先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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跨る支配:02

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唇が触れ合ったまま
柊は小さく震える吐息をこぼした。

そのまま、そっと目を閉じ――
意を決して、名前を呼ぶ。

「……颯」

わずかに掠れた声だった。
けれど、それは確かに届いた。

途端に、颯の身体がびくりと震える。

目を見開いたまま
何かが溢れ出すように
震えた声で応える。

「……いま……僕の名前……」

吐息が熱を帯びる。
じんわりと頬が紅潮していくのが
至近距離でもはっきりわかる。

「うれしい……っ」

まるで、心の奥を撫でられた
みたいに、声が甘く揺れる。

「はじめて……下の名前……
 呼んで、くれましたね」

頬をすり寄せるように
柊の肩に顔を埋める。

「……名前で呼ばれるのって
 こんなに……ドキドキするんですね」

「ねえ、先輩……
 もう一度だけ、呼んでください」

再び顔を上げて、潤んだ目が
真っ直ぐ柊を見つめてくる。

「……きっと、その一言で
 もっと支配したくなっちゃいます」

言葉と一緒に、吐息が柊の唇をなぞる。
喜びに震えたままの瞳は
完全に――満たされた獣のようだった。

目の前の颯は、まるで
子どもみたいに笑っていた。

嬉しそうで、無防備で…… 
だけどその笑顔の奥に
どこか異質な光が
潜んでいる気がした。

柊の胸が
わずかにざわつく。
喜ばせたいわけじゃない。

なのに――また名前を
呼んでやりたくなる衝動にかられる。

どうしてだろう。
なんでこんなにも、彼に引っ張られる?

――俺、何をしてるんだ。

ほんの数日前まで、ただの部下だった。
可愛い後輩で、素直で礼儀正しくて
教えた仕事はすぐに覚える。

それだけだったはずなのに。

柊は視線を逸らすように目を閉じた。

頬にはまだ、颯の体温が残っている。
鼻腔には、あの匂いが
微かに漂っている気がする。

心臓の鼓動だけが
やけに耳に響いた。

颯は、ゆっくりと目を細めた。

「先輩……戸惑ってます?」

「でも、それでいいんです
 焦らなくて」

「ゆっくりでいいから……
 僕のこと、ちゃんと
 “知って”ください」

その言葉がやけに真っすぐで
また胸の奥をざらつかせた。

▶︎

颯は、柊の膝の上に
座ったまま微笑んでいた。

その表情はどこまでも無邪気で
でも──明らかに狙っている。

「先輩。今日はどういうつもりで
 僕の家に来たんですか……?」

膝にかかる体温。
間近に感じる吐息。

見下ろす位置から
いたずらっぽく首をかしげる。

「さっきから……
 ほんのり震えてる気がします」

「お酒のせい、ですか?」

「それとも、僕のせい……?」

ふっと笑って
颯は両手を柊の肩に添えた。

「だって、こんな距離なのに」

「まだ“降りて”って
 言わないじゃないですか」

「本当は、ちょっと……
 僕の部屋に誘われて
 期待してたんじゃないですか?」

唇が、耳のすぐそばに近づく。

「今日は、飲むだけのつもり……
 だったんですか?」

「“それだけ”で、帰るつもり……?」

肩越しに感じる柔らかな体温。
ほんのりと汗ばむシャツ越しに
柊の鼓動が早まる。

「そもそも僕がこうして
 膝に乗ってること……
 変だと思いませんか?」

「部下の僕がですよ?同じ男なのに……
 でも、降ろさないでキスをして
 舌を絡めて、感じて
 くれるってことは……」

「やっぱり、期待してたんですよね?」

低く、甘く、耳を撫でるような声。

「……もっと
 惑わしてもいいですか?」

颯の膝の上からの支配は
まだ始まったばかりだった。

▶︎

「先輩のこういう顔……
 ずっと見たかったんです」

膝の上で揺れるように
体重をかけながら、颯はにこっと笑った。

その表情は、無邪気を
まとったままどこか妖しい。

指先が、柊のネクタイにそっと触れる。

くるくると巻くように
指を絡めながら、顔を寄せた。

「緩めてもいいですか?」

吐息が首筋をかすめた。
かすかなぬくもりと
香りが混ざって、思考がぼやける。

「なんか……ちょっと
 汗の匂いがしてきました」

「嗅いでもいいですか?」

まるで冗談みたいな声色で
だけど本気の目をしてる。

「先輩の……蒸れた汗の匂い」

そのまま、ネクタイを少しだけ引く。
ふいに顔が近づき、喉元へ頬を寄せた。

「……あ、ちょっと緊張してますか?」

「舌、出して…下さい…」

「緊張を吸って……あげます」

囁きは、耳のすぐそばで──

言われるがままに舌を差し出す。
その乾いた舌先を颯は優しく咥える。

ぬちゃっと湿った音が鳴る。

そして、顔を離さぬまま
ぴたりと見つめる。
甘く、静かに、確信を持って。

「“僕のこと”を、どう思ってるか──」
「そろそろ、自分でも気づきませんか?」
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