気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第23話 伯爵令嬢に怪しまれる

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 今、私の目の前ですごい剣幕で怒っている彼女について、ここへ連れてこられるまでの少しの時間の間に日記に書かれていた事を思い出してみたけど、彼女の所業というか、正確には彼女が下っ端に指示した事は幼稚ないじめが多かった。
 
 だから、この子は小物だと思うのよね…。
 毒をノアに飲ませる様な度胸はなさそう。

「ちょっと聞いているの?!」

 ぼんやりと考えていたせいで私の反応がなかったからか、ばん、と怒りの形相で目の前にあるテーブルをミラベル伯爵令嬢が叩いた。
 そのせいでテーブルの上にのっていたカップがソーサーにぶつかって、がちゃがちゃと音を立てた。

「もちろん、聞いておりますとも。近付くな、というのは今日のお昼の事を言ってらっしゃいます? それなら、私から近付いたのではなく、彼から隣に座られたんですよ? キース本人に、あなたに近付くと私は怖い人に呼び出されちゃうから来ないでと言えば良かったのでしょうか?」

 聞き終えてから、うふふと笑う。

「そんな態度で良いと思ってらっしゃるの?」

 すると、ミラベル伯爵令嬢は怒りをぶつけるように、テーブルの上に乱暴に扇を置いてから続ける。

「イッシュバルド家の方と婚約をされたせいで、そうやって大きく出られているんでしょうけれど、そんなもの、私の父にかかればすぐに破談にできますわよ!」

 えらく大きな事を言ってきたので、小首を傾げて聞いてみる。

「破談にするとはどうやって? イッシュバルド公爵家の意見を変えられると言うのですか? あなたのお父様って貴族界の裏ボスか何かですか?」
「う、裏ボスって何よ!? イッシュバルド公爵家にあなたの悪い噂を流すなんて簡単です! 何よりもうすでにあなたの評判は地に落ちているんですから!」
「その評判が地に落ちている私と婚約を望んだのは、イッシュバルド家ですけど……?」

 わざわざ、こんなわかりきった事を答えないといけないのかと思って苦笑したのが悪かったのか、私の言葉を聞いたミラベル伯爵令嬢の怒りのボルテージが上がる。

「婚約者がいながら他の男性と一緒に食事をするだなんて許せませんわ!」
「その婚約者は私の左隣にいましたが見えませんでした? おかしいですね。いつの間に私の婚約者は幽霊に? それともミラベル伯爵令嬢の目にはキース様以外の男性は透明人間か何かになってしまって見えないとかですか?」
「あなたは私を馬鹿にしているの!?」
「馬鹿にしているんじゃなくて質問しているだけです。あ、恋は盲目って言いますし、キース様のことしか見えなかったんですね。失礼いたしました! ご安心ください。あの時、私の婚約者はすぐ隣りにいましたし、彼はキース様と仲良くした方が良いとおっしゃってますの。キース様と私の婚約者は同じクラスになって仲良くなったみたいです」

 イライラしているミラベル伯爵令嬢が面白くなってきて、首の前あたりで手を合わせてにっこりと微笑んでから、小首を傾げる。
 
「で、どうやって婚約を破断にさせるおつもりで?」
「だから言っているでしょう! 私のお父様の力を使って…!」
「ミラベル伯爵の力を使って?」
「あなたの家の評判をもっと貶めて、学園にも来れないようにしてさしあげるわ!」

 キュレル家に迷惑をかけられるのは困るわね。
 学園に来れなくなる事に関しては、別に私は学園に通いたいわけじゃないから良かったりするけど、ノアの事は気になるし、どうしようかしら…。

 それに学園に行かない学生だと、やはり評判は良くないだろうし、来てほしくないと言うのなら、そういう環境を整えてもらいましょう。

「学園に来れなくなるという事は、私の結婚を早めて下さるという事かしら?」
「……何を言っているの?」
「家にずっといるわけにはいきませんし、それならお嫁に行った方が良いですよね? なので、イッシュバルド家にお話をしてほしいんですが?」

 私にかなり苛立ってはいるけれど、さすがに今までのアリスと違う事に気付いたらしく、ミラベル伯爵令嬢が私のお願いには何も反応せずに聞いてくる。

「……あなた、本当にキュレル子爵令嬢ですの?」
「もちろんですわ」

 憑依した事を正直に話をしてやる義理もないので、大きく頷いてから心の中で呟く。 

 彼女がアリスをいじめていたという決定的な証拠がほしい。
 だから、いいかげん、私に手を出すなり暴言を吐いてくれないかしら?

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