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お姉様がお嫁にいってからは、ビトイは、わたしとのデートの時でも、お姉様の住んでいる屋敷がある方面に行きたがった。
「行きたいところがあるんだけど、駄目?」
こうしてお願いすれば、「いいよ」と微笑んでくれるけれど、繁華街であれば、お姉様がよく行っていたお店に行きたがり、わたしが不満そうにすると、ご機嫌を取るように、その店でわたしに何かを買ってくれる。
(もので釣られるような子供だと思っているの?)
悲しい気持ちになってしまい、デートを続ける事も嫌になってきた。
(そんなにお姉様がいるかどうか知りたいなら、わたしとデートなんてせずに、自分1人でお店に行けばいいのよ…)
子供みたいな事を考えて自己嫌悪になる。
簡単に忘れてくれると思っていた、わたしの方が馬鹿だった。
(だって、こんなにもわたしの事を見てくれない相手を、わたしだってずっと好きでいるんだから、そう簡単に諦められるものではないんだわ…)
「ねぇ、いつになったら、お姉様を忘れてくれるの?」
お姉様の姿を探している彼を見ていられなくなって、思わず聞いてみた。
すると、彼は苦笑する。
「何を言ってるんだよ。僕が好きなのは、アザレアだよ」
「嘘よ、そんな事ないでしょう?」
「本当だよ。だから、そんな顔をしないで」
ビトイはわたしの頬に触れて、優しく微笑んだ。
こうやって、わたしはいつも彼に騙される。
そして、嘘だったとしても、彼の優しい言葉を求めてしまうのだ。
こんな関係性が崩れ始めたきっかけは、お義兄様が少し離れた領地で事故に合い、その地の病院でしばらく入院する事になってからだった。
左足を骨折し、今までの様に歩けなくなるかもしれないということで、わたし達の住んでいる場所よりも、医療が発展している、その地での治療をお義兄様は選んだ。
お姉様はお義兄様が帰ってくるまで、実家に戻る事を望み、お義兄様もそれを受け入れた。
「寂しいって言っていたから帰ってきたわ」
お姉様は実家に戻ってくるなり、笑顔でそう言うと、掃除などはされていたけれど、家具などはそのままにされてあった、自分の部屋に戻っていった。
それから数日後、わたしが学園から帰ってくると、我が家のものではないけれど、何度も見た事のある馬車が停まっている事に気が付いた。
嫌な予感がして胸をおさえる。
(まさか…、まさかね…)
急いで、邸の中に入ると、メイド達が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、アザレア様」
「ただいま! もしかして、ビトイが来ているんじゃない?」
「ええ。つい先程、いらっしゃいました。急にアザレア様に会いたくなったんだそうですよ」
メイドはビトイの言葉を信じているらしく、笑顔で続ける。
「アザレア様が帰ってこられるまで、マーニャ様がお相手しておられて、今、2人で中庭を散歩されておられます」
1人のメイドがわたしの学生鞄を受け取ってくれ、もう1人のメイドがわたしと一緒に中庭に向かってくれた。
制服姿だけれど関係なかった。
どくどくと心臓の鼓動を強く感じた。
2人の姿を探していると、姿は見えないけれど、声だけ聞こえてきた。
「もう我慢できない! ずっと、ずっと、僕はマーニャの事が好きだったんだ!」
「ちょっと待って。私には夫がいるのよ?」
「そんな事はわかってる…! だけど、君の旦那様が事故にあって、君がこんなにも早くここに戻ってくるだなんて」
「運命だとでも言いたいの? そうじゃないわよ」
声のする方向に、早足で急ぐ。
声を出したいけれど、声が出せなかった。
一緒にいるメイドも様子がおかしい事に気が付いたらしく、2人に自分達がいる事を知らせる為に叫んでくれた。
「ビトイ様、マーニャ様! アザレア様がお帰りになりました!」
すると、ビトイが叫んだ。
「アザレアが来る前にもう一度言う…。君が好きなんだ!」
2人の姿が見えたので駆け出したかと同時、わたしに気が付いていないビトイはお姉様を抱き寄せてキスをしようとした。
最初、お姉様は嫌がっていたけれど、私の姿を見ると、抵抗するのをやめて、彼の首の後ろに手を回し、彼の唇を自分の唇で受け止め、そして、深いキスを繰り返した。
「なんて事を…っ」
メイドが震える声で言った。
(もう…無理。無理だわ…)
声にも出せず、ただ、わたしはその場に崩れ落ちるしかなかった。
「何をされているんですかっ!!」
「何を考えているんですか!!」
離れて様子を見ていたけれど、何やらおかしいと2人に駆け寄ってきていた騎士達とメイドが非難の声を上げたため、慌てて、ビトイはお姉様から離れ、わたしを見た。
「あ…、あっ…、婚約の…、破棄を…」
続きを言おうとしたけれど、先程の2人のキスシーンが頭に浮かび、気分が悪くなって息が苦しくなり、うまく呼吸できなくなったため、その先の言葉を口に出す事が出来ない。
「アザレアお嬢様! しっかりして下さい! 誰か、誰か来てください!」
メイドはわたしを介抱してくれながら、邸の方に向かって叫んでくれた。
騎士達はビトイが逃げないように捕まえていて、わたしの方にまで手がまわらないようだった。
「アザレアお嬢様! しっかりして下さい!」
フットマンに抱き抱えられた際、強い視線を感じて、目だけ向けると、お姉様が笑っているのが見えた。
「行きたいところがあるんだけど、駄目?」
こうしてお願いすれば、「いいよ」と微笑んでくれるけれど、繁華街であれば、お姉様がよく行っていたお店に行きたがり、わたしが不満そうにすると、ご機嫌を取るように、その店でわたしに何かを買ってくれる。
(もので釣られるような子供だと思っているの?)
悲しい気持ちになってしまい、デートを続ける事も嫌になってきた。
(そんなにお姉様がいるかどうか知りたいなら、わたしとデートなんてせずに、自分1人でお店に行けばいいのよ…)
子供みたいな事を考えて自己嫌悪になる。
簡単に忘れてくれると思っていた、わたしの方が馬鹿だった。
(だって、こんなにもわたしの事を見てくれない相手を、わたしだってずっと好きでいるんだから、そう簡単に諦められるものではないんだわ…)
「ねぇ、いつになったら、お姉様を忘れてくれるの?」
お姉様の姿を探している彼を見ていられなくなって、思わず聞いてみた。
すると、彼は苦笑する。
「何を言ってるんだよ。僕が好きなのは、アザレアだよ」
「嘘よ、そんな事ないでしょう?」
「本当だよ。だから、そんな顔をしないで」
ビトイはわたしの頬に触れて、優しく微笑んだ。
こうやって、わたしはいつも彼に騙される。
そして、嘘だったとしても、彼の優しい言葉を求めてしまうのだ。
こんな関係性が崩れ始めたきっかけは、お義兄様が少し離れた領地で事故に合い、その地の病院でしばらく入院する事になってからだった。
左足を骨折し、今までの様に歩けなくなるかもしれないということで、わたし達の住んでいる場所よりも、医療が発展している、その地での治療をお義兄様は選んだ。
お姉様はお義兄様が帰ってくるまで、実家に戻る事を望み、お義兄様もそれを受け入れた。
「寂しいって言っていたから帰ってきたわ」
お姉様は実家に戻ってくるなり、笑顔でそう言うと、掃除などはされていたけれど、家具などはそのままにされてあった、自分の部屋に戻っていった。
それから数日後、わたしが学園から帰ってくると、我が家のものではないけれど、何度も見た事のある馬車が停まっている事に気が付いた。
嫌な予感がして胸をおさえる。
(まさか…、まさかね…)
急いで、邸の中に入ると、メイド達が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、アザレア様」
「ただいま! もしかして、ビトイが来ているんじゃない?」
「ええ。つい先程、いらっしゃいました。急にアザレア様に会いたくなったんだそうですよ」
メイドはビトイの言葉を信じているらしく、笑顔で続ける。
「アザレア様が帰ってこられるまで、マーニャ様がお相手しておられて、今、2人で中庭を散歩されておられます」
1人のメイドがわたしの学生鞄を受け取ってくれ、もう1人のメイドがわたしと一緒に中庭に向かってくれた。
制服姿だけれど関係なかった。
どくどくと心臓の鼓動を強く感じた。
2人の姿を探していると、姿は見えないけれど、声だけ聞こえてきた。
「もう我慢できない! ずっと、ずっと、僕はマーニャの事が好きだったんだ!」
「ちょっと待って。私には夫がいるのよ?」
「そんな事はわかってる…! だけど、君の旦那様が事故にあって、君がこんなにも早くここに戻ってくるだなんて」
「運命だとでも言いたいの? そうじゃないわよ」
声のする方向に、早足で急ぐ。
声を出したいけれど、声が出せなかった。
一緒にいるメイドも様子がおかしい事に気が付いたらしく、2人に自分達がいる事を知らせる為に叫んでくれた。
「ビトイ様、マーニャ様! アザレア様がお帰りになりました!」
すると、ビトイが叫んだ。
「アザレアが来る前にもう一度言う…。君が好きなんだ!」
2人の姿が見えたので駆け出したかと同時、わたしに気が付いていないビトイはお姉様を抱き寄せてキスをしようとした。
最初、お姉様は嫌がっていたけれど、私の姿を見ると、抵抗するのをやめて、彼の首の後ろに手を回し、彼の唇を自分の唇で受け止め、そして、深いキスを繰り返した。
「なんて事を…っ」
メイドが震える声で言った。
(もう…無理。無理だわ…)
声にも出せず、ただ、わたしはその場に崩れ落ちるしかなかった。
「何をされているんですかっ!!」
「何を考えているんですか!!」
離れて様子を見ていたけれど、何やらおかしいと2人に駆け寄ってきていた騎士達とメイドが非難の声を上げたため、慌てて、ビトイはお姉様から離れ、わたしを見た。
「あ…、あっ…、婚約の…、破棄を…」
続きを言おうとしたけれど、先程の2人のキスシーンが頭に浮かび、気分が悪くなって息が苦しくなり、うまく呼吸できなくなったため、その先の言葉を口に出す事が出来ない。
「アザレアお嬢様! しっかりして下さい! 誰か、誰か来てください!」
メイドはわたしを介抱してくれながら、邸の方に向かって叫んでくれた。
騎士達はビトイが逃げないように捕まえていて、わたしの方にまで手がまわらないようだった。
「アザレアお嬢様! しっかりして下さい!」
フットマンに抱き抱えられた際、強い視線を感じて、目だけ向けると、お姉様が笑っているのが見えた。
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