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30  あきらめない令嬢

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 それから日にちが経ち、一気に寒さがなくなり、過ごしやすい季節になった頃には、お姉様も冷静になってこられたのか、自分のやりたい仕事に関しては仕事をする様になり、やりたくないものに関しては、未来の王配になるであろう、オッサムにさせる事に決めた様でした。
 オッサムが例え、王配にならなかったとしても、お姉様と結婚すればやらないといけなくなる仕事である為、お父様もそれについては了承した様です。
 
 どうせ、いつかはやらないといけない事ですからね。

 ここまで来たら、お姉様とオッサムの結婚も確定でしょうから、私の胸に国花が出た話を、いつ公表しようか、考え始めていた時の事です。

 ドストコ公爵家が平民も気軽に楽しめるというコンセプトの庭園をオープンしたのでした。
 とても広い庭園で入場料はタダですが、飲食物は持ち込み禁止、園内にある、お店や出店スペース、もしくは庭園内のところどころにある休憩スペース以外では飲食禁止という、私達の国では珍しいものでした。

 維持費用もありますので、高い入場料の為、貴族でしか入れない様な庭園が多いのですが、今回は平民に楽しんでもらえる様に、という意図があった為、王族にも出席してほしいと招待状が来た為、プレオープン記念式典に私とクレイが参加しました。

 式典に関しては、お姉様が普段なら参加されているはずなのですが、同じ日に違う式典があり、そちらを優先されたみたいでした。
 もちろん、今回の式典に関しては、私達が何かする訳ではなく、王族が庭園を見に来てくれたという話題性が欲しくて呼ばれただけの様でした。

 宰相や宰相を取り巻く人達にしてみれば、私達は飾りです。
 王族が政治に介入しない事は国民も知っている事ですから、色々と動いてくれている貴族側としてはこれくらいの仕事をしろという事なのでしょう。
 ただ、国と国との諍いがあった時、責任を問われるのは王族なんですけどね。

 何も起こらないだろう、と油断している時ほど何かあるもので、記念式典が終わり、クレイと一緒に庭園を歩いていた時でした。
 
「クレイ殿下」
 
 女性の声が聞こえてきたので振り返ると、なんと、そこにはポピー様がいらっしゃったのです。
 クレイの表情がこわばります。

「ど、どうして…」
「そんなに驚かないで下さい。先日のパーティーで知り合った、ドストコ公爵家のアール様から御招待いただいたんです」

 庭園に咲く、色とりどりの花に負けないくらいの華やかさを感じさせる笑顔で、ポピー様は動揺しているクレイに言いました。

「そうか。楽しんでいったらいい。行こう、リサ」
「あ…はい」

 クレイが焦った様に踵を返したかと思うと、私の手を取って早足で歩き出します。
 けれど、ポピー様は追いかけてきて、私の手を掴んでいるクレイの手に自分の手を重ねて言いました。

「バーキンの事でお話がしたいんです。リサ殿下、少しだけ、クレイ殿下とお話させていただけませんか…?」
「……」

 クレイの顔を見上げると、彼が苦しそうな顔をしていたので、お断りする事にします。

「パーカー公爵令嬢、それは許可出来ません。クレイはミドノワールの王族です。いくら知り合いとはいえ、事前連絡もなしに時間が欲しいというのは無礼ではありませんか?」
「そ、それは…」
「行きましょう、クレイ」

 促すと、呆気にとられた顔をしていたクレイでしたが、ホッとした様な顔になって頷きます。

「そうだな、行こう」
「クレイ殿下、私はあなたに戻ってきてほしいんです!」

 ポピー様は追いかけては来ませんが、クレイの背中に向かって、そう叫びました。

 何を考えていらっしゃるんでしょう?
 クレイが戻れば、バーキン様もエストラフィー国に戻ると思っているのでしょうか?

「……クレイ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。でも助かった。どうも彼女の笑顔を見ると、意識が飛ぶというか、何も考えられなくなるんだよな」

 クレイの言葉に胸がチクリと痛みます。

 やはり、クレイはポピー様を忘れられていないのですね…。
 
「本当なら庭園の中にある店でゆっくりすればいいんだろうけど、また彼女に会うと面倒だから、今日は帰ってもいいか?」
「ええ。セレモニーも終わりましたし、私もあまりここにはいたくないです。それに、馬車の中でフィアナが待ってくれているでしょうし」

 頷いて、クレイと一緒に馬車を待たせてある場所に向かい、少し早足で歩きながら、クレイに尋ねます。

「どうして、ポピー様はバーキン様本人じゃなく、クレイにバーキン様の事を聞いてくるんです? バーキン様が城の敷地内から出ないからでしょうか?」
「さあな。ポピーにしてみれば、彼女の気持ちにこたえないようにって、俺がバーキンに頼んでると思ってるんだろう」
「それは違うと、私が否定したじゃないですか」
「それを納得するかしないかはポピーの考えだろう。彼女は今まで色んな人に愛されてきている。だから、自分に興味を示さないバーキンが不思議でしょうがないんだ」
「では、バーキン様がポピー様を好きなふりをしたら良いのでしょうか?」

 自分を好きになってくれたと思いこんだら、ポピー様は満足するかと思ったのですが、クレイが首を横に振ります。

「ちょっと前までならバーキンもそれを考えたかもしれないが、今は無理だ」
「…どういう事ですか?」

 聞き返したと同時に、私達の声が聞こえたのか、馬車の扉が中から開き、フィアナが顔を出します。
 そして、気付きました。

「無理な理由がわかりました。バーキン様に本命が出来てしまったからですね…」

 本命がいるのに、違う人を好きだというフリなんて、中々出来ませんよね…。

「そういう事だ」
「…お二人共、どうされました?」

 私とクレイに注目されて、フィアナが焦った様に首を傾げたのでした。
 
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