はまるで彫刻のような美しさを誇っていた。
しっかりとした肩、腕、筋肉の形がうっすらと浮き上がっている脇腹に割れた腹筋。そして立派な胸筋とそこに添えられている小さく控えめな乳首…
璇が両手でそこを包み込むと、夾はかすかに身震いする。
陽の光によって淡い桃色に見えるその乳首は幾度かそこを撫でているといつの間にか ぷっくりとして立ち上がり、摘めるようにさえなった。
唇で食み、咥えてから舌で撫で上げると、夾は色っぽい吐息を漏らす。
璇は手探りで自身の上衣を脱ぎながらも夢中になって夾の乳首を攻め続けた。
「う、あぁぁっ…せん、さん…っ」
彼の尻を両手で鷲掴みにしつつ秘部の中心に直接男根の切っ先が触れるようお膳立てをすると、夾もそれに従って少し膝立ちになり、支え持った璇の男根めがけて腰を下ろしていく。
少しずつ腰を沈め、そして最奥まで呑み込み終えると、全身の力を失った夾は璇に抱きつくようにして倒れ込んだ。
熱い部分が隙間なく触れ合っている中でじわじわと互いの体温を馴染ませていく静かな時間というのは本当に素晴らしいものだ。
激しい抽挿は無しにしても時折口づけて舌を絡ませあったりするだけでも充分心が満たされていく感覚…これこそが本当の意味での『愛を交わす』ということなのだろう。
しばらくの間そうしてじっとしたまま結合を楽しんだ後、夾はようやく璇の肩に手をかけながら少しずつ自らの体を上下させ始めた。
少々ぎこちない動きなので大いにもどかしい感じもあるのだが、むしろこれくらいの方がじっくりと楽しめるのでいいのかもしれない。
自ら感じる場所に肉棒を当てて眉根を寄せつつ喘ぐ夾をさらに感じさせるべく、璇は彼の乳首を弄る。
触れるか触れないかという微妙なところをカリカリと引っ掻いてみたり、指で摘んで捏ねたり、軽く吸い付いてみたり。
すると夾は途端に甘く絶頂したのだった。
「せ、せんさん、それ…やめっ…てください…」
「そんなに気に入ってるのか?」
「っああ!!!」
ぢゅっと音を立てて右の乳首を吸われた夾は痺れるような快感に襲われて思わず飛び上がり、璇の肉棒の先端だけが体内に残っている状態でキツく秘部を締め上げる。
その刺激の強さは璇にとっても耐え難いほどだ。
痛みを感じるほど陰茎を締め付けられた璇はもはやそれ以上動かずにいられるはずもなく、まだ絶頂の余韻に浸っている夾の尻を掴む。
「もう…俺に動かせてくれ」
璇は少し座る位置をずらして長椅子に浅く腰掛けると、背もたれの部分に頭をのせるようにしながら、激しく下から腰を突き上げ始めた。
それまでとは違ってパンパンという尻の肉と腰がぶつかる音が響く抽挿はたちまち夾をさらなる絶頂へと追いやってゆく。
しかしさらに激しく快感に身悶える夾の姿が見たくて堪らない璇は、夾の男根を掴むと、先端のところを親指の腹でぐりぐりと押したり擦ったりしてさらに刺激し始めた。
前と後ろをどちらも激しく扱われていることで夾は我慢できなくなり、璇の下腹部に向けて白濁を放つ。
肩で息をしながらも身も心も溶けてしまうような心地良さに浸る夾だが…しかしそれで終わるはずもない。璇はしばしの間だけ動きを止めた後に再び激しく夾の前と後ろとを刺激しだしたのだった。
射精した後すぐにそうして攻められる辛さは同じ男であるならばアルファもオメガも関係ないことだ。
「や、やめて、やめてくださ…い…!イっ…いま、そんなの…うぅっ、せんさん…っ!!」
「だっ…だめ、ダメです、こわれちゃっ…ああぁっ、も…む、むりです、でちゃっ…!!!」
うわごとのように言いながら天井を仰ぎ見るように喉を反らし、璇に訴える夾。
喉を反らしていることによって身に着けたままのうなじあての留め具の飾りがより目立って煌めいた。
そもそもうなじあてというのはアルファによる『独占欲・所有欲の表れ』ともいえるものだ。
この状況でそれを真正面からはっきりと目にするということはアルファの興奮をさらに高めるための恰好の材料である。
璇はそれまで以上に熱心に自らの番を突いて攻めながら込み上げてくる強い射精感に備えた。
やがて2人はほとんど同時に絶頂を迎えてそれぞれの猛った陰茎から精液を放ったのだった。
どちらのものも長椅子や床には滴ることはなく、一切を綺麗なままに保っていたが、しかし夾が二度目に璇の腹部に向けて放った白濁は一度目のものよりもいくらかさらさらとしていて、濃度は明らかに異なっていたのだった。
ーーーーーーー
長椅子での一幕を終えた後の彼らはさすがにそれ以上激しくはせず、壁際や食卓のそば、浴室などで軽く楽しむだけにとどめてから今度こそ本当に大人しく過ごした。
数えきれないほど連続して絶頂したことによって夾はじっとしていても体の中がビリビリとしているような感覚に襲われ、璇と2人で2度目の湯浴みを終えてから寝台でのんびりとしているときも くすぐったいのを紛らわせるように何度もゴロゴロと寝返りを打つなどしていた。
休暇最終日となる明日には鉱酪通り沿いにあるかかりつけ医の元へ行って咬み痕の状態を診てもらうのと、そして璇の耳に番の証である耳飾りをつけるための穴を開けてもらうことになっている。(璇は自宅で勝手に穴を開けてしまおうと思っていたのだが、夾に医師立ち合いの元でやってもらうべきだと強く説得されたのである)
新しく番になった彼らの時間は酪農地域の一軒家の中で穏やかに流れていったのだった。
発情が収まってからも昼夜構わずひたすらくっつき合い、ほとんど食事もまともに摂らないまま過ごしていた彼らは、翌日のもはや昼になろうかという時刻になってようやく寝台から起き上がることにしたのだった。
激しく身体を動かすなどしていたにもかかわらず疲労感がなく 妙にすっきりとした気分になっているのは、番となって互いの【香り】を存分に感じ合っていたからに違いない。
ずっとそうして寝台で引っ付いていたいと思いながらもやはり動いた分 腹は減るものであり、寝台はさながら全身もなかなかに汚れてしまっているので、2人はまず揃って湯浴みをすることにした。
璇が湯を用意するために浴室へ向かった後、まだ少し寝台から体を起こすには億劫だった夾はそっと自らのうなじに触れてふくふくとした気持ちに浸る。
指先に触れるうなじのはっきりとした咬み痕…
間違いなくそれは彼がこれまで待ちわびてきた『愛の証』だ。
ついに名実ともに璇と番になったのだということを実感して笑みがこらえきれなくなる夾。
浴室の支度を終えたらしい璇が寝台のそばに戻ってきて「韶、先に湯浴みをしてろよ」と声を掛けると より一層番になったという実感が湧いてくるようで堪らない。
甘ったるさでいっぱいの朝だが、今日ばかりはその甘さに酔いしれるのもいいだろう。
寝台から起き上がろうとした夾が自らの中から何かが流れ出しそうになったのを感じて動きを止めると、それを察したらしい璇は夾を横抱きに抱え上げ、浴室へと向かった。
抱え上げられた夾は「そ…そんな、いいですよ、俺は重いでしょう……?」と一応遠慮しながらも、それにかこつけて璇に抱きついたりしていた。
夾の湯浴みは思っていた以上に時間がかかった。
というのもどれだけ掻き出しても中からはとめどなく璇の白濁が漏れ出してきていたからである。
彼が何とか体を洗い終えて浴槽でゆったり体を温めている間、璇は湯浴みを終えた後に着る衣を用意したり寝室の片づけをしたり、洗濯をしたり軽く食べるものを用意したり…となかなか忙しく動き回っていたようで、璇と共に湯浴みをしようかと待っていた夾は結局のぼせてしまう前に湯浴みを切り上げることにしたのだった。
さらさらとした生地の衣に身を包んで浴室を出ていくと、程よく温まった室内はなにやらいい香りに満ちていて、夾はそこでようやく自分が昨日から碌なものを口にしていなかったことを思い出す。
食卓に置かれているお椀には鶏ガラ出汁と共に炊かれた溶き卵の美しい色が映える雑炊がよそわれている。
思わず ぐぅっという腹の音を鳴らした夾に、璇は「お腹すいてるんだろ?そりゃそうだよな」と匙を差し出した。
「いくら好きに過ごしていいとは言っても 多少は健康に過ごせるよう気を遣わないとな」
健康に気を遣って生活したいという考えを璇も同じくしてくれているらしいと知って嬉しくなった夾が何もかも璇1人にさせてしまったことを申し訳なく思っているということを話すと、璇は夾を椅子に座らせて言う。
「違うよ、これはなんていうか…俺がしたくてやってることなんだ。多分これが『アルファの本能』ってやつなんじゃないかな。韶のために何かしてたいっていうか、韶のためにすることはどんなことでも ちっとも苦に思わないっていうか」
「…っていうよりもさ、俺、韶に思ってほしいんだよ『このアルファを番に選んで良かった』って。俺を番に選んで良かったって…そう思ってほしいんだ、がっかりさせたくない」
まさか璇がそんな事を言うとは。
夾は彼が本当に『番になったことを後悔されてしまったら…』と心配しているらしいと知り、その事実が可笑しく愛おしくなって柔らかく微笑んだ。
ーーーーーーー
温かな雑炊を腹に収めてから後片付けと朝の身支度の一切を済ませ、茶を飲みつつあらためて家の中をぐるりと見渡してみる夾。
寝室も食卓も、なにもかも。
棚に置かれている小物の配置ですら何一つ変わっていない いつもとまったく同じ光景であるというのに、どういうわけか室内がそれまでとは異なる温もりに満ちているような気がしてならない。
どう表現するのが適当なのか…とにかく色が鮮やかになったような、穏やかな感じが増したような、そんな感じだ。
その変化というのは彼が璇と番になったために生じたものだろう。
これまでだって充分良いと思えていた世界がそれまでよりもさらにより良いものに見えてくるのだから 本当に不思議なものだ。
浴室から聞こえてくる璇が湯浴みの音、つまり湯の流れる音も心地良くてたまらない。
「………」
…ふと思い立った夾は寝台との壁を挟んだ背向かいに置かれている鏡台の前へと向かった。
この鏡台はその昔 夾の父が母へと贈ったものであり、いわば彼の両親の形見である品だ。
いつも彼が大切に丁寧に手入れをしているため、その鏡面には今も少しのキズも曇りもない。
その前に立った夾はうなじを露出させるようにしつつ、そこが鏡に映るよう少し横向くなどしてみた。
うなじについているその痕は合わせ鏡にしなければ全体像をはっきりと見ることはできないが、しかし端の方の部分だけならばこのままでも目にすることができる。
ようやく触覚だけではなく視覚からもきちんと咬み痕の存在を確認することができた彼はしばらくそうして何度も角度を変えたりしながら咬み痕を眺めた後、部屋の中に大切にしまっておいた【うなじあて】を取り出してきた。
それは璇が夾のためにとあらかじめ職人に依頼して製作し、贈っていたものだ。
2種類の星を表わす紋様が絶妙に組み合わされた意匠が目を引く留め具とうなじの咬み痕部分を直接覆う紺碧の布帯が一組になった うなじあて。
布帯に通したうなじあて本体を首の後ろから当て、前の部分で留め具をカチッと嵌め込むと、彼の首やうなじはほとんど肌色を晒すことなく覆われる。
布帯や留め具はそれぞれ ほどよく伸縮するように造られているおかげで俯いてみても息苦しさを感じることはなく、さらにその上布帯の洗い替えはもちろん 飾り部分に関しても通常のものよりも汚れにくい仕様となっているのだそうだ。まさに彼のためのうなじあてである。
すっかり『番がいるオメガの姿』になった自分に夾が目を瞬かせていると、浴室から戻ってきた璇は濡れた髪を拭いながら「…うん、よく似合ってる」と夾の隣に立って同じように鏡の中を覗き込んできた。
「色もよく似合ってるし、星の紋様も綺麗だし…キツさはどうだ?布に通してる部分でいくらか調節はできるみたいだけど」
「大丈夫です、今くらいがちょうどぴったりだと思います」
「そうか、それなら良かった」
わずかに言葉を交わすと、璇はあらためて鏡に映る夾の姿をまじまじと見つめながら「あぁ…俺達って本当に番になったんだな…」と呟く。
夾はそんな璇の方を振り向くと、ちゅっという軽い音を立ててその頬に口づけた。
唐突に頬に口づけられた璇はお返しとばかりに夾の瞼や額や鼻筋に細やかに何度も口づける。
傍から見ればどうしようもないほど甘く、目を向けていることすら憚られてしまうほどの心酔ぶりを披露している2人だが、当の本人達はお構いなしだ。
「なぁ、韶。今日くらいはこのままダラダラと過ごすのも良いんじゃないか?本を読んだり話をしたりして…適当に何か食べてさ。どうだ?」
「…はい、そうしましょう璇さん。今日はもう外に出るのは止してのんびりしましょう」
「うん」
今日は一歩たりとも外には出るまい。
そう決めた2人は揃って寝台のある寝室へと向かった。
すっかり綺麗になっている寝台の上に腰掛けてのんびりと両足を伸ばす夾。
薄い白の窓掛けを通して射し込んでくる陽射しの温もりに満ちた寝室はなんとも穏やかで安らかな心地にさせる。
昨夜はやりたい放題をしたが その分深く眠りもしていたので、璇も夾も今のところはあまり眠気は感じない。
寛いでいる夾を見つめながら満足そうに微笑む璇は濡れた髪を拭うために肩に掛けていた浴布でおおざっぱに髪を乾かし始めた。
両腕を上にあげて髪を乾かす璇。
彼の湯上りの薄い衣はきちんと留め紐が結ばれているものの、腕を上にあげたことによって上衣の裾が捲れ、彼の腹部を露わにする。
無駄なく引き締まっている腹だ。
なめらかで色白で、縦長のへそとすらりとした筋肉の線が見る者の視線を根こそぎ掻っ攫っていくような…そんな肉体。
衣が捲れ上がったことで見えたその腹部は真裸での状況以上に煽情的で性的な魅力に満ちている。
ごくりと息を呑んだ夾は次の瞬間には璇の捲れ上がっている薄衣の裾を掴んで下へと強引に引っ張り、その腹部を隠そうとしていた。
「ど、どうしたんだ?」
突然の夾の行動に驚いた璇が尋ねると、夾は夢中になって衣を引っ張りながら言う。
「ダメです、ちゃんと隠さないと。他の人に見られでもしたら大変でしょう。璇さんのこういう姿は他の誰にも見せちゃいけないんです、見せたら…璇さんが盗られてしまう」
「璇さんは俺の番です。俺のアルファだから…他の人になんか絶対に渡しません。絶対に、絶対に…」
なんとか璇の腹部を覆い隠そうとする夾だが、璇が着ている上衣はそもそも動きやすいのを好む彼のために少し丈を短くしてあるものなので、そう簡単には思い通りにすることができない。
それでもどうにか隠そうとする夾。
璇はそんな彼の必死さが妙に嬉しくなって「なんだよ、俺が他のオメガに盗られると思ってるのか?」と唇の端に笑みを浮かべた。
「俺はもう韶と番になっただろ」
「だってこんなに素敵な人…見れば誰だって惹かれるに決まってます」
「いやいや、さすがにそれは言い過ぎだって…嬉しいは嬉しいけどさ」
「言い過ぎなんかじゃないです。本当のことですから」
「…言ってくれるね。そういえば俺が胸に紋様を刻むのを反対したのも『体を彫り師に見せないで欲しいから』だったっけ?」
「…そうです」
「俺としては耳飾りよりも胸にきちんと刻みたかったんだけどな」
「だめです。絶対にだめ」
つい先ほどは璇が夾に『俺を番に選んで良かったと思って欲しいんだ』と吐露したのだが、夾の方も璇が誰か他の人間に見初められはしないかと心配でいるらしい。
それほどまでにお互いが相手には自分のそばにいて欲しいと願っているということだ。
璇が夾の頬を手で包み込むと 夾は伏し目がちになって顔を上げる。
恥らっているような、少しむくれているような。
その表情を見つめていると(このかっこよくて可愛くて、愛らしさの塊みたいな韶が…もう今は俺だけのオメガなんだよな…)というふくふくとした思いが湧きあがってきて璇はさらに嬉しくなる。
すると夾はそんな璇に訴えかけるかのようにじっと寝台の方を見つめだしたのだった。
彼の言わんとしていることははっきりとしている。
「さすがに韶の体が心配になってくるんだけど…大丈夫なのか?」
湯浴み上がりの身体はさっぱりしていて気持ちがいいということもあり、再び昨日から散々味わっていた感覚を思い出してしまう。
しかし寝台は綺麗にしたばかり、食事もしたばかりなのだ。
まだ少し小休止が必要だろうということは2人ともよく分かっている。
そのため璇は夾の手を引いて寝台のちょうど真向かいにあるふわふわとした長椅子に座り、そこで横並びで座って寄り添い合ったり、膝枕でもしたりしながらいくらか体が落ち着くまで過ごそうと考えた。
…だが夾は璇の横ではなく彼の膝の上に跨って座る。
少しも迷うことなく流れるように、ごく自然に腰を下ろした夾に璇が苦笑すると、夾は「あ…重い、ですよね」と膝の上から降りようとしたので、璇はそれを引き留めた。
窓から射し込む柔らかな昼の光は夾のあの美しい瞳をより一層輝かせる。
そして真新しいあの うなじあて も…
彼のうなじあての留め具にあしらわれている星の紋様は中央辺りにある小さな星2つが金で造られており、控えめで悪目立ちはしていないのに素地の白金との対比がとても美しく仕上げられている。
白金、金、紺碧
見事に調和したそれらは夾の首筋に元から存在してしかるべきものだったかのようで、それをあらためて真正面から眺めた璇は思わず感嘆のため息を漏らす。
「本当によく似合ってるな…このうなじあて」
すると夾は「そりゃそうでしょう、俺のアルファが俺のためにって造って贈ってくれたものなんですから」とはにかんだように笑った。
璇もそれにつられて笑みを浮かべながら夾の頬を撫でる。
うすい小麦色をした健康的な肌に凛々しさと優しさを兼ね備えたような彼の眉、目元…それらは見つめているだけでもどんな芸術品や装飾品以上に胸をいっぱいにする。
しかしその右の眉のあたりについている傷跡を目にした璇は、ふと表情を曇らせたのだった。
その傷跡は夾が璇をかばった時に負ったあの傷である。
硝子板の端で切ってしまったその傷は陽の光に当たると薄い桃色に煌めいていつもよりも少しだけはっきりと存在感を示す。
璇が申し訳なさでいっぱいになりながらそこを指で撫でると、夾はそんな璇の手を取って『まだ気にしてるんですか』と言いたげな視線を向けた。
肩をすくめながら「…分かってる」と答える璇。
「本当に…番に怪我を負わせるなんて俺はアルファとして失格だな。でも、そんなことがあっても俺と関わろうとしてくれて…ありがとう、韶。韶と一緒にいる時間が大切過ぎて、愛おしすぎて…もう俺達が出逢えてない人生があったらなんていうのも考えたくもないくらいだ。それくらい俺はお前のことが…」
それは璇の本心からの言葉だった。
誰かと番になることなどまったく考えられなかったかつての自分を振り返ってみると、璇はその時の自分の人生が 彩りのない冷たいものに思えてならなかったのだ。
もちろん当時だってそれなりに楽しく毎日を過ごしていたので そんなことは思いもしてなかったのだが。
しかしこのように心も体も満たされる充実した生活を知ってしまった今では もはや1人きりで過ごしていたあの時には到底戻ることなどできるはずもないと思えてならなかった。
すっかり2人でいるのが当たり前になったからである。
もはや『彼と出逢えていなかったとしたら…』などと考えただけでも悲しくなってきてしまうほどに。
すると夾は眉根を寄せてくすくすと笑いながら「俺達が出逢わない人生なんて、そんなのありえませんよ」と声をかけたのだった。
「俺は璇さんと初めて話したあの日にはもう璇さんが自分にとって特別な人だと感じていたんです。自分でも不思議なんですけど…それまで会ってきたどのアルファとも璇さんは明らかに違った、というか。なので俺達は遅かれ早かれ一緒になっていたはずですよ。俺がこの酪農地域で育っていたらもっと早く出逢ってたかもしれないし、逆に工芸地域からここに戻ってくるのがもっと遅かったら出会いも遅くなってたでしょうけど…でもとにかく俺達はこうなっていたはずです。たとえ俺達がベータ同士だったとしても、多分…きっと」
『そうでしょう?』と微笑む夾。
璇はそんな彼のことを「うん、そうだよな」としっかり抱き寄せた。
今のこの瞬間を慈しむかのようにして。
ーーーーー
室内に2つある大きな長椅子はどちらも大人の男が横になって眠れるくらいの大きさがある。
そのうちの1つは窓のそばに置かれているのだが、璇と夾が座っているのはまさにその長椅子だった。
璇が夾の尻を覆うように片手で撫でると、夾は言う。
「俺の身体は丈夫なんです、だからなんともありませんよ。もし心配なら…ご自分で直接確かめてみたらいいじゃないですか」
昨日散々したことを考慮して今日ばかりは大人しくしていようと思っていた璇だったが、そう誘われるとどうにも歯止めが利かなくなってくるもので、ついに彼は「そうか?じゃあ確かめてみようか」と夾の下衣の留め紐に手をかけた。
ごくりと息を呑みながら、夾は璇に導かれるままに下半身を曝け出す。
明るい昼日中に秘部を晒すという羞恥に満ちた行動は彼に恥じらいと興奮をもたらしていて、なんだか変態的だが、完全に2人きりであるという今のこの状況ならばそれも正当化できる気がしてならない。
璇は自らの膝上から降ろした夾を長椅子の上で四つん這いにさせると、尻の肉を左右に押し広げ、ひそやかな部分をまじまじと眺めた。
普段ならば決して陽に当たることのないそこは彼の元の肌の色そのままに美しく、中心は桃色をしていて、きゅっと閉じている。
尻の肉を揉むとそれに従ってわずかに はくはく と動く秘部。
璇が軽く息を吹きかけてみると、一瞬びくりと跳ねてから、恥じらいによって一層キュッと引き締まる。
璇は秘部の周囲や尾骨のある部分、そして陰嚢の裏や会陰の辺りへとくまなく口づけだした。
洗い粉の爽やかな香りが残っているそこはそうして口づけているとごくわずかに夾自身の【香り】までもがし始める。
おそらく昨日の発情で多く【香り】を発散させてしまったため、濃くは放つことはできないのだろうが、そのうっすらと漂うのすら香水を上品に纏っているような感じがしてたまらない。
次第に元々甘く勃起していた彼らの陰茎は頭の中を支配している欲に忠実に従うかのように固くなり、そして夾の秘部からもオメガの愛液が滲み始めたのだった。
それを指先で掬った璇は柔らかく揉み解すように、塗り込むようにして秘部と体内を刺激する。
「すごいな、昨日あれだけしたのに…もうこんなに濡れるなんて」
「あっ…せ、璇さん、下が汚れちゃいます、から…」
「…それなら韶が俺の上に乗るか?それなら射精しても椅子は汚れないだろ」
指を3本に増やしながら腹側にある微妙な膨らみと奥にある こりこりとした触感の部分をしつこく攻めると、夾は腰をそらせながら激しくガクガクと震わせて軽い絶頂を迎えた。
秘部からわずかに溢れ出る愛液は夾の会陰を濡らす。
璇がすっかり愛液に塗れた手で自身の勃起した男根を擦ると、それを見た夾はごくりと息を呑み、璇の太ももの上に跨った。
ちょうど璇の男根が尻の割れ目にぴったりと沿う位置に腰を落ち着けながら自らの上衣の留め紐をも解いていく夾。
あらためて明るいところで目の当たりにする彼の胸はまるで彫刻のような美しさを誇っていた。
しっかりとした肩、腕、筋肉の形がうっすらと浮き上がっている脇腹に割れた腹筋。そして立派な胸筋とそこに添えられている小さく控えめな乳首…
璇が両手でそこを包み込むと、夾はかすかに身震いする。
陽の光によって淡い桃色に見えるその乳首は幾度かそこを撫でているといつの間にか ぷっくりとして立ち上がり、摘めるようにさえなった。
唇で食み、咥えてから舌で撫で上げると、夾は色っぽい吐息を漏らす。
璇は手探りで自身の上衣を脱ぎながらも夢中になって夾の乳首を攻め続けた。
「う、あぁぁっ…せん、さん…っ」
彼の尻を両手で鷲掴みにしつつ秘部の中心に直接男根の切っ先が触れるようお膳立てをすると、夾もそれに従って少し膝立ちになり、支え持った璇の男根めがけて腰を下ろしていく。
少しずつ腰を沈め、そして最奥まで呑み込み終えると、全身の力を失った夾は璇に抱きつくようにして倒れ込んだ。
熱い部分が隙間なく触れ合っている中でじわじわと互いの体温を馴染ませていく静かな時間というのは本当に素晴らしいものだ。
激しい抽挿は無しにしても時折口づけて舌を絡ませあったりするだけでも充分心が満たされていく感覚…これこそが本当の意味での『愛を交わす』ということなのだろう。
しばらくの間そうしてじっとしたまま結合を楽しんだ後、夾はようやく璇の肩に手をかけながら少しずつ自らの体を上下させ始めた。
少々ぎこちない動きなので大いにもどかしい感じもあるのだが、むしろこれくらいの方がじっくりと楽しめるのでいいのかもしれない。
自ら感じる場所に肉棒を当てて眉根を寄せつつ喘ぐ夾をさらに感じさせるべく、璇は彼の乳首を弄る。
触れるか触れないかという微妙なところをカリカリと引っ掻いてみたり、指で摘んで捏ねたり、軽く吸い付いてみたり。
すると夾は途端に甘く絶頂したのだった。
「せ、せんさん、それ…やめっ…てください…」
「そんなに気に入ってるのか?」
「っああ!!!」
ぢゅっと音を立てて右の乳首を吸われた夾は痺れるような快感に襲われて思わず飛び上がり、璇の肉棒の先端だけが体内に残っている状態でキツく秘部を締め上げる。
その刺激の強さは璇にとっても耐え難いほどだ。
痛みを感じるほど陰茎を締め付けられた璇はもはやそれ以上動かずにいられるはずもなく、まだ絶頂の余韻に浸っている夾の尻を掴む。
「もう…俺に動かせてくれ」
璇は少し座る位置をずらして長椅子に浅く腰掛けると、背もたれの部分に頭をのせるようにしながら、激しく下から腰を突き上げ始めた。
それまでとは違ってパンパンという尻の肉と腰がぶつかる音が響く抽挿はたちまち夾をさらなる絶頂へと追いやってゆく。
しかしさらに激しく快感に身悶える夾の姿が見たくて堪らない璇は、夾の男根を掴むと、先端のところを親指の腹でぐりぐりと押したり擦ったりしてさらに刺激し始めた。
前と後ろをどちらも激しく扱われていることで夾は我慢できなくなり、璇の下腹部に向けて白濁を放つ。
肩で息をしながらも身も心も溶けてしまうような心地良さに浸る夾だが…しかしそれで終わるはずもない。璇はしばしの間だけ動きを止めた後に再び激しく夾の前と後ろとを刺激しだしたのだった。
射精した後すぐにそうして攻められる辛さは同じ男であるならばアルファもオメガも関係ないことだ。
「や、やめて、やめてくださ…い…!イっ…いま、そんなの…うぅっ、せんさん…っ!!」
「だっ…だめ、ダメです、こわれちゃっ…ああぁっ、も…む、むりです、でちゃっ…!!!」
うわごとのように言いながら天井を仰ぎ見るように喉を反らし、璇に訴える夾。
喉を反らしていることによって身に着けたままのうなじあての留め具の飾りがより目立って煌めいた。
そもそもうなじあてというのはアルファによる『独占欲・所有欲の表れ』ともいえるものだ。
この状況でそれを真正面からはっきりと目にするということはアルファの興奮をさらに高めるための恰好の材料である。
璇はそれまで以上に熱心に自らの番を突いて攻めながら込み上げてくる強い射精感に備えた。
やがて2人はほとんど同時に絶頂を迎えてそれぞれの猛った陰茎から精液を放ったのだった。
どちらのものも長椅子や床には滴ることはなく、一切を綺麗なままに保っていたが、しかし夾が二度目に璇の腹部に向けて放った白濁は一度目のものよりもいくらかさらさらとしていて、濃度は明らかに異なっていたのだった。
ーーーーーーー
長椅子での一幕を終えた後の彼らはさすがにそれ以上激しくはせず、壁際や食卓のそば、浴室などで軽く楽しむだけにとどめてから今度こそ本当に大人しく過ごした。
数えきれないほど連続して絶頂したことによって夾はじっとしていても体の中がビリビリとしているような感覚に襲われ、璇と2人で2度目の湯浴みを終えてから寝台でのんびりとしているときも くすぐったいのを紛らわせるように何度もゴロゴロと寝返りを打つなどしていた。
休暇最終日となる明日には鉱酪通り沿いにあるかかりつけ医の元へ行って咬み痕の状態を診てもらうのと、そして璇の耳に番の証である耳飾りをつけるための穴を開けてもらうことになっている。(璇は自宅で勝手に穴を開けてしまおうと思っていたのだが、夾に医師立ち合いの元でやってもらうべきだと強く説得されたのである)
新しく番になった彼らの時間は酪農地域の一軒家の中で穏やかに流れていったのだった。
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