25 / 45
24 気持ちの変化
しおりを挟む
「な、何よ。そんな嘘をついたって信じませんから! アールは私以外の女性に興味はないはずですわ!」
「そうかな?」
「大体、あなたの言葉なんて信じられませんから!」
お姉様の言葉に今度は私が尋ねます。
「誰の言葉なら信じるんです? アール様が自分が嘘をついてたなんて認めるとは思いませんが?」
「ほ、他に女性がいるだなんて、何を根拠にそんな事を!」
「見た奴がいるんだよ。アールが女性とデートしてるところを」
「誰なんです?! どうせ、あなた達が雇った人間なんでしょう?!」
必死の形相で言うお姉様に、私とクレイは顔を見合わせます。
バーキン様はお医者様として雇ってはいますが、アール様の件で雇ったわけではありませんから…。
「まあ、雇ってるのは確かだな」
「そうですね。ただ、証人として雇った訳ではありませんが」
「何の話をしているのよ?!」
お姉様がキャンキャン喚き散らすので、勿体ぶる事を止めて、素直に答えます。
「とある方が、デート中のアール様の姿を写真で撮って下さっています。信じられないなら、お見せする事も出来ますよ?」
「そ、そんな…」
お姉様はショックを受けたのか、よろめかれます。
「デートしていたといっても、相手の方は仕事だと思います。アール様だって遊びだと思います。ですから、許してさしあげてもいいとは思いますが」
「私はそういうのでも許せないのよ! わたし以外の女性に触れるだなんて汚らわしい!」
お姉様は証拠写真も見ずに、私達だけの証言を信じるみたいです。
「お姉様が早くに婚約者を決めて差し上げなかったからでは?」
「うるさいわね! もう決まったから放っておいて!」
お姉様は叫ぶと、部屋から出ていき、廊下で待っていた自分の侍女に向かって叫びます。
「今すぐアールを呼んで頂戴! 確認したい事があると言って!」
「かしこまりました」
次女が頷いたと同時に、執務室の扉が乱暴に閉められ、お姉様達の姿は見えなくなりました。
「嵐の様な人ですね」
「本当だな。…それよりも、大丈夫か?」
「大丈夫か、とは?」
首を傾げて聞き返しますと、クレイは少し困った顔をして、わたしに近付いて来て言います。
「聞いてる俺からしたら、酷い事を言われてたから、言われた本人はもっと辛かったんじゃねぇのかと思って」
「…そうですね。でも、薄々わかっていた事です。望まれた子でしたら、もっと可愛がってくれていたはずです。望んでいなかったからこそ、同じ娘に対して、あんなに酷い対応が出来るのでしょう」
「お前は偉いな。俺だったら、もっと早くに母親にブチ切れてるよ」
「ブチ切れるを通り越したんです。元々は、私が出来損ないなのだと思っていましたから、これ以上目立って、何か悲しい事を言われたりしない様にって、必死に自分を守る事だけ考えてましたから」
「自分を守ろうとするのは当たり前の行為だろ」
「かもしれませんが、クレイが言った様に、キレてみても良かったと思うんです」
「いや、本当は良くないだろ」
クレイが呆れた様に言うので、笑ってから首を横に振ります。
「だって向こうが大人げないことをしてくるんですもの。こちらも同じ土俵に立っても良かったんじゃないかって思いまして」
「で、言いたい事を言う様にしようと思ったのか?」
「国花が出なければ、クレイと出会わなければ、私は昔のままだったと思います」
胸元に手を当ててから続ける。
「守る事も大事ですが、攻める事もしなければなりません。優しい、我慢するだけじゃ駄目なんですよ。相手を調子に乗らせるだけです」
「優しい顔が必要な時もあるが、相手によっては、意味がないからな。これから国の行事に出る様になれば、余計に判断が難しくなるけどな」
「政治的なものに関しては、口に出さない様に致します。ですが、それ以外にやらないといけない事はありますしね」
「そうだな。この国は違うみたいだけど、他の国の王家は自分で資金運用して稼いでるもんな。自分の食い扶持は自分で稼げっていつ言われるかもわからないってのもあるな」
クレイの国のエストラフィー国は不動産で儲けているみたいで、それに対する税金も納められているそうです。
ちなみにミドノワールでは王族に私有財産は認められておらず、生活する費用などは公務費として出していただいています。
簡単に言えば、王族として仕事をして、その分の費用やお給料をいただいている感じでしょうか。
もちろん、オッサムからの慰謝料は別です。
そして、この慰謝料で何か出来たら良いな、と考えています。
「私の国では王族費をゼロにするのは無理そうですが…」
「そりゃそうだろ。それに一国の国王がみすぼらしい格好で、護衛も雇う金もないんじゃ、他国に馬鹿にされるだろうし」
「そうですね。国の代表として外面だけでも良くしないといけませんよね」
いつの間にか、真面目な話に変わってしまい、お姉様の事をすっかり忘れてしまっていました。
そして、次の日には、アール様はお姉様の婚約者候補から外れ、オッサムが正式に婚約者として選ばれたのでした。
「そうかな?」
「大体、あなたの言葉なんて信じられませんから!」
お姉様の言葉に今度は私が尋ねます。
「誰の言葉なら信じるんです? アール様が自分が嘘をついてたなんて認めるとは思いませんが?」
「ほ、他に女性がいるだなんて、何を根拠にそんな事を!」
「見た奴がいるんだよ。アールが女性とデートしてるところを」
「誰なんです?! どうせ、あなた達が雇った人間なんでしょう?!」
必死の形相で言うお姉様に、私とクレイは顔を見合わせます。
バーキン様はお医者様として雇ってはいますが、アール様の件で雇ったわけではありませんから…。
「まあ、雇ってるのは確かだな」
「そうですね。ただ、証人として雇った訳ではありませんが」
「何の話をしているのよ?!」
お姉様がキャンキャン喚き散らすので、勿体ぶる事を止めて、素直に答えます。
「とある方が、デート中のアール様の姿を写真で撮って下さっています。信じられないなら、お見せする事も出来ますよ?」
「そ、そんな…」
お姉様はショックを受けたのか、よろめかれます。
「デートしていたといっても、相手の方は仕事だと思います。アール様だって遊びだと思います。ですから、許してさしあげてもいいとは思いますが」
「私はそういうのでも許せないのよ! わたし以外の女性に触れるだなんて汚らわしい!」
お姉様は証拠写真も見ずに、私達だけの証言を信じるみたいです。
「お姉様が早くに婚約者を決めて差し上げなかったからでは?」
「うるさいわね! もう決まったから放っておいて!」
お姉様は叫ぶと、部屋から出ていき、廊下で待っていた自分の侍女に向かって叫びます。
「今すぐアールを呼んで頂戴! 確認したい事があると言って!」
「かしこまりました」
次女が頷いたと同時に、執務室の扉が乱暴に閉められ、お姉様達の姿は見えなくなりました。
「嵐の様な人ですね」
「本当だな。…それよりも、大丈夫か?」
「大丈夫か、とは?」
首を傾げて聞き返しますと、クレイは少し困った顔をして、わたしに近付いて来て言います。
「聞いてる俺からしたら、酷い事を言われてたから、言われた本人はもっと辛かったんじゃねぇのかと思って」
「…そうですね。でも、薄々わかっていた事です。望まれた子でしたら、もっと可愛がってくれていたはずです。望んでいなかったからこそ、同じ娘に対して、あんなに酷い対応が出来るのでしょう」
「お前は偉いな。俺だったら、もっと早くに母親にブチ切れてるよ」
「ブチ切れるを通り越したんです。元々は、私が出来損ないなのだと思っていましたから、これ以上目立って、何か悲しい事を言われたりしない様にって、必死に自分を守る事だけ考えてましたから」
「自分を守ろうとするのは当たり前の行為だろ」
「かもしれませんが、クレイが言った様に、キレてみても良かったと思うんです」
「いや、本当は良くないだろ」
クレイが呆れた様に言うので、笑ってから首を横に振ります。
「だって向こうが大人げないことをしてくるんですもの。こちらも同じ土俵に立っても良かったんじゃないかって思いまして」
「で、言いたい事を言う様にしようと思ったのか?」
「国花が出なければ、クレイと出会わなければ、私は昔のままだったと思います」
胸元に手を当ててから続ける。
「守る事も大事ですが、攻める事もしなければなりません。優しい、我慢するだけじゃ駄目なんですよ。相手を調子に乗らせるだけです」
「優しい顔が必要な時もあるが、相手によっては、意味がないからな。これから国の行事に出る様になれば、余計に判断が難しくなるけどな」
「政治的なものに関しては、口に出さない様に致します。ですが、それ以外にやらないといけない事はありますしね」
「そうだな。この国は違うみたいだけど、他の国の王家は自分で資金運用して稼いでるもんな。自分の食い扶持は自分で稼げっていつ言われるかもわからないってのもあるな」
クレイの国のエストラフィー国は不動産で儲けているみたいで、それに対する税金も納められているそうです。
ちなみにミドノワールでは王族に私有財産は認められておらず、生活する費用などは公務費として出していただいています。
簡単に言えば、王族として仕事をして、その分の費用やお給料をいただいている感じでしょうか。
もちろん、オッサムからの慰謝料は別です。
そして、この慰謝料で何か出来たら良いな、と考えています。
「私の国では王族費をゼロにするのは無理そうですが…」
「そりゃそうだろ。それに一国の国王がみすぼらしい格好で、護衛も雇う金もないんじゃ、他国に馬鹿にされるだろうし」
「そうですね。国の代表として外面だけでも良くしないといけませんよね」
いつの間にか、真面目な話に変わってしまい、お姉様の事をすっかり忘れてしまっていました。
そして、次の日には、アール様はお姉様の婚約者候補から外れ、オッサムが正式に婚約者として選ばれたのでした。
49
あなたにおすすめの小説
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
【完結】優雅に踊ってくださいまし
きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。
この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。
完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。
が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。
-ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。
#よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。
#鬱展開が無いため、過激さはありません。
#ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる
迷い人
恋愛
お爺様は何時も私に言っていた。
「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」
そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。
祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。
シラキス公爵家の三男カール。
外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。
シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。
そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。
でも、私に愛を語る彼は私を知らない。
でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。
だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。
なのに気が付けば、婚約を??
婚約者なのだからと屋敷に入り込み。
婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。
そして……私を脅した。
私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!
カナリア姫の婚約破棄
里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」
登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。
レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。
どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。
この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。
※他サイトでも投稿しています。
〈完結〉貴方、不倫も一つならまだ見逃しましたが、さすがにこれでは離婚もやむを得ません。
江戸川ばた散歩
恋愛
とある夏の避暑地。ローライン侯爵家の夏屋敷のお茶会に招待された六つの家の夫妻及び令嬢。
ゆったりとした時間が送れると期待していたのだが、登場したこの日の主催者であるローライン夫妻のうち、女学者侯爵夫人と呼ばれているルージュの口からこう切り出される。「離婚を宣言する」と。
驚く夫ティムス。
かくしてお茶会公開裁判の場となるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる