先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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24.

甘く蕩けるバレンタイン:01

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そして、2月。
街が甘い香りに包まれる季節──
バレンタイン。

会社でも例に漏れず
休憩スペースやデスクに
チョコレートの山ができていた。
その中心にいるのが、まぎれもなく颯だった。

「神城くん、これ、
 手作りなんだけど……よかったら……♡」

「こっちは小分けにしてあるから
 気軽に受け取ってねっ」

笑顔で差し出されるチョコの数々に、
颯は人懐こい笑顔を返して
律儀に「ありがとうございます」と受け取っていく。

その様子を横目に、柊のデスクにも
次々とチョコが積まれていく。

「御影さんもどうぞ!
 いつもお世話になってます!」

「これ、口に合うかわかりませんけど
 ……よければ……」

すでに引き出しは
甘さでいっぱいだった。

そこへ、同じフロアの
同期社員が顔を出してきて──
ニヤニヤと、からかうように言ってきた。

「おーおー、柊颯コンビは
 相変わらず大人気だなぁ」

「女子社員の目、キラッキラしてるぞ。
 あの2人尊すぎるって、さっき騒いでたわ」

「……やめてくれ」

柊は苦笑しながら
思わず額に手を当てた。

「本当にもう……あれ、
 仕事中に言われると反応に困るんだよな……」

一方その頃──颯も隣の席で、
机いっぱいに広がった
チョコの山に囲まれていた。

「うわぁ……すごい……
 どれから食べよう……」

「いや、開けたらまずい……
 でも気になる……うーん……」

頬をほんのり染めながら
悩むその姿は、
誰が見ても“無自覚なアイドル”のようで。

そんな颯に、柊がぽつりと
現実を突きつけた。

「……お返し地獄、大変だぞ」

「全部に返すつもりなら
 ホワイトデー破産だな」

「えっ……」
颯が動きを止める。

「えっ……うそ……
 それって……全員分……?」

「……うわぁぁぁぁぁぁあ!!」

天を仰ぐように肩を落とし、
大げさなリアクションで
机に突っ伏す颯の姿に、
柊は思わず吹き出してしまう。

「……しっかり詰むタイプだよな」

「まあ、がんばれ。人気者」

「先輩もっ、
 もらってたじゃないですかっ!」

「俺はもっと地味に返すよ……」

オフィスの窓からは
冬の陽射しが差し込み、
そこだけ少し早い春のような
やわらかい空気が流れていた。

 


仕事が終わった後、
柊と颯は2人で飲みに出かけた。

グラスを重ねるたびに、
赤みを帯びた照明が、いつもより柔らかく滲んでいく。

「……このバーも、もう慣れちゃいましたね」

そう言って微笑む颯の声は
アルコールでわずかに熱を含んでいた。

ふたりで初めて訪れたあの夜から、
気づけば何度も足を運ぶようになり、
カウンターの一角の席はいつしか
ふたりの指定席になっていた。

グラスの中でカクテルが揺れ、
柊は黙ってそれを口に運ぶ。
頬にほんのり熱が差し
心地よい酩酊感が身体にゆるく広がっていく。

その隣で、颯が一口、ワインを啜った。

「……ねえ、先輩」

唐突に呼ばれ、ふと目を向けると──
すでに、あの“スイッチ”が
入っていることに気づく。

艶のある声。
酔いに紛れたような
けれど意図を孕んだ目線。

「今日は……バレンタインなので...」

「……ああ」

「……せっかくだから、もう一杯だけ。
 部屋で、飲み直しませんか?」

ふと耳元に落ちてきたその囁きは、
まるで風のようにさらりとしていながら、
柊の理性の中へ
確かに痺れる熱を残していく。

言葉の裏にあるものを
柊は理解していた。

“ただの一杯”で済まないことも。
“ただの飲み直し”ではないことも。

──身体が疼く。

少しだけ、視線を伏せた。
触れられることへの予感。

翻弄されることへの
ある種の甘やかな覚悟。

いや、違う。

これはもう、予感ではない。

あの手に、言葉に、
少しずつ馴らされてきた結果だ。

ご褒美、が欲しいのか。
それとも、躾、を望んでいるのか。

喉が鳴ったのをごまかすように、
柊は静かにグラスを空ける。

「…もちろん。付き合うよ」

そう応じた声は
自分でも驚くほど低く掠れていて。

それを聞いた颯は
わずかに唇をゆがめて笑った。

まるで──

“最初から、こうなるとわかっていた”

"断ることなんてできない"

そんなふうに。
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