58 / 60
58 離れる人たち ①
ゲッティが鳩舎で働き始めて十日が経った頃、ティファリーはケインに会うために登城していた。
兄二人とのやり取りのために使われていたポッポとポポーポは、ここ最近はティファリーとケインの文通のために飛んでいるようなものだった。
二羽もティファリーに会いに行くと可愛がってもらえるし、美味しいご飯もある。天気のいい日は喜んで往復していた。
五日前にゲッティと女性たちの関係に変化が出てきたと、ケインを経由して世話係の責任者から連絡があった。
なぜケイン経由なのかと不思議に思ったが、ポッポたちに運ばせたほうが速いことを思い出して納得した。
責任者への返信とケインにゲッティの様子を見に行くことにしたことを知らせると、彼も一緒に様子を見に行きたいと手紙を返してきた。
断る理由もなかったため、ティファリーはケインの申し出を承諾した。
そして、今日の昼過ぎ、ティファリーは登城してケインと合流した。
2日ほど続いていた雨は今日になってやんだ。清々しいほどの快晴で気温も心地好い。鳩舎へと続く石畳の小道も太陽のおかげですっかり乾いていた。
久しぶりの晴れの日を喜ぶように、野鳥たちも嬉しげに鳴いている。
「ケイン殿下、今日はお付き合いいただき、誠にありがとうございます」
「礼を言われることじゃない。俺自身も気になっていたんだ」
「そうだったのですね」
(国民が不幸になると目に見えているのに、何もしないわけにはいかないといったところでしょうか)
ティファリーたちは領民のことを一番に考える。王家の場合は国民になるため、スケールが違う。
しみじみと考えるティファリーに、ケインが話しかける。
「女性たちについて、ティファリーの予想はどんなものなんだ?」
「……そうですね。ゲッティのことで女性たちに話をした時、彼女たちは私の話を信じてくれませんでした。口には出しませんでしたが、ゲッティを諦めさせるための嘘ではないかと疑ったのだと思ったんです」
「公爵令嬢がそんな嘘をつく……って、そうか。君の姉という事例があるか」
「そうなんです。疑う人がいることもおかしくはありません。それに彼女たちは私がどんな人物かも知りません。なら、話を鵜呑みにしなくてもおかしくはないと思い始めたんです」
彼女たちにとっては、ティファリーはゲッティよりも付き合いのない人物。しかも、恋敵が語る話を信じられないことは仕方がないのかもしれない。
「それで、ゲッティと長い時間、一緒にいるようにさせたのか」
「そうです。劣悪な環境にいれば本性も露呈されることでしょう。私の言葉が信じられないのであれば、実際に体験してもらったほうが速いかと考えたのです」
実際、その狙いは成功していた。今日、ティファリーがここに来たのは、彼女たちがどうしたいと思っているのか、確認したかっただけだ。
(目を覚ましているなら、ゲッティを見捨てるでしょう)
ティファリーとケインの目に鳩舎が見えてきた時、中から叫び声が聞こえてきた。
「ホッホローホッホロとうるさいんだよ! 静かにしろ!」
「もうやめて! ゲッティ、鳩に当たるなんて、あなたは本当に最低な男ね!」
「何も言わないでおこうと思ったけれど無理だわ! 私、やっぱり被害届を出します!」
「えっ?」
ゲッティの情けない声が、まだ少し離れた場所にいるティファリーの耳にも届いた。
兄二人とのやり取りのために使われていたポッポとポポーポは、ここ最近はティファリーとケインの文通のために飛んでいるようなものだった。
二羽もティファリーに会いに行くと可愛がってもらえるし、美味しいご飯もある。天気のいい日は喜んで往復していた。
五日前にゲッティと女性たちの関係に変化が出てきたと、ケインを経由して世話係の責任者から連絡があった。
なぜケイン経由なのかと不思議に思ったが、ポッポたちに運ばせたほうが速いことを思い出して納得した。
責任者への返信とケインにゲッティの様子を見に行くことにしたことを知らせると、彼も一緒に様子を見に行きたいと手紙を返してきた。
断る理由もなかったため、ティファリーはケインの申し出を承諾した。
そして、今日の昼過ぎ、ティファリーは登城してケインと合流した。
2日ほど続いていた雨は今日になってやんだ。清々しいほどの快晴で気温も心地好い。鳩舎へと続く石畳の小道も太陽のおかげですっかり乾いていた。
久しぶりの晴れの日を喜ぶように、野鳥たちも嬉しげに鳴いている。
「ケイン殿下、今日はお付き合いいただき、誠にありがとうございます」
「礼を言われることじゃない。俺自身も気になっていたんだ」
「そうだったのですね」
(国民が不幸になると目に見えているのに、何もしないわけにはいかないといったところでしょうか)
ティファリーたちは領民のことを一番に考える。王家の場合は国民になるため、スケールが違う。
しみじみと考えるティファリーに、ケインが話しかける。
「女性たちについて、ティファリーの予想はどんなものなんだ?」
「……そうですね。ゲッティのことで女性たちに話をした時、彼女たちは私の話を信じてくれませんでした。口には出しませんでしたが、ゲッティを諦めさせるための嘘ではないかと疑ったのだと思ったんです」
「公爵令嬢がそんな嘘をつく……って、そうか。君の姉という事例があるか」
「そうなんです。疑う人がいることもおかしくはありません。それに彼女たちは私がどんな人物かも知りません。なら、話を鵜呑みにしなくてもおかしくはないと思い始めたんです」
彼女たちにとっては、ティファリーはゲッティよりも付き合いのない人物。しかも、恋敵が語る話を信じられないことは仕方がないのかもしれない。
「それで、ゲッティと長い時間、一緒にいるようにさせたのか」
「そうです。劣悪な環境にいれば本性も露呈されることでしょう。私の言葉が信じられないのであれば、実際に体験してもらったほうが速いかと考えたのです」
実際、その狙いは成功していた。今日、ティファリーがここに来たのは、彼女たちがどうしたいと思っているのか、確認したかっただけだ。
(目を覚ましているなら、ゲッティを見捨てるでしょう)
ティファリーとケインの目に鳩舎が見えてきた時、中から叫び声が聞こえてきた。
「ホッホローホッホロとうるさいんだよ! 静かにしろ!」
「もうやめて! ゲッティ、鳩に当たるなんて、あなたは本当に最低な男ね!」
「何も言わないでおこうと思ったけれど無理だわ! 私、やっぱり被害届を出します!」
「えっ?」
ゲッティの情けない声が、まだ少し離れた場所にいるティファリーの耳にも届いた。
あなたにおすすめの小説
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
あなたの絶望のカウントダウン
nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。
王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。
しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。
ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。
「本当にいいのですね?」
クラウディアは暗い目で王太子に告げる。
「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」
ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。