辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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リーナの章

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 リッシェルの街は復興を始めた。
 人々は呪具によって活動できなかった一か月以上の時間を取り戻すべく、汗水たらして働ている。
 復興の手伝いをするつもりだったが、街の人々に必要ないと言われてしまった。
 
「ここは私たちの街です。ここから先は、私たち街の人間の仕事……賢者様はどうか、ご自身の役目を全うしてください」

 そう言われてしまったら、無理に手伝うのは逆に無礼だと思った。
 俺の役目は呪具を全て回収すること。
 今のどこかで、呪具の力に呑まれた人間が悪事を働いていることだろう。
 それを止めることこそが俺の役割。
 俺たちはリッシェルの街に別れを告げて、次なる目的地へ向け旅立った。

「またしばらく野宿ぅ?」
「文句言わない。一日でもベッドで休めただけよかったわ」
「そうだよ。私たちは旅人なんだから」

 スピカはリッシェルの宿が気に入ったらしい。
 名残惜しさを感じている彼女を、シアンとリーナがなだめている。
 野宿中は食事も不安定だし、身体を清める場所も少ない。
 女の子にとっては特に厳しい環境だろう。
 なだめている二人も、内心ではふかふかなベッドが恋しいはずだ。
 そんな彼女たちに、ロール姫は朗報を告げる。

「たぶん野宿にはならないかな」
「え、そうなんですか?」
「次の目的地まで、いくつか街を経由することになるからね。あと半日も歩けば、ラードという街にたどり着くはずだよ」
「――ラード……」
 
 僅かにリーナが反応し、視線を逸らす。
 気になる反応だった。
 まるでその名に聞き覚えがあるかのような……。

「リーナ?」
「なんでもありません。また宿を探さないといけないですね」
「そうだね」

 次こそは一人部屋を獲得しよう。
 じゃないと俺が眠れない。
 ロール姫は俺の隣に歩み寄り、ニヤっと笑顔を向ける。
 
「ふふっ、逃がさないよ?」
「……」

 本当にいい性格をしているな、このお姫様は。
 いつかギャフンと言わせてやりたい気分だ。
 これも煩悩、今は治めよう。

 そのまま道なりに進む。
 リッシェルからラードまでの道のりは、整備された街道を進むだけだ。
 危険な山道や森の中を通る必要がなく、魔物と遭遇する危険も限りなくゼロに近い。
 歩いても景色が変わらないことを除けば、とても快適な旅路だった。
 そうして半日後。
 朝に出発したから夜になり、俺たちはラードの街にたどり着く。 
 街の規模はリッシェルの三分の二程度だろうか。
 リッシェルが悲惨な状況だったせいか、人通りの多さを見ると賑わいの差を感じてしまう。

「随分と賑やかな街だな」
「ここは王国でも有数の貴族。アルダート公爵家が治める領地の一つだからね。リッシェルほどじゃないけど大きくて賑やかな街だよ」
「……」
「リーナ? どうかしたの?」
「元気ないねぇ」
「え、あ、ちょっと歩き疲れちゃっただけだよ」

 この街に行くと話してから、リーナの元気がない。
 スピカとシアンも心配している。
 俺も当然心配し、彼女に問いかける。

「どこか悪いのかい? 無理をしてはいけないよ」
「――大丈夫です、先生。本当に、少し歩き疲れただけですから」

 そういって彼女は笑う。
 夜空に輝く星のように、明るい笑顔を見せてくれた。
 魔力は乱れていないし、肉体的にどこか悪くしたという感じではなさそうだ。
 本当に歩き疲れただけ……なのだろうか。
 それとも……。

「宿を探そうか。今日はしっかり休んで、明日に備えよう」
「はい! 先生!」

 心配ではあるが、彼女が大丈夫だと言っている。
 その言葉を今は信じよう。
 俺たちは宿を探した。
 見つけた宿は落ち着いた雰囲気のお店で、繁華街からも離れているから料金も安い。
 お客さんも少ないから、人数分の部屋も取れたけど、ここは賢者らしく欲は出さない。
 三つ部屋をお願いしようとして……。

「二つでいいよね?」
「……そうだな」

 また負けてしまった。
 別に欲を出したわけじゃない。
 この状況で、三つ部屋を取るのは不自然だったからだ。
 どうやらこの先、宿を取ればずっと彼女と同室になるようだ。
 早く慣れなければ……。

「ここ、台所はあるみたいですね。夕食は私が作ります。食材の買い出しに行ってもいいですか?」
「頼むよ。俺も一緒に行こうか?」
「平気です。ここへ来る途中に道は覚えましたから」
「そうか。じゃあ任せるよ」

 彼女はとてもまじめで、道場でも家事全般を任せていた。
 便りにしていたし、信用している。
 だから一人で買い出しに行くことに、なんの不安も感じなかった。
 俺は後悔することになる。
 ここで彼女を一人で行かせなければ、彼女が苦しむことはなかったかもしれない、と。
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