先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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唾液まみれの腋:01

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柔らかく、湿った皮膚。
押し当てられた熱が
頬から額、鼻先、
顎にまで伝わってくる。

ぬる……っ、すり……

ぬるり、と動いた。

汗と唾液と皮脂と──そして香り。
それらすべてが、肌を介して
柊の顔に“塗られて”いく。

くちゅ……ぬちゃ……

「……ほら、もっと」

「ちゃんと吸ってください。
 匂い、逃げちゃいますよ?」

すり……すり、くちゅ……

颯の動きは緩やかで丁寧だった。
でも確実に、香りは染み込んでいく。

両側から挟まれる熱と匂いに
柊の呼吸が乱れる。

「……はっ、……ふ……ぅ」

すぅ……はぁっ……くん、くん……

息を吸えば吸うほど
肺の中まで香りが入り込む。
鼻腔に残っていた“自分”の匂いが
どんどん上書きされていく。

「先輩……
 だいぶ染まってきましたよ?」

「顔からすごく……僕と先輩の
 いやらしい匂いがしてる」

「このまま誰かに会ったら、絶対バレちゃう」

「“誰の匂いか分かる?”って、
 聞いてみます?」

**ふふっ、**くす、と笑う声。
けれど、その言葉すら
今の柊には遠かった。

目を閉じ、呼吸を浅くしながら、
ただ、肌にすり寄る
そのいやらしい匂いを吸い続けていた。

ぬる……くちゅ、すっ……すうっ……

自分の唾液のぬるさと、
颯の汗の湿度が混ざり
どこまでも濃厚な匂いになっていた。

それが顔中に馴染んでいく感覚。

ぴと……じわっ……すり、すり……

皮膚が、染められていく。

顔だけじゃない。
喉の奥まで、その匂いで埋まっていく。

(……俺、もう……)

(完全に、ダメだ……)

ふと、鼻先を動かすと
そこからふわりと
また香りが立ち上がる。

──じわっ……くん……

──自分の顔から、
 俺と颯の匂いがする。

その事実に、背筋がぞくりと震えた。

「……えへへ。
 これで完全に馴染みましたね」

「……先輩の肌も、呼吸も
 今はもう僕のものです」

「……嬉しい」

そう囁く声が、どこまでも穏やかで、
どこまでも──支配的だった。

▶︎

すっかり香りに
染められたまま、
柊は床に仰向けで息を吐いていた。

喉の奥がじんじんと
熱を帯びている。

目を開ける気力すら
もう残っていなかった。

そんな柊の上で
颯がふわりと身を起こす。

「……今日はここまでに
 しておきますね」

囁きはあくまで優しく
どこまでも柔らかかった。

そして顔を覗き込んだその表情は、
さっきまでとはまるで違っていた。

色気も支配欲も滲ませていない。

無邪気で、あどけなく
ただひたすらに可愛らしい──
“いつもの”颯の笑顔。

「先輩、動けませんよね?」

そう言うと
颯は軽やかに立ち上がり、
洗面所に向かって歩いていった。

戻ってきた手には
濡らしたタオル。

跪くようにしゃがんで、
タオルをそっと柊の頬に当てる。

「冷たすぎたらごめんなさい」

ゆっくりと、優しく拭っていく。

脇で擦られた頬も、鼻先も、額も──
なぞるように丁寧に。

肌の表面に塗られた匂いを、
まるで自分の手で
“拭き取ってあげている”かのように。

けれど──香りは消えなかった。
むしろ、タオル越しに
ふわりと立ち上るたび、

“それは確かにここにあった”ことを
改めて刻みつけられていく。

「……きれいになりました」

そう言って、またあの笑顔。

まるで、何ひとつ特別なこと
なんてなかったかのように。

肌に残る体温も
鼻の奥に残る香りも、
全部──あの“あどけない笑顔の青年”
から与えられたものだった。

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