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第11話 絶叫
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どうしてこんな事になってしまったの――?
このまま、牢から出る事もできずに、陛下と結婚しなければならないの?
眠れないと思っていたけれど、ベッドに横になって考えていたのと精神的に疲れていたからか、いつの間にか眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど、コツコツという足音が、私のいる牢に近付いてくるのがわかって目を覚ました。
誰かが助けに来てくれたとは考えにくかった。
なぜなら、足音が軽いから。
考えられるとしたら、メイドか、もしくは…。
鉄格子の向こうに現れたのは、シラージェだった。
私の牢の中はランタンがたくさん置かれてあるおかげで明るかった為、彼女だとはっきり知る事が出来た。
3本の蝋燭が立てられた燭台と、バケツを持ったシラージェは私に声を掛けてくる。
「リゼア…、起きてる?」
「……シラージェ、こんな所に1人で何をしに来たの?」
嫌な予感しかしなくてベッドから身を起こして聞くと、蝋燭の火に照らされたシラージェの目は真っ赤で目の周りも腫れ上がっていた。
「わかっているでしょう? あなたが邪魔なの」
「何の話をしているの…?」
「助けを呼んでも無駄よ。騎士にはお金を渡して少しの間だけだけど離れてもらっているから」
「……」
鉄格子があるとはいえ、シラージェから少し離れた位置に立つと、ツンとする匂いが鼻を突いた。
「シラージェ…、あなた…」
「殺してやる!」
シラージェは叫ぶと、燭台を床に置き、持っていたバケツの中身を私に向かってかけようとしてきた。
さすがに、私もバケツの中身が何か気付いていた為、後ろに下がって避けたので体にかかる事はなかった。
けれど、地下牢の床は灯油でかなり汚れてしまった。
「別にかからなくてもいいのよ。ここに火を点ければ…」
シラージェが恐ろしい形相でそう言った時だった。
男性の叫び声が聞こえた。
「敵襲だ!」
「な、何なの!?」
シラージェは床に燭台を置いたまま困惑の声を上げる。
「逃げるぞ! この奥に隠し通路があるんだ。そこから逃げられる」
階段を駆け下りてきたのは陛下だった。
奇襲攻撃だったのか、陛下は寝巻き姿のままで、必死の形相で私の牢の鍵を開けようとしたけれど、私はそれを止める。
「逃げるのなら私を置いてどうぞ」
「……何を言ってる?」
陛下の質問には答えずにシラージェに言う。
「シラージェ、陛下と一緒に逃げなさい」
「……どういう事?」
「私は陛下と逃げるつもりはないわ」
「自分だけ助かるつもりか!?」
陛下はそう言った後、床が濡れている事に気付いて眉を寄せる。
「これは何だ…?」
「陛下と逃げても、私はシラージェに殺されます。私を人質にするつもりでしょうけれど意味はないですよ」
「シラージェ…、どういう事だ…?」
陛下が聞き返すと、シラージェが泣きながら答える。
「陛下の愛は私にだけ向けていてほしいんです!」
「それは無理だと言っているだろう! 僕の妃はリゼアに決めたんだ」
陛下に向かって私が言葉を返す。
「いいえ、陛下。あなたの妃になるのは私ではありません。私の夫になれる人はこの世に1人だけです。そして、陛下はその1人ではありません」
「いいかげんにしろ! リゼア!」
陛下が怒鳴った時だった。
「いたぞ!」
何人かの声と共に階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「くそっ!」
陛下はそう言って1人で奥に向かって走り出そうとする。
「待って下さい、陛下! 私も行きます!」
シラージェが叫ぶと、陛下は足を止めて信じられない事を言った。
「シラージェ、僕の事が好きなら足止めをしろ。僕を逃がす事で君の愛を証明しろ」
「……そんな」
シラージェが迷っている内に陛下が走り出し、私の所からは全く姿が見えなくなった。
「……シラージェ。もう逃げられないわ。足止めなんかは止めて逃げずに投降しなさい」
「……このままだと、陛下は処刑されるわね…?」
シラージェが震える声で聞いてきた。
「……そうね、そうなるわね」
「そんなの駄目よ。私達はずっと一緒なんだから…」
シラージェが呟いた時、兵士達が陛下を探して奥に向かって走っていった。
すると、意を決したかの様に、シラージェは床に置いていたバケツと燭台を手に取った。
バケツの中にはまだ半分くらいの灯油が入っていた。
「まさか…、シラージェ!」
シラージェはゆっくりと陛下が走っていった方向に向かって歩いていく。
その頃には兵士達の騒ぐ声が聞こえて、陛下が捕まった事がわかった。
「シラージェ、早まっては駄目よ!」
止めようとしたけれど、鍵を開けてもらえていなかった為、外に出てシラージェを止める事が出来ない。
それから1分も経たぬ内に、陛下の絶叫と兵士の怒号、そして、シラージェの笑い声が聞こえた。
「大丈夫です、陛下! 私もすぐにそちらにいきますから! 天国で2人だけの式を挙げましょうね!」
陛下の声は全く聞こえなくなり、あはははは、とシラージェの笑い声だけが響き渡ったのだった。
このまま、牢から出る事もできずに、陛下と結婚しなければならないの?
眠れないと思っていたけれど、ベッドに横になって考えていたのと精神的に疲れていたからか、いつの間にか眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど、コツコツという足音が、私のいる牢に近付いてくるのがわかって目を覚ました。
誰かが助けに来てくれたとは考えにくかった。
なぜなら、足音が軽いから。
考えられるとしたら、メイドか、もしくは…。
鉄格子の向こうに現れたのは、シラージェだった。
私の牢の中はランタンがたくさん置かれてあるおかげで明るかった為、彼女だとはっきり知る事が出来た。
3本の蝋燭が立てられた燭台と、バケツを持ったシラージェは私に声を掛けてくる。
「リゼア…、起きてる?」
「……シラージェ、こんな所に1人で何をしに来たの?」
嫌な予感しかしなくてベッドから身を起こして聞くと、蝋燭の火に照らされたシラージェの目は真っ赤で目の周りも腫れ上がっていた。
「わかっているでしょう? あなたが邪魔なの」
「何の話をしているの…?」
「助けを呼んでも無駄よ。騎士にはお金を渡して少しの間だけだけど離れてもらっているから」
「……」
鉄格子があるとはいえ、シラージェから少し離れた位置に立つと、ツンとする匂いが鼻を突いた。
「シラージェ…、あなた…」
「殺してやる!」
シラージェは叫ぶと、燭台を床に置き、持っていたバケツの中身を私に向かってかけようとしてきた。
さすがに、私もバケツの中身が何か気付いていた為、後ろに下がって避けたので体にかかる事はなかった。
けれど、地下牢の床は灯油でかなり汚れてしまった。
「別にかからなくてもいいのよ。ここに火を点ければ…」
シラージェが恐ろしい形相でそう言った時だった。
男性の叫び声が聞こえた。
「敵襲だ!」
「な、何なの!?」
シラージェは床に燭台を置いたまま困惑の声を上げる。
「逃げるぞ! この奥に隠し通路があるんだ。そこから逃げられる」
階段を駆け下りてきたのは陛下だった。
奇襲攻撃だったのか、陛下は寝巻き姿のままで、必死の形相で私の牢の鍵を開けようとしたけれど、私はそれを止める。
「逃げるのなら私を置いてどうぞ」
「……何を言ってる?」
陛下の質問には答えずにシラージェに言う。
「シラージェ、陛下と一緒に逃げなさい」
「……どういう事?」
「私は陛下と逃げるつもりはないわ」
「自分だけ助かるつもりか!?」
陛下はそう言った後、床が濡れている事に気付いて眉を寄せる。
「これは何だ…?」
「陛下と逃げても、私はシラージェに殺されます。私を人質にするつもりでしょうけれど意味はないですよ」
「シラージェ…、どういう事だ…?」
陛下が聞き返すと、シラージェが泣きながら答える。
「陛下の愛は私にだけ向けていてほしいんです!」
「それは無理だと言っているだろう! 僕の妃はリゼアに決めたんだ」
陛下に向かって私が言葉を返す。
「いいえ、陛下。あなたの妃になるのは私ではありません。私の夫になれる人はこの世に1人だけです。そして、陛下はその1人ではありません」
「いいかげんにしろ! リゼア!」
陛下が怒鳴った時だった。
「いたぞ!」
何人かの声と共に階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「くそっ!」
陛下はそう言って1人で奥に向かって走り出そうとする。
「待って下さい、陛下! 私も行きます!」
シラージェが叫ぶと、陛下は足を止めて信じられない事を言った。
「シラージェ、僕の事が好きなら足止めをしろ。僕を逃がす事で君の愛を証明しろ」
「……そんな」
シラージェが迷っている内に陛下が走り出し、私の所からは全く姿が見えなくなった。
「……シラージェ。もう逃げられないわ。足止めなんかは止めて逃げずに投降しなさい」
「……このままだと、陛下は処刑されるわね…?」
シラージェが震える声で聞いてきた。
「……そうね、そうなるわね」
「そんなの駄目よ。私達はずっと一緒なんだから…」
シラージェが呟いた時、兵士達が陛下を探して奥に向かって走っていった。
すると、意を決したかの様に、シラージェは床に置いていたバケツと燭台を手に取った。
バケツの中にはまだ半分くらいの灯油が入っていた。
「まさか…、シラージェ!」
シラージェはゆっくりと陛下が走っていった方向に向かって歩いていく。
その頃には兵士達の騒ぐ声が聞こえて、陛下が捕まった事がわかった。
「シラージェ、早まっては駄目よ!」
止めようとしたけれど、鍵を開けてもらえていなかった為、外に出てシラージェを止める事が出来ない。
それから1分も経たぬ内に、陛下の絶叫と兵士の怒号、そして、シラージェの笑い声が聞こえた。
「大丈夫です、陛下! 私もすぐにそちらにいきますから! 天国で2人だけの式を挙げましょうね!」
陛下の声は全く聞こえなくなり、あはははは、とシラージェの笑い声だけが響き渡ったのだった。
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