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第二百五十九話 震える手

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「たっ、たいへんだーーーーーー!!!!」

 和歌山城ホールのアンナメーダーマンショーの最中に警察隊の隊長さんが駆け込んできました。
 すぐに係の人に取り押さえられたのですが、いったい何があったのでしょう。
 ピーツインは怪人に捕まって、助けられるアイドル役です。
 今日のこのステージが千秋楽なのに、水をさされた感じになっています。

 私達は、アンナメーダーマンに助け出されれば出番は終わりです。
 出番を終らせると、隊長さんの所に行きました。

「あの、なにがあったのですか」

 あずさちゃんが、ステージ衣装のまま聞きました。
 隊長さんは口にしっかり猿ぐつわをされています。
 あずさちゃんが口に人差し指を立ててから、猿ぐつわをゆっくり外します。

「し、ししし、城に大きな白旗が上がりました」

 慌てていますが、声のトーンは小さくしています。

「なっ、何ですってーー!!」

 会場に聞こえるくらいの大声を出しました。
 あずさちゃんは全員に、にらまれます。
 自分で人差し指を口に当てます。
 囲んでいる全員がうなずきます。

「なんで、もっと早く教えてくれないのですか」

「ええっ!?」

 隊長さんが驚いています。
 確かに、理不尽ですよね。でも、子供は大人によくそうやって怒られます。しかたがありません。

「ヒマリちゃん行こう、急がないと」

 そうです。こうしてはいられません。
 ボヤボヤしていると、あの人達は腹を切るかもしれません。
 でも、さすがにアイドル衣装のままでは失礼です。

「あずさちゃん、慌てすぎです。まずは着替えないと」

「ヒマリちゃんはやっぱりすごいです。こんな時でも冷静で落ち着いています。いつも助けられます。ありがとうございます」

 あずさちゃんが抱きついてくれました。
 いいえ、私は全然すごくありません。
 本当にすごいのはあずさちゃんなのに、私は何も出来ていないのに。
 でも、とても嬉しいです。

 あずさちゃんの顔を見ると、涙が浮かんでいます。
 お城の人の事を真剣に考えている証拠ですね。とてもかわいいです。
 私達は、人の目も気にせず衣装を脱ぎました。
 男の人が全員手で顔を覆います。
 でも、指に隙間があって、黒目がそこから出ています。
 それって見えていますよね。

 でも安心して下さい。私達は真っ白な水着を着ています。
 フリフリスカートに、スライムのプリントがお尻に付いたかわいい水着です。

 すぐにその上に中学の制服を着ました。
 私がブレザーで、あずさちゃんはセーラー服です。
 中学生の正装です。
 着替えたら、あずさちゃんが私の手を握りました。

「クザン、シュラちゃん」

 二人を呼ぶと四人で一塊になります。

「隊長さん。とうさんにも伝えて下さい。私達は先に行きます」



 私達は城の結界が解除された通路の前にテレポートしました。
 昨日までは衛兵さんがいましたが、もうその姿はありません。
 お城を見ると、大きな白い布が外に出されています。

「行こう」

 あずさちゃんが真剣な目になりました。
 私も真剣な顔をしてうなずきます。
 後ろに警察隊の方が駆け寄って来ました。

「お待ち下さい。何があるかわかりません。お供をさせて下さい」

「二名だけ同行を許します」

 あずさちゃんが毅然とした威厳を持った口調で言いました。
 か、かっこいいです。いつものいたずら小娘とは思えません。
 しびれます。もはや王者の風格を感じます。

「はっ!!」

 警察隊の隊員さんもそれを感じたのか、顔が緊張して冷や汗のような物が顔に流れました。
 お城へと続く道を、慌てること無く進みます。
 すでに人の気配がありません。

「お城の人はどうしました?」

「はっ! 白旗が上がると同時に、数十人我らの前に現れましたので保護しました」

「数十人ですか?」

「はっ! それ以外は全員、昨晩城の外に脱走したようです」

「そうですか」

 門をくぐると、立派な天守閣が目の前です。
 あずさちゃんは、天守閣の前でいったん止ると、下から全体を見つめます。
 私も真似をして、見上げました。
 人の気配がしません。
 誰もいないように感じます。

「行きましょう」

 あずさちゃんが私の手を握りました。
 少し汗でしっとりしています。
 心なしか小さく震えているようにも感じます。
 実は、あずさちゃんは三月生まれ、私は四月生まれです。
 学年は同じですが、一年くらい私がお姉さんなのです。
 私がしっかりしないと、そう思いました。

 誰もいない天守閣の階段を上り、最上階につきました。

「よかった」

 あずさちゃんは、誰にも聞こえないような小さな声で言いました。
 心の声が漏れ出てしまったようです。

 六人の男の人が白い着物を着て、私達の気配を感じると素早く平伏しました。
 三人が前列で、後ろに三人がいます。
 後ろの三人の横には長い日本刀が有り、前の三人の前には短刀があります。

 前列の中央が御頭です。
 あの髭に見覚えがあります。
 あずさちゃんが、警備隊の人にちょんちょんと指で合図を送りました。
 隊員は慌てていましたが、落ち着きを取り戻すと、意味を理解して息を大きく吸いました。

「おもてを上げよ」

 重々しく言いました。
 ゆっくり、全員が顔を上げました。
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