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42  可哀想なお姉様

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「嘘よ、そんなの! 絶対に嘘だわ!」

 お姉様は椅子から立ち上がり、私を指差して叫びます。

「自分がいらない子だと思いたくないから、国花を胸に彫ったのでしょう?!」
「私が彫り師を呼んだという証拠でもあるのですか?」
「そ、それはこれから探すわよ!」
「お姉様…」

 必死なお姉様を見ているのが辛くなってきて、私は大きく息を吐いてから続けます。

「探されるのは好きにしたら良いとは思いますが、本当に私がそんな事をしたと思っているのですか? それに本当にこの一年の間に、お姉様の胸に国花が現れると、本当に信じてらっしゃるんですか」
「そ、そんなの当たり前じゃない! あなたと私なら、絶対に私の方が女王にふさわしいもの! ねぇ、お母様?!」
「え、ええ…。そうだと思っていたけれど…。リサ、本当に、それは偽装したものではないの?」
「お母様?!」

 お姉様が叫びますが、お母様はそんな事はおかまいなしといった感じで、私の方を見てきます。

「もちろんです。偽装するだなんてありえません」
「偽装じゃないという事は間違いない。私が保証する」

 お父様が言うと、お母様は頭を抱えられました。


 なぜ、頭を抱えるんですかね…。
 一体、どういう意味なんでしょう?
 お姉様が女王にならないと知ってショックなんでしょうか。

「リサ! 君は嘘をついたのか?!」

 お姉様が大人しくなったかと思うと、今度はオッサムが噛み付いてきました。

「何がです?」
「国花は長女に出るって言ったじゃないか!」
「言いましたが、業務をこなせない様な事にならない限り、とお伝えしましたよね? さっきのお姉様の発言はまさにそうだったのではないですか?」

 結婚式の準備があるからと、私に仕事を押し付けようとしてこられましたしね。

 オッサムは悔しそうな顔をした後、今度はクレイに向かって言います。

「クレイ殿下、あなたは本当に王配になる器ですかね?」
「どういう事です?」
「国では好き勝手されてきたんでしょう? 王配になんてなったら、今までの様に楽しく遊んで暮らせはしないんですよ?」
「さっきも言いましたが、隣国を馬鹿にしてるんですか?」

 クレイが冷たい声で続けます。

「好き勝手やれていたのは学生時代だけです。もちろん、恋愛に関する問題はありましたが、やらなければいけない仕事とは別です。公私混同はしていません」
「あなたは恋愛感情のコントロールが出来なかったという事でしょう?! この先、リサに飽きて、愛人を作ったりするんじゃないんですか?!」
「そんな事はありえません」

 クレイがオッサムを睨みました。

「止めろ! なんて事を言うんだ! 大体、オッサム、君はブランカの夫なんだぞ! 未来の王配を心配する気持ちはわからないでもないが、過去の事まで掘り出してきたあげくに、起きてもいない事を言うだなんて、ただの中傷だぞ!」

 お父様がテーブルを叩いて叫ぶと、オッサムはびくりと肩を震わせた後、俯いて黙り込みます。

「私はクレイが愛人を作ってもかまいませんよ? もちろん、いない方が有り難いですが」
「作らない」

 私がオッサムに言った言葉に対し、クレイが答えてから、今度はクレイがオッサムに言います。

「私にしてみれば、婚姻届を出した初日に、傷ついてい自分の妻よりも人の事を気にしている、あなたの方が心配ですがね」
「そ、それは、それとこれとは関係ないでしょう」
「そうよ!」

 お姉様は叫び、私を指差します。

「お母様! おかしくありませんか?! 私の方が見目麗しく、女王になるにふさわしいはずです! お母様だってそう思いますよね?!」
「ブランカ、女王にふさわしいかどうかは、見た目で決まるものじゃないわ…」
「…お母様?」

 お姉様は信じられないものを見るような目でお母様を見つめました。
 そんな視線など気にせずに、お母様は私に向かって言います。

「ねぇ、リサ、今までの事は本当に悪かったと思っているの。もちろん、ブランカだって反省しているのよ?」
「何を言ってるんですか、お母様! 私は反省なんか!」
「ブランカ、あなたは静かにしていてちょうだい!」

 私が言葉を返す前に割って入ったお姉様に、お母様がヒステリックに叫びました。
 お母様がお姉様にそんな態度をとるところを初めて見たもので、お姉様以上に驚いてしまいます。

 こんなに人は変わるものなのでしょうか…。

「これから、あなたと仲良くしていきたいと思っているの。もちろん、ブランカもよ?」
「都合の良い事を言わないで下さい」

 絶対に嫌だと言うつもりはありませんが、すぐに了承してしまうのも違う気がして、厳しい口調で返すと、お母様は困った顔をされます。

「一人で女王の仕事をするだなんて大変だと思うわ。だから、二人の女王として頑張っていくのはどう?」
「二人いましたら、女王とは言わないのでは?」

 私の言葉を聞いたお母様は、唇を噛んで俯きました。

「おい、さっきから、どうして君はリサに国花が出た事を喜んであげられないんだ? ブランカ、お前もショックかもしれないが、日頃の行いを考えれば、リサに出てもおかしくないだろう」

 お父様が味方してくれましたが、お姉様は納得いかないようで、肩で息をしながら、私の方にまわりこんでくると、睨んでから叫んだのです。

「あんたなんか、生まれてこなければ良かったのに!」

 そんな事、お姉様の口から何度も聞いた事がありましたので、睨み返すと、お姉様が私に向かって手を振り上げたのでした。
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