8 / 45
6
しおりを挟む
クボン侯爵がわたし達に提示した条件は、仰っておられた通り2つ。
1つ目は、婚約破棄をする本当の理由を絶対に外には漏らさない事。
お姉様がキトロフ家の使用人達に話をしている可能性があり、そちらの口止めはしてくださるとの事で、ミノン家の使用人にも絶対に情報を漏らさせないようにとの事だった。
そして、2つ目が問題だった。
クボン候爵がわたしに婚約者候補を2人紹介するので、どちらか1人を選ぶ事だった。
しかも、2人共、わたしと同じ年の17歳。
かなり年上の方か、後妻になれと言われるのかと思ったのだけれど、全然、違った。
けれど、逆に問題があるとも言える。
「アザレア嬢と同じ年で、婚約者を2人共に探している。なぜ、婚約者がいないかというと、2人共、性格に難があるからだ。いや、1人は慣れてしまえば大した事はないと思うが……」
応接室の1人用のソファーに座り、長い足を組んで話すクボン侯爵に問いかける。
「お2人がわたしを選ばない可能性もあるのでは?」
「そうなった時は強制的に、どちらかと結婚だ」
「それは、お相手の方の気持ちはどうなるんです!?」
驚きの声を上げたわたしに、クボン侯爵は大きく息を吐いてから言う。
「アザレア嬢、君は婚約破棄をしたいんだろう?」
「……したいです」
「なら、条件をのんでもらう」
(どんな相手かもわからないのに返事をしろと…? でも、選択肢はないわ。お父様達にこれだけさせたんだもの。何の収穫もなしでは終われない)
「あの、お相手はどちらの…?」
お父様が聞いてくださると、クボン侯爵は背もたれにもたれかかって答える。
「ショー様とトーリ様だ」
「――!?」
答えを聞いたわたし達は声にならない声を上げた。
(まさか、わたしと同じ年でショー様とトーリ様って……)
「ま、まさか、ブロット公爵家の…?」
恐る恐る聞いてみると、クボン侯爵は大きく頷く。
「そうだ」
ブロット公爵家のショー様とトーリ様は双子で、2人共に顔は整っているけれど、婚約者がいない事は、貴族の間でも一時期、噂にはなっていた。
兄のトーリ様は口数が少なくて無愛想で、冷たい性格で有名。
ショー様は爽やかな外見で優しいと噂だけれど、実は裏では……という黒い噂がある。
婚約者がいない事が、その噂に信憑性をもたらしている気がした。
「2人は次男と三男だが、伯爵家以上の爵位は引き継ぐ事になっているから、将来的なものは心配しなくてもいいだろう」
(か、簡単に言ってくださるわね。他人事だからかしら)
クボン公爵はにやりと笑って聞いてくる。
「で、どうする?」
「どうすると聞かれましても、選択肢は2つですわよね。その内の1つは絶対に嫌なものです。ですから、ブロット公爵令息のお2人と、お会いしてみたいです」
(まだ、希望のある方に賭けてみよう)
そう言い聞かせて答えると、お父様が尋ねる。
「なぜ、ブロット公爵家の令息の婚約者をクボン候爵閣下が…?」
「ブロット公爵とは友人なんだ。年頃の令嬢で誰かを紹介しろと言われていた」
(納得いくといえば納得いくけれど、よっぽどの相手って事じゃないの。それに、この方がそこまでする必要あるの?)
決めた事を取り消す訳にもいかないし、腹をくくる事に決めると、クボン候爵がわたしに言う。
「レイジと結婚させる前に簡単に調べさせたが、どうやら、マーニャはアザレア嬢の婚約者が好きなようだな」
「……どういう事ですか? お姉様もビトイの事を好きなんですか…?」
「いや、違う。君の婚約者が好きなんだ」
「……という事は…」
口をおさえて呟くと、クボン候爵は頷く。
「マーニャはまたやるだろう。その時は……」
「クボン侯爵閣下…、あなたはアザレアを…」
お父様はそこまで言って、お姉様も自分の娘である事に気が付いてやめ、わたしの方を見た。
「アザレア…」
「……やってみます」
(クボン候爵は本当に悪い人だわ。なにかの理由で婚約者を探すように言われていたのね? そこにちょうど良い人間がいたといったところ…? しかも、自分の家的にもかなりメリットになる…)
「婚約破棄の理由を決められたら教えてくれ。必ず、婚約破棄させてやろう。相手の有責で」
「もちろんです。アザレア自身は悪くありません」
お父様が強い口調で言うと、クボン候爵は笑う。
「わかった、わかった。意地悪な事を言って済まなかったな。今のところは親戚として繋がりがあるのだから、これ以上は何も言わん」
クボン侯爵は立ち上がって続ける。
「理由だけ考えてくれ。その理由で良いかはこちらが判断し、先方に伝えよう」
そう言って、こちらが何も言えないでいる内に、部屋から出て行ってしまった。
※次話はビトイsideのマーニャとの話になります。
1つ目は、婚約破棄をする本当の理由を絶対に外には漏らさない事。
お姉様がキトロフ家の使用人達に話をしている可能性があり、そちらの口止めはしてくださるとの事で、ミノン家の使用人にも絶対に情報を漏らさせないようにとの事だった。
そして、2つ目が問題だった。
クボン候爵がわたしに婚約者候補を2人紹介するので、どちらか1人を選ぶ事だった。
しかも、2人共、わたしと同じ年の17歳。
かなり年上の方か、後妻になれと言われるのかと思ったのだけれど、全然、違った。
けれど、逆に問題があるとも言える。
「アザレア嬢と同じ年で、婚約者を2人共に探している。なぜ、婚約者がいないかというと、2人共、性格に難があるからだ。いや、1人は慣れてしまえば大した事はないと思うが……」
応接室の1人用のソファーに座り、長い足を組んで話すクボン侯爵に問いかける。
「お2人がわたしを選ばない可能性もあるのでは?」
「そうなった時は強制的に、どちらかと結婚だ」
「それは、お相手の方の気持ちはどうなるんです!?」
驚きの声を上げたわたしに、クボン侯爵は大きく息を吐いてから言う。
「アザレア嬢、君は婚約破棄をしたいんだろう?」
「……したいです」
「なら、条件をのんでもらう」
(どんな相手かもわからないのに返事をしろと…? でも、選択肢はないわ。お父様達にこれだけさせたんだもの。何の収穫もなしでは終われない)
「あの、お相手はどちらの…?」
お父様が聞いてくださると、クボン侯爵は背もたれにもたれかかって答える。
「ショー様とトーリ様だ」
「――!?」
答えを聞いたわたし達は声にならない声を上げた。
(まさか、わたしと同じ年でショー様とトーリ様って……)
「ま、まさか、ブロット公爵家の…?」
恐る恐る聞いてみると、クボン侯爵は大きく頷く。
「そうだ」
ブロット公爵家のショー様とトーリ様は双子で、2人共に顔は整っているけれど、婚約者がいない事は、貴族の間でも一時期、噂にはなっていた。
兄のトーリ様は口数が少なくて無愛想で、冷たい性格で有名。
ショー様は爽やかな外見で優しいと噂だけれど、実は裏では……という黒い噂がある。
婚約者がいない事が、その噂に信憑性をもたらしている気がした。
「2人は次男と三男だが、伯爵家以上の爵位は引き継ぐ事になっているから、将来的なものは心配しなくてもいいだろう」
(か、簡単に言ってくださるわね。他人事だからかしら)
クボン公爵はにやりと笑って聞いてくる。
「で、どうする?」
「どうすると聞かれましても、選択肢は2つですわよね。その内の1つは絶対に嫌なものです。ですから、ブロット公爵令息のお2人と、お会いしてみたいです」
(まだ、希望のある方に賭けてみよう)
そう言い聞かせて答えると、お父様が尋ねる。
「なぜ、ブロット公爵家の令息の婚約者をクボン候爵閣下が…?」
「ブロット公爵とは友人なんだ。年頃の令嬢で誰かを紹介しろと言われていた」
(納得いくといえば納得いくけれど、よっぽどの相手って事じゃないの。それに、この方がそこまでする必要あるの?)
決めた事を取り消す訳にもいかないし、腹をくくる事に決めると、クボン候爵がわたしに言う。
「レイジと結婚させる前に簡単に調べさせたが、どうやら、マーニャはアザレア嬢の婚約者が好きなようだな」
「……どういう事ですか? お姉様もビトイの事を好きなんですか…?」
「いや、違う。君の婚約者が好きなんだ」
「……という事は…」
口をおさえて呟くと、クボン候爵は頷く。
「マーニャはまたやるだろう。その時は……」
「クボン侯爵閣下…、あなたはアザレアを…」
お父様はそこまで言って、お姉様も自分の娘である事に気が付いてやめ、わたしの方を見た。
「アザレア…」
「……やってみます」
(クボン候爵は本当に悪い人だわ。なにかの理由で婚約者を探すように言われていたのね? そこにちょうど良い人間がいたといったところ…? しかも、自分の家的にもかなりメリットになる…)
「婚約破棄の理由を決められたら教えてくれ。必ず、婚約破棄させてやろう。相手の有責で」
「もちろんです。アザレア自身は悪くありません」
お父様が強い口調で言うと、クボン候爵は笑う。
「わかった、わかった。意地悪な事を言って済まなかったな。今のところは親戚として繋がりがあるのだから、これ以上は何も言わん」
クボン侯爵は立ち上がって続ける。
「理由だけ考えてくれ。その理由で良いかはこちらが判断し、先方に伝えよう」
そう言って、こちらが何も言えないでいる内に、部屋から出て行ってしまった。
※次話はビトイsideのマーニャとの話になります。
93
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。
クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。
そんなある日クラスに転校生が入って来た。
幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新不定期です。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる