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第2話 脅迫
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お父様に手紙を見せると、「抗議してくる」と言って、すぐに王城に向かって下さった。
お父様が出ていって少ししてから、ルークスの方にも陛下から連絡が来ていたらしく、昼前に彼が私の家まで来てくれた。
私の部屋に入ってもらい、ソファーに並んで腰掛けたところでルークスに言う。
「私、陛下の婚約者になるなんて嫌よ」
嫌でしょうがなくて体の震えが止まらない私の体を抱きしめてルークスが言う。
「父上も抗議をしに行ってくれている。他の公爵家も一緒に抗議しに行ってくれているみたいだ。あまりにも勝手すぎるからな」
「まさか…、抗議したからって、お父様達が殺されたりはしないわよね…?」
王冠の時の話を思い出すと、陛下がお父様達に何をされるかわからなくて怖かった。
「あの時、陛下の手助けをした暗殺集団が国外逃亡した事は確認されているから大丈夫だ。城内にいる敵は宰相や役職の高い身分の人間くらいで、彼らはそう強くない。ただ、陛下が何を言ってくるかはわからないが…」
ルークスの手を握って尋ねる。
「陛下はどうして私なんかを選んだの…?」
「僕にはリゼに興味を持つ気持ちはわかるが、大勢の中からリゼを選んだという事は、陛下にとってリゼが好みだったという事だろうな…」
ルークスは私の手を優しく握り返してから続ける。
「僕があの時、婚約者だと紹介しなければ良かった…」
「どうせ紹介しろと言われるだけだから、ルークスのせいじゃないわ。それに私以外の誰かを婚約者として連れて行ったとしても、他の人にはすぐにわかるし、陛下に告げ口される恐れもあるわ。そうなったらそうなったで大変な事になったでしょうし、下手な事をしないのが一番だったと思う」
陛下がおかしいだけよ。
誰かに聞かれる事はないだろうけれど、聞かれてしまうと不敬罪に当たってしまう為、口には出さずに心の中で呟く。
「僕の母上も心配しているから、暗くなる前には帰るけれど、しばらくはここにいてもいいか?」
「もちろん。でも、あなたのお母様だって不安でいっぱいよね。無事に生きて帰って来てくれるかという心配をしないといけないんだから」
「父上は殺されたりしないよ。それに関しては君のお父上もそうだ」
ルークスは優しく私の頭を撫でてくれた。
結局、夕方になっても、お父様は帰ってこなかった。
だから、ルークスは「また明日来る」と言って、自分の家に帰っていった。
私の家から王城までは馬車で2時間くらいかかるから、お父様が帰ってくるのに時間がかかるのはしょうがない事はわかっているけれど、出て行ってから8時間近く経っても帰ってこないのには不安しかなった。
私とお母様、そして、お兄様は夕食も取らずに談話室でお父様の帰りを待ち続けた。
そして、夜遅くになって、馬の蹄が近付いてくる音が聞こえて、私達は一斉に立ち上がってエントランスホールに向かった。
結果がどうであろうと、お父様が無事に帰ってきてくれたのならそれで良い、そう思って向かった私だったけれど、扉の前で執事が揉めている事に気が付いた時には嫌な予感しかしなかった。
「リゼ、お前は隠れていた方がいいかもしれない」
お兄様がそう言った時だった。
執事や屋敷の騎士を押しのけて入ってきたのは、王家の騎士団だった。
なぜ、それがわかったかというと、鎧付きのサーコートを着ているだけでなく、剣の柄に王家の紋章が入っているのが見えたから。
「リゼア・モロロフ様、陛下がお呼びです。我々とご同行下さい」
「リゼアは渡せません。お引取り下さい」
お兄様が私の体を隠して言うと、騎士団長らしき中年の男性が眉を寄せる。
「お気持ちはお察しいたしますが、リゼア様に来ていただかない限り、多くの人間が犠牲になる事になります」
「……どういう事でしょうか…」
お母様が私を守る様に抱きしめてから尋ねると、男性は深く頭を下げた。
「申し訳ございません。家族が人質にとられ、リゼア様をお連れできなければ殺すと脅されています」
それは彼だけじゃなかった様で、一緒に来ていた若い騎士の人達も一斉に頭を下げた。
そんな事を聞いてしまったら行かないわけにはいかないじゃないの…。
「誰が陛下に加担しているんだ? 騎士団の誰かが裏切ったのか?」
「いいえ。宰相が裏で手配をして、その辺にいるチンピラを使って私達の家族を拉致させたようです」
家族の事を思うと辛いのか、男性の表情が歪んだ。
「あの…、お父様は、お父様達は無事なんですか?」
「…無事ではありますが、王城から出る事は許されておりません」
私が尋ねると、男性は目を伏せて答えてくれた。
とりあえず、生きてくれているのならそれで良い。
「お母様、お兄様」
意を決して声をかけると、お母様が私を抱きしめる腕を強めた。
「駄目よ、行ってはいけないわ!」
「ですが、このままではこの人達の家族や、お父様達の命も危険です…」
本当なら行きたくなんかない。
だけど、行かなければ、たくさんの人が死んでしまう。
家族やルークスとお別れしなければならないのは辛いけれど、もう二度と会えなくなるわけではないんだから…。
ルークスとはたとえ一緒になれなくても、彼が生きていてくれているだけで、きっと頑張れる。
覚悟を決め、縋りつくようにして私を抱きしめてくれていた、お母様の腕から逃れた。
お父様が出ていって少ししてから、ルークスの方にも陛下から連絡が来ていたらしく、昼前に彼が私の家まで来てくれた。
私の部屋に入ってもらい、ソファーに並んで腰掛けたところでルークスに言う。
「私、陛下の婚約者になるなんて嫌よ」
嫌でしょうがなくて体の震えが止まらない私の体を抱きしめてルークスが言う。
「父上も抗議をしに行ってくれている。他の公爵家も一緒に抗議しに行ってくれているみたいだ。あまりにも勝手すぎるからな」
「まさか…、抗議したからって、お父様達が殺されたりはしないわよね…?」
王冠の時の話を思い出すと、陛下がお父様達に何をされるかわからなくて怖かった。
「あの時、陛下の手助けをした暗殺集団が国外逃亡した事は確認されているから大丈夫だ。城内にいる敵は宰相や役職の高い身分の人間くらいで、彼らはそう強くない。ただ、陛下が何を言ってくるかはわからないが…」
ルークスの手を握って尋ねる。
「陛下はどうして私なんかを選んだの…?」
「僕にはリゼに興味を持つ気持ちはわかるが、大勢の中からリゼを選んだという事は、陛下にとってリゼが好みだったという事だろうな…」
ルークスは私の手を優しく握り返してから続ける。
「僕があの時、婚約者だと紹介しなければ良かった…」
「どうせ紹介しろと言われるだけだから、ルークスのせいじゃないわ。それに私以外の誰かを婚約者として連れて行ったとしても、他の人にはすぐにわかるし、陛下に告げ口される恐れもあるわ。そうなったらそうなったで大変な事になったでしょうし、下手な事をしないのが一番だったと思う」
陛下がおかしいだけよ。
誰かに聞かれる事はないだろうけれど、聞かれてしまうと不敬罪に当たってしまう為、口には出さずに心の中で呟く。
「僕の母上も心配しているから、暗くなる前には帰るけれど、しばらくはここにいてもいいか?」
「もちろん。でも、あなたのお母様だって不安でいっぱいよね。無事に生きて帰って来てくれるかという心配をしないといけないんだから」
「父上は殺されたりしないよ。それに関しては君のお父上もそうだ」
ルークスは優しく私の頭を撫でてくれた。
結局、夕方になっても、お父様は帰ってこなかった。
だから、ルークスは「また明日来る」と言って、自分の家に帰っていった。
私の家から王城までは馬車で2時間くらいかかるから、お父様が帰ってくるのに時間がかかるのはしょうがない事はわかっているけれど、出て行ってから8時間近く経っても帰ってこないのには不安しかなった。
私とお母様、そして、お兄様は夕食も取らずに談話室でお父様の帰りを待ち続けた。
そして、夜遅くになって、馬の蹄が近付いてくる音が聞こえて、私達は一斉に立ち上がってエントランスホールに向かった。
結果がどうであろうと、お父様が無事に帰ってきてくれたのならそれで良い、そう思って向かった私だったけれど、扉の前で執事が揉めている事に気が付いた時には嫌な予感しかしなかった。
「リゼ、お前は隠れていた方がいいかもしれない」
お兄様がそう言った時だった。
執事や屋敷の騎士を押しのけて入ってきたのは、王家の騎士団だった。
なぜ、それがわかったかというと、鎧付きのサーコートを着ているだけでなく、剣の柄に王家の紋章が入っているのが見えたから。
「リゼア・モロロフ様、陛下がお呼びです。我々とご同行下さい」
「リゼアは渡せません。お引取り下さい」
お兄様が私の体を隠して言うと、騎士団長らしき中年の男性が眉を寄せる。
「お気持ちはお察しいたしますが、リゼア様に来ていただかない限り、多くの人間が犠牲になる事になります」
「……どういう事でしょうか…」
お母様が私を守る様に抱きしめてから尋ねると、男性は深く頭を下げた。
「申し訳ございません。家族が人質にとられ、リゼア様をお連れできなければ殺すと脅されています」
それは彼だけじゃなかった様で、一緒に来ていた若い騎士の人達も一斉に頭を下げた。
そんな事を聞いてしまったら行かないわけにはいかないじゃないの…。
「誰が陛下に加担しているんだ? 騎士団の誰かが裏切ったのか?」
「いいえ。宰相が裏で手配をして、その辺にいるチンピラを使って私達の家族を拉致させたようです」
家族の事を思うと辛いのか、男性の表情が歪んだ。
「あの…、お父様は、お父様達は無事なんですか?」
「…無事ではありますが、王城から出る事は許されておりません」
私が尋ねると、男性は目を伏せて答えてくれた。
とりあえず、生きてくれているのならそれで良い。
「お母様、お兄様」
意を決して声をかけると、お母様が私を抱きしめる腕を強めた。
「駄目よ、行ってはいけないわ!」
「ですが、このままではこの人達の家族や、お父様達の命も危険です…」
本当なら行きたくなんかない。
だけど、行かなければ、たくさんの人が死んでしまう。
家族やルークスとお別れしなければならないのは辛いけれど、もう二度と会えなくなるわけではないんだから…。
ルークスとはたとえ一緒になれなくても、彼が生きていてくれているだけで、きっと頑張れる。
覚悟を決め、縋りつくようにして私を抱きしめてくれていた、お母様の腕から逃れた。
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