気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第二部

第13話 婚約者の元婚約者と話をする

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 放課後、普段なら人の波が落ち着くまでは、ノアと雑談して帰っていた。
 でも、今はあまりキースとの話をしたくなかった私は、今日に限ってはノアをおいて先に教室を出ることにした。

 罪悪感が半端ないわ。
 でも良かった。
 そんなことを思うということは、私にも人の心があったということよね。

 そんな風に自己満足しながら教室を出たけれど、廊下に出てすぐに足を止めることになった。

 教室を出る際にすれ違った人物に見覚えがあったからだ。

 その人物というのは、カリン・ボートワール。
 ツインテールにしたピンク色の髪を揺らしながら、彼女は私のクラスへ入っていく。
 その時に「ノアってどの子かしら」と呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

 ボートワールは一学年上のはず。
 どうして、私たちの学年にいるの?
 しかも、ノアに用事があるって何なの。

 嫌な予感がして踵を返そうとした時、キースに声をかけられた。

「どうした、アリス」
「ちょうど良いところに! キース、ボートワールが私のクラスに入っていったの」
「は? ボートワールって、アリスの元婚約者のあれだろ?」
「そう。ホットラードの現婚約者」

 頷いてから、お願いする。
 
「キース、今すぐノアの所に行って。もし、ボートワールがノアにからんでたら、あんたが知ってる日本語を話してみて」
「な、なんの話だよ?」
「行けばわかるから!」

 カイルはボートワールも転生者だと言ってた。
 もし、それが本当なら、この国に存在していない、日本独特の言い回しの日本語には反応するはず。
 
 教室の扉を開け、困惑気味のキースの背中を押して中に入らせてから扉を閉めてから気付く。

 って、キースは日本人じゃないから、今のはやっぱり難しいかしら。
 
 ノアにからんでいるなら、キースに助けさせてカッコいい場面を演出しようと思ったんだけど、ハードルが高すぎた?

 後ろの扉にまわり、少しだけ開けて中を覗いてみると、ボートワールはやはりノアにからんでいて、キースが割って入った所だった。

 背後からの雑音もあって、はっきりとは聞き取れないけれど、ノアにキースと別れろって言ってるみたいだった。
 あと、キースが「日本人形」という言葉を出したとき、明らかにボートワールは反応した。

 ということは、やはり彼女には日本人の記憶があるということで間違いなさそうね。

「何やってんだ」

 後ろから声をかけられて振り返ると哲平だった。
 扉を静かに閉めて小声で話す。
 
「転生者か召喚者かわかんないけど、ボートワールも日本のことを知ってるみたい」
「マジか。カイルが言ってたとおりなんだな。てか、なんでそいつがこんなとこにいるんだ?」

 哲平が聞き返してきた、その時だった。
 ボートワールが教室から出てきて、私たちのいる方向とは別の方向に歩いていったので、慌てて追いかけて声を掛ける。

「あの、ちょっと待ってもらえます?」
「何よ」
「話があるんです」
「キュレルの分際でえらそうに」
「はあ?」

 思わず声が出てしまった。
 そっちこそ何様よ。
 先輩だからって、その言い方はないでしょ。

 可愛らしい顔を醜く歪めて言うもんだから、こっちも目を細めて言葉を返す。

「それはこっちの台詞です。あんたにえらそうに言われる筋合いないんですけど」 

 ボートワールは、ぱっちりとした大きな目を丸くさせた私を見た。
 そして、底意地の悪そうな笑みを浮かべて言う。

「いいわ。場所を変えましょう」

 彼女が選んだ場所は屋上のガゼボだった。
 しかも、学園内に5箇所もあるのに、なぜか因縁のあのガゼボだ。

 ほとんどの人間は帰途についているので、屋上には人がいない。
 そのことをしっかり確認したあと、ボートワールが口を開いた。 

「あなたたちも転生者なのね? しかもつい最近の」
「どうしてそう思うんです?」
「だって、アリス・キュレルはそんな性格じゃなかったから」

 そうか。
 自分が転生者だから、アリスのあまりの変わりように、出した答えがそれってわけね。

「アリスのことを詳しく知ってるの?」

 お互いに中身は違うのだから、今は敬語もいらない、と勝手に判断して敬語無しで尋ねる。

「もちろん。私が婚約者を奪ってやったんだから知っているわよ! それにしても、あの男、手に入れるまでは魅力的だったんだけど、手に入れちゃったら全然ね。だって、頭がお花畑なんだもの」

 はあ、と大きなため息を吐いてボートワールは話を続ける。
 
「まあまあイケメンだったから、攻略キャラなのかなと思って落としてみたけど、そうじゃなかったみたいね」
「……攻略キャラ?」
「そうよ。だって転生っていうと乙女ゲームが多いじゃない。きっと私もそうだと思うの」
「はあ?」

 キラキラした瞳で言われても、何を言ってるのか意味がわからない。 

「何より、私みたいな可愛い子がヒロインじゃないわけないじゃない!」

 ボートワールは自分の胸に右手を当てて叫ぶ。
 
 広いんじゃない、訳ないじゃない。
 
 じゃなくてヒロインじゃない、わけないじゃない。
 ってことよね?
 え?
 この子、ヒロインなの?
 というか私のいる世界って本当にゲームか何かの世界なの?
  
「ヒロインって、ある程度、顔が可愛かったら性格悪くてもなれるのか?」
「そういう設定だったらなれるんじゃない?」

 哲平に聞かれて、私も適当に答える。
 すると、納得いかないのか、まだ質問してくる。

「性格悪い奴に、どうやって感情移入するんだよ」
「漫画の世界でも、悪役令嬢に転生したほうが性格良くて同じ世界でヒロインに転生したほうが性格悪かったりするのよ。でも、その場合のヒロインはヒロインじゃないし、よくわからない」

 自分で言ってて、こんがらがりそうになってきた。

「じゃあ、売り出すパッケージの説明も変わってくんのか?」
「かもね。性格悪いヒロイン誕生とか?」
「ちょっと!」
 
 ボートワールを無視して話をしていると、彼女が会話に割って入ってきた。

「ごちゃごちゃうるさいわよ! それにどうして、あんたみたいなモブがイグスくんみたいに格好良い男の子と一緒にいるの? それにおかしいじゃない。どうしてイグスくんは私に落ちないの。キースくんもそうだし!」
「だってお前、性格悪そうだし。俺たちにだって選ぶ権利はある」

 哲平が容赦なく言った。

 よしよし。
 たまに言い方をどうにかしなさいよ、と思ってたこともあるけれど、こういうのは全然オッケーだわ。
 傷付くようなタイプなら止めるけど、そうじゃなさそうだし、今回は私が許す。

「もしかして、イグスくんは難易度高い人?」 

 ボートワールが顎に手を当てて首を傾げる。

 彼女はどうしても、この世界をゲームの世界にしたいみたい。

「おい、なんか訳のわからねぇことを言ってるんだが、どうしたら良いんだ?」
「乙女ゲームのことを思い出してるんじゃないの?」
「お前、前にそういうのやってなかったか? 友達にすすめられたとかって」
「やってたけど、うまくいかなくてやめたわ」

 哲平に言われて、その時の記憶を引っ張り出す。

「選択肢を間違えると、なんか相手にムカつかれるのよ」
「好感度が下がるって言うのよ!」

 ボートワールがムキになって説明してくれる。

「選択肢を間違えなかったら、意中の相手と上手くいくの! だから、ヒロインである私はどのキャラとも上手くいくはずなのよ!」
「で、そのキャラクターの一人がキースってこと?」
「たぶんね。そうでないと、こんなに可愛い姿に転生するなんてありえないじゃない?」

 自信満々に言われても知らないわ。
 いや、見た目は可愛いかもしれないけど、中身は私のほうがマシだと思う。

「なんか、これ、本当にゲームの世界だったら、プレーヤー必要か? こいつが突っ走ってるだけじゃねぇか」
「だから、ゲームの世界じゃないと思うわ」
「うるさいわね! ハーレムできればそれでいいのよ!」

 ボートワールはなぜか、ふふんと、小さな胸を張った。

 どうして、そんな意味のわからないことを大きな声で言ってのけることができるのよ。

「勝手にハーレムでもなんでも作ってろよ。キースはお前の所有物にはならねぇだろうけどな」
「嫌よ。欲しいものは手に入れるわ」
「あなたにはホットラードがいるじゃない」
「だから、予想と違ったって言ってるじゃない!」

 呆れた顔で言うと、ボートワールはヒステリックに叫んだ。
 そして、哲平を指差しつつ、私を見ながら言う。

「決めた! 私、あなたからイグスくんをもらうから!」
「は?」

 謎の発言に、私と哲平は同時に聞き返した。

 どうして、私の敵になる女はどいつもこいつも男を中心に回るのよ。
 本当にめんどくさいわ。
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