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16.第二の試練『機転』

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「おめでと~ 第一の試練クリアじゃ!」

 少女の声で祝福され、入り口とは反対方向の壁に黒い扉が生成される。
 
「見事試練をクリアした者よ! 主らを資格ありと認めよう! 目の前に扉が出来たじゃろ? その先へ進むが良いぞ」
「と言っていますし、行きましょうか先生」
「ええ。ここからが大変そうね」

 第一の試練はその名の通り、単なる腕試しだった。
 ハッキリ言って拍子抜け。
 この程度なら試練とは呼べない。
 ドラゴンが造った迷宮で、ドラゴンが私たちに課す試練がこの程度のわけがない。
 そう感じて先へ進む。
 扉を開けると、入り口と同じように一本道が続いていた。
 違うのは明かりの色だ。
 道を灯すランタンの炎が、青から橙色に変化している。
 真っすぐ先へ歩いていくと、同様の扉が見えてきた。

「開けましょう」
「はい」

 アレクが扉を開ける。
 扉の先も、一つ目の試練と同じ巨大な空間だった。
 しかし別の部屋ではある。
 床には大穴が空いていて、反対側まで続く橋が一本だけ用意されていた。
 私とアレクは橋の前で立ち止まる。

「この道を渡れということでしょうか?」
「どうかな。たぶん試練内容の説明がもうすぐあると思うわ」
 
 待機し、数秒時間が経過する。

「第一の試練を突破した者よ! 次なる第二の試練は『機転』じゃ!」
「機転?」
「腕試しとは毛色が違いそうだね。とりあえず内容を聞いてみよう」
「――ワシらドラゴンは永久に近い時を過ごしてきた。時代の流れとは早いもので、瞬きするまに世界は変わっていた。本当にあの頃は大変じゃった」

 なんだか急に老人みたいなことを言い出したな。
 長い世間話でも始まりそうだ。
 と、思っていたら……

 ニ十分後――

「ワシらの遊びについてこれる者も少なかったからのう。楽しいことを探すのも大変じゃったわ」
「……長い」
 
 ぼそりと声が漏れる。
 まさか本当にただの世間話が延々と続くなんて、予想外過ぎる。
 しかも大して面白くもない。
 昔の貴重な話が聞けるなら良かったけど、ほとんど遊びのことばっかりだ。
 ドラゴンていうのは暇してたの?

「先生一つ提案なのですが」
「なに?」
「もう無視して進みませんか?」
「え、いやさすがにそれは良くないんじゃ……」

 一応試練だし、扉も見当たらないし。
 何よりあからさまな橋を不用心に渡るのは危険だ。
 アレクの気持ちもわかる。 
 すごくわかるけど、今は耐えたほうが良い。

「もう少し待とうよ」
「先生がそうおっしゃるなら……」
 
 さらにニ十分後――

「いや~ あの時はワシも若かったのじゃ~」
「……先生」
「わかる。言いたいことはすっごくわかるけど落ち着いて」

 アレクは腰の剣を抜く寸前だった。
 つまらない話を聞かされ、四十分待たされ、苛立ちもピークに近い。
 私はまだ大丈夫。
 これでも長い年月を生きているから、長話も半日くらいは耐えられる。
 とは言えさすがに……

「そろそろ試験内容を教えてほしいね」
「まったくです」
「おっと忘れておった! 試練の内容を説明せねばならんかったのう」

 私たちの気持ちが届いたかのように、少女の声は役目を思い出した。
 それを聞いて一安心する私とアレク。
 二人して同時にため息をこぼす。

「第二の試練は『機転』! 世界には多くの問題がある。それらを解決するためには力や知恵だけでは不足じゃ! 時に大胆な発想や転換、すなわち機転が不可欠! 機転を使って向こう側へ渡り切れ! ただし魔法は使えぬがな」
「え?」

 振動音が響く。
 途端、天井に魔法陣が展開される。

「あれは魔法無効化の結界?」
「そのようですね。魔法の行使が制限されました。ただ魔力そのものは制限されていないようですね」

 私も試しに魔法を使おうとして見る。
 しかし残念ながら使えない。
 この結界……アレクの部下が使った物と似ているけど、効果は天と地ほどに差がある。

「魔法は禁止ですか。中々な設定ですが、向こうに渡るだけなら簡単では?」
「どうかな?」

 外見だけなら簡単に見えるけど、果たしてそうだろうか?
 試しに私は一歩、橋へ足を踏み出す。

「――っ!」
「先生!?」

 私は咄嗟に足を戻す。
 足が端に触れた瞬間、急激に魔力を吸収されてしまった。
 
「アレク、君は絶対にこの橋に触れないで。触れると魔力を吸われる」
「魔力吸収?」
「ええ。しかもかなり強力ね。私は魔女だから耐えられたけど、人間なら数秒で全部持っていかれるわ」

 いかに私と言えど、向こう側まで渡り切る前に魔力が尽きる。
 つまり、この橋は渡れない。
 飛び越えるのも無理そうだ。
 魔力で肉体を強化しても、一階のジャンプで届く距離じゃない。

「なら壁を伝っていくのはどうですか? 入り口の扉が閉じていた要領で、魔力の流れを使って壁を歩けば」
「それも無理だと思うよ。違和感があって先に床を調べたんだけど、魔力の流れを遮断する仕組みになってる。たぶん他の壁も」

 アレクが壁に手を触れる。
 そして理解する。

「なるほど。となれば……」
「ええ。この橋をどうにかして渡る以外ないわ」

 しかし触れれば超吸収の餌食になる。
 魔法が使えれば簡単な話も、こうなってくると難しい。
 いかに普段から魔法に頼っているかがわかる。
 彼女は機転が大事だと言っていたけど、実際どうやって触れずに……

「あれ?」

 待って?
 この橋の効果も魔法によるものよね?
 でも不自然だ。
 だってこの部屋には、魔法無効化の結界が施されているんだから。
 仮に魔導具を使っていても影響を受ける。
 じゃあどうして、この橋だけは例外になって……?

「そっか。落ちて良いんだ」
「先生?」
「ちょっと行ってくるね」
「はい? え、先生!?」

 私は飛び出した。
 橋に向って、ではなく大穴へ。

「何をして――って浮いてる?」
「やっぱり思った通り!」

 予想通り、大穴では魔法が使える。
 魔法は使えない。
 そのセリフをそのまま、魔法使用の禁止だと思っていた。
 別に禁止されていないんだ。
 結界の効果は全域ではなく、床から上が有効範囲。
 すなわち穴に落ちてしまえば、飛翔の魔法もこの通り使える。

「機転ってそういうことですか」
「みたいだね」

 橋を渡るではなく、あえて落ちる。
 魔法が使えないからこそ、あえて使う。
 機転というより、気づけるかどうかだったらしい。
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