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36 信じると決めたのに…
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パーティー当日。
ポピー様とクレイをパーティーが始まる前に接触させたくなかった私は、失礼に当たらない程度のぎりぎりの時間に、クレイと共にドストコ公爵家にやって来ました。
ですので、会場の受付に着いた時には、すでにたくさんの人が集まっていました。
婚約記念パーティーなのに、お姉様がいないというのはおかしいところですが、お姉様が来るのを嫌がったのだと思われます。
そんなワガママをとおせるところがすごいです。
普通は嫌だと思っていても来るか、初めから、そんなパーティーをさせたりしないですよね…。
それに、お姉様の都合が合わないなら、普通は日にちを変えるはずです。
それとも、お姉様がいなくても、このパーティーを開かなくてはならない事情があったんでしょうか?
考えられるとすれば、私とクレイの仲を引き裂く事?
「……」
無言で横に立つクレイを見つめると、その視線に気が付いたクレイが苦笑します。
「そんなに俺が信用できないのかよ?」
「そ、そういう訳では…」
「大丈夫だから」
シニヨンにした私の髪が崩れない様に、クレイはポンポンと頭を撫でてくれます。
何が大丈夫なのかはわかりません。
どうして、クレイはそんな自信があるのでしょうか?
それに、ポピー様を見たら、そんな気持ちなんて吹っ飛んでしまうのでは…?
って、駄目ですね。
クレイを信じなくては。
「クレイがポピー様にクラクラしないって、信じますからね」
「クラクラって何だよ」
クレイは吹き出すと、私を促して、パーティー会場の中へと足を踏み入れたのでした。
オッサムやドストコ公爵に、姉が本日、出席出来なかった事を侘び、婚約については、お祝いの言葉を掛けた後は、特に何事もなく時間が過ぎていき、クレイとそろそろ帰ろうかと話し始めていた時でした。
恐れていた事が起こったのです。
「クレイ殿下、リサ殿下」
今まで、存在感のなかったポピー様が現れ、私達に話し掛けてきたのです。
「先日は失礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
濃いブルーのイブニングドレスを着たポピー様は妖艶で、とても美しく、同性である私まで色気でクラクラしそうです。
クレイを見てみると、とても険しい顔をしていましたが、私の視線に気付くと、すぐに笑顔を見せてくれました。
私はクレイに頷いた後、ポピー様に目を向けて言います。
「そう思われるのでしたら、もうクレイには近付かないで下さい。余計なお世話かもしれませんが、クレイに近付いても、バーキン様はあなたのものになりませんよ?」
「わかっています。ですが、バーキンが私に振り向かないのは、クレイ殿下が邪魔をしているとしか…」
「バーキン様にだって、好みがありますでしょう? あなたはとても素敵な女性かもしれませんが、バーキン様には魅力的には見えないだけなのでは?」
「それが…、それがおかしいと思うんです!」
ポピー様は大きな声を上げて続けます。
「どんな人だって、私が話しかければ、私の事を美しい、綺麗だと褒め称えてくれるのに、バーキンだけは違うんです! お世辞でだって褒めてくれません! それはクレイ殿下に遠慮しているからだと思うんです!」
「その事については、クレイは関係ないと、お話しましたでしょう?」
何度、同じ話をすればわかって下さるのでしょうか?
それだけ、自分に自信があるという事なのかもしれませんが、ここまでくると、さすがにイライラしてしまいます。
「リサ」
「はい?」
クレイに名を呼ばれ、彼の方を見上げると、苦笑して言います。
「ちょっと、話をしてきてもいいか? 二人きりにはならないから」
「……はい」
そういう話でしたものね。
クレイを信じてはいるのですが、やっぱり心配です。
「大丈夫だから。ポピーとの話が終わったら、もう帰ろう」
「わかりました」
首を縦に振ると、クレイはまた私の頭を優しく撫でた後、ポピー様を促します。
「少し、話したい事がある」
「わかって下さったのですね! ありがとうございます、クレイ殿下」
二人がパーティー会場の外へ向かって歩いていくのを見送ってから、私はクレイが戻るまで、大人しく目立たないようにして待っていようと思ったのですが、なぜか、アール様が近寄ってきたのです。
「フラれたのか?」
「違います」
「じゃあ何で、二人で出て行ったんだ?」
「込み入った話をするからでしょう。それに、見える位置にはいるじゃないですか」
先程、クレイが二人きりにならないと言っていた通り、クレイは人の邪魔にはならないけれど、人の通りがある所で、ポピー様と話をしています。
二人きりになっていると、変な噂を立てられても困るからでしょう。
「でも、本当にパーカー公爵令嬢は綺麗だよな。しかも、クレイ殿下は彼女の事が好きだったんだろう?」
「そんな事、あなたには関係ありません。もう、放っておいて下さい」
「彼と別れて、僕にしておいた方が良いと思うぞ? 君と結婚すれば王族になれるのだから、離婚したりしないから」
「あなた、何を言ってるんですか…」
「僕とブランカの仲を引き裂いたのはお前達だろう!」
「自業自得でしょう!」
言い返した時、クレイがポピー様と話し終えたのか、こちらに向かって歩いて来るのが見えましたが、今の私の顔は、アール様のせいで泣き出しそうになっているに違いありません。
だから、クレイに見られたくないです。
だって、アール様の言う事に動揺して不安になった時点で、クレイを信用していなかった事になるでしょう?
早く、いつもの表情に戻さなければ!
そう思って、私は慌ててアール様から離れようと足を動かしたのでした。
ポピー様とクレイをパーティーが始まる前に接触させたくなかった私は、失礼に当たらない程度のぎりぎりの時間に、クレイと共にドストコ公爵家にやって来ました。
ですので、会場の受付に着いた時には、すでにたくさんの人が集まっていました。
婚約記念パーティーなのに、お姉様がいないというのはおかしいところですが、お姉様が来るのを嫌がったのだと思われます。
そんなワガママをとおせるところがすごいです。
普通は嫌だと思っていても来るか、初めから、そんなパーティーをさせたりしないですよね…。
それに、お姉様の都合が合わないなら、普通は日にちを変えるはずです。
それとも、お姉様がいなくても、このパーティーを開かなくてはならない事情があったんでしょうか?
考えられるとすれば、私とクレイの仲を引き裂く事?
「……」
無言で横に立つクレイを見つめると、その視線に気が付いたクレイが苦笑します。
「そんなに俺が信用できないのかよ?」
「そ、そういう訳では…」
「大丈夫だから」
シニヨンにした私の髪が崩れない様に、クレイはポンポンと頭を撫でてくれます。
何が大丈夫なのかはわかりません。
どうして、クレイはそんな自信があるのでしょうか?
それに、ポピー様を見たら、そんな気持ちなんて吹っ飛んでしまうのでは…?
って、駄目ですね。
クレイを信じなくては。
「クレイがポピー様にクラクラしないって、信じますからね」
「クラクラって何だよ」
クレイは吹き出すと、私を促して、パーティー会場の中へと足を踏み入れたのでした。
オッサムやドストコ公爵に、姉が本日、出席出来なかった事を侘び、婚約については、お祝いの言葉を掛けた後は、特に何事もなく時間が過ぎていき、クレイとそろそろ帰ろうかと話し始めていた時でした。
恐れていた事が起こったのです。
「クレイ殿下、リサ殿下」
今まで、存在感のなかったポピー様が現れ、私達に話し掛けてきたのです。
「先日は失礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
濃いブルーのイブニングドレスを着たポピー様は妖艶で、とても美しく、同性である私まで色気でクラクラしそうです。
クレイを見てみると、とても険しい顔をしていましたが、私の視線に気付くと、すぐに笑顔を見せてくれました。
私はクレイに頷いた後、ポピー様に目を向けて言います。
「そう思われるのでしたら、もうクレイには近付かないで下さい。余計なお世話かもしれませんが、クレイに近付いても、バーキン様はあなたのものになりませんよ?」
「わかっています。ですが、バーキンが私に振り向かないのは、クレイ殿下が邪魔をしているとしか…」
「バーキン様にだって、好みがありますでしょう? あなたはとても素敵な女性かもしれませんが、バーキン様には魅力的には見えないだけなのでは?」
「それが…、それがおかしいと思うんです!」
ポピー様は大きな声を上げて続けます。
「どんな人だって、私が話しかければ、私の事を美しい、綺麗だと褒め称えてくれるのに、バーキンだけは違うんです! お世辞でだって褒めてくれません! それはクレイ殿下に遠慮しているからだと思うんです!」
「その事については、クレイは関係ないと、お話しましたでしょう?」
何度、同じ話をすればわかって下さるのでしょうか?
それだけ、自分に自信があるという事なのかもしれませんが、ここまでくると、さすがにイライラしてしまいます。
「リサ」
「はい?」
クレイに名を呼ばれ、彼の方を見上げると、苦笑して言います。
「ちょっと、話をしてきてもいいか? 二人きりにはならないから」
「……はい」
そういう話でしたものね。
クレイを信じてはいるのですが、やっぱり心配です。
「大丈夫だから。ポピーとの話が終わったら、もう帰ろう」
「わかりました」
首を縦に振ると、クレイはまた私の頭を優しく撫でた後、ポピー様を促します。
「少し、話したい事がある」
「わかって下さったのですね! ありがとうございます、クレイ殿下」
二人がパーティー会場の外へ向かって歩いていくのを見送ってから、私はクレイが戻るまで、大人しく目立たないようにして待っていようと思ったのですが、なぜか、アール様が近寄ってきたのです。
「フラれたのか?」
「違います」
「じゃあ何で、二人で出て行ったんだ?」
「込み入った話をするからでしょう。それに、見える位置にはいるじゃないですか」
先程、クレイが二人きりにならないと言っていた通り、クレイは人の邪魔にはならないけれど、人の通りがある所で、ポピー様と話をしています。
二人きりになっていると、変な噂を立てられても困るからでしょう。
「でも、本当にパーカー公爵令嬢は綺麗だよな。しかも、クレイ殿下は彼女の事が好きだったんだろう?」
「そんな事、あなたには関係ありません。もう、放っておいて下さい」
「彼と別れて、僕にしておいた方が良いと思うぞ? 君と結婚すれば王族になれるのだから、離婚したりしないから」
「あなた、何を言ってるんですか…」
「僕とブランカの仲を引き裂いたのはお前達だろう!」
「自業自得でしょう!」
言い返した時、クレイがポピー様と話し終えたのか、こちらに向かって歩いて来るのが見えましたが、今の私の顔は、アール様のせいで泣き出しそうになっているに違いありません。
だから、クレイに見られたくないです。
だって、アール様の言う事に動揺して不安になった時点で、クレイを信用していなかった事になるでしょう?
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