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家庭的な颯:02
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──なんだ、この落ち着かなさは。
静かな部屋に鍋の煮える音と
キッチンに立つ颯の包丁の
リズムが淡々と響いている。
目を逸らそうとするほど
視線がそちらに吸い寄せられてしまう。
ごまかすように立ち上がり
柊は台所へと足を運んだ。
「……なんか手伝おうか」
不意に声をかけると
颯は少し驚いたように目を見開いたが
すぐにやわらかい笑みを浮かべる。
「嬉しい。じゃあ、こっちの具材
順番にお鍋に入れてもらってもいいですか?」
そう言って
丁寧にトレーを差し出してくる。
「まずは白菜から。きのこと豆腐は
後で入れたいから、取っておいてくださいね」
「了解」
柊は言われた通りに
湯気の立ち上る鍋へと
白菜をくぐらせる。
無理に何かを話す必要もなく
ただ隣に立って、黙々と手を動かす。
その横で、颯は出汁の味を確認したり
小皿にタレを分けたりと
手際よく支度を進めていく。
そんな姿を見ていると
ふとこぼれた言葉があった。
「……神城って
いい上司になれそうだな」
颯は、嬉しそうに笑った。
「ほんとですか? ……でも、
僕はずっと、先輩の部下でいたいですよ」
冗談めかしたその口調は
軽やかだけど、どこか芯がある。
まっすぐな目でそう言われて
柊は返す言葉を探せず
思わず視線を落とした。
「あ、もうすぐ食べごろかも。
味見してみます?」
そう言って、颯は鍋の中を覗き込む。
「……お願いします」
思わずそう返していた。
気がつけば、颯のペースに乗せられている。
それが心地よくもあり
どこかくすぐったくもあった。
▶︎
湯気が立ちのぼる鍋を
テーブルの中央に置くと
部屋は一気にあたたかな空気に包まれた。
小皿に取り分けた野菜やつみれから
食欲をそそる匂いがふんわりと漂う。
「いただきまーす!」
颯の声が先に響いた。
続いて、柊も小さく
つぶやくように返事をする。
「いただきます。」
箸を動かしながら
ふたりの間には
自然な静けさがあった。
会話がなくても、
鍋からすくい合うだけで
不思議と空気は満たされていた。
「このつくね、
自分で練ったんです。どうですか?」
颯が、柊の表情をじっと見つめる。
頬に箸を添えながら
柊は少し考えるふりをして
──照れ隠しのように目をそらした。
「めっちゃくちゃうまい」
「えへへ…よかったあ!」
笑顔でお茶を口に含んだ颯は
そのあと何気なく鍋を
見つめながらぽつりと言った。
「こうして先輩とご飯食べるの
やっぱり落ち着きます。」
「はは……なんだろうな。
確かに俺もそう思う。」
曖昧に返す柊の声は
少しだけ掠れていた。
胸の奥に沈めた感情が
食事の熱気でじわじわと
滲み出していくようだった。
「僕は……先輩と、もっといろんな
時間を過ごしてみたいです」
そう言って
颯は鍋に新しい具材を
追加しながら
あくまで穏やかに微笑んだ。
それは、仕事中に見せる
あの“可愛い後輩”と変わらない笑顔。
でも、その笑顔の奥に
柊だけが知っている“夜の顔”が
ちらついて見えた。
でも、それ以上に……
何か言葉では言い表せない
もどかしさも感じた。
思わず熱い鍋の具材で
口元を誤魔化すようにすすった。
──落ち着いた食事の時間。
けれど、どこか火照ったような
胸の奥がざわつくような
感覚がずっと残っていた。
静かな部屋に鍋の煮える音と
キッチンに立つ颯の包丁の
リズムが淡々と響いている。
目を逸らそうとするほど
視線がそちらに吸い寄せられてしまう。
ごまかすように立ち上がり
柊は台所へと足を運んだ。
「……なんか手伝おうか」
不意に声をかけると
颯は少し驚いたように目を見開いたが
すぐにやわらかい笑みを浮かべる。
「嬉しい。じゃあ、こっちの具材
順番にお鍋に入れてもらってもいいですか?」
そう言って
丁寧にトレーを差し出してくる。
「まずは白菜から。きのこと豆腐は
後で入れたいから、取っておいてくださいね」
「了解」
柊は言われた通りに
湯気の立ち上る鍋へと
白菜をくぐらせる。
無理に何かを話す必要もなく
ただ隣に立って、黙々と手を動かす。
その横で、颯は出汁の味を確認したり
小皿にタレを分けたりと
手際よく支度を進めていく。
そんな姿を見ていると
ふとこぼれた言葉があった。
「……神城って
いい上司になれそうだな」
颯は、嬉しそうに笑った。
「ほんとですか? ……でも、
僕はずっと、先輩の部下でいたいですよ」
冗談めかしたその口調は
軽やかだけど、どこか芯がある。
まっすぐな目でそう言われて
柊は返す言葉を探せず
思わず視線を落とした。
「あ、もうすぐ食べごろかも。
味見してみます?」
そう言って、颯は鍋の中を覗き込む。
「……お願いします」
思わずそう返していた。
気がつけば、颯のペースに乗せられている。
それが心地よくもあり
どこかくすぐったくもあった。
▶︎
湯気が立ちのぼる鍋を
テーブルの中央に置くと
部屋は一気にあたたかな空気に包まれた。
小皿に取り分けた野菜やつみれから
食欲をそそる匂いがふんわりと漂う。
「いただきまーす!」
颯の声が先に響いた。
続いて、柊も小さく
つぶやくように返事をする。
「いただきます。」
箸を動かしながら
ふたりの間には
自然な静けさがあった。
会話がなくても、
鍋からすくい合うだけで
不思議と空気は満たされていた。
「このつくね、
自分で練ったんです。どうですか?」
颯が、柊の表情をじっと見つめる。
頬に箸を添えながら
柊は少し考えるふりをして
──照れ隠しのように目をそらした。
「めっちゃくちゃうまい」
「えへへ…よかったあ!」
笑顔でお茶を口に含んだ颯は
そのあと何気なく鍋を
見つめながらぽつりと言った。
「こうして先輩とご飯食べるの
やっぱり落ち着きます。」
「はは……なんだろうな。
確かに俺もそう思う。」
曖昧に返す柊の声は
少しだけ掠れていた。
胸の奥に沈めた感情が
食事の熱気でじわじわと
滲み出していくようだった。
「僕は……先輩と、もっといろんな
時間を過ごしてみたいです」
そう言って
颯は鍋に新しい具材を
追加しながら
あくまで穏やかに微笑んだ。
それは、仕事中に見せる
あの“可愛い後輩”と変わらない笑顔。
でも、その笑顔の奥に
柊だけが知っている“夜の顔”が
ちらついて見えた。
でも、それ以上に……
何か言葉では言い表せない
もどかしさも感じた。
思わず熱い鍋の具材で
口元を誤魔化すようにすすった。
──落ち着いた食事の時間。
けれど、どこか火照ったような
胸の奥がざわつくような
感覚がずっと残っていた。
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