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10  殿下とお食事

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「腹が減ってるだろう?」

 先程まで、殿下達が食事をしていた隣の部屋に連れ込まれたかと思うと、殿下からそう言われた。
 連れてこられた部屋は、料理を運ぶ準備室みたいな所で、部屋自体はそう狭くないけれど、簡易テーブルと椅子以外は、料理を運ぶカートなどがたくさん並んでいるだけだった。

 そして、その簡易テーブルの上に、まだ湯気がたっているスープやパン、サラダ、肉料理などが置かれていた。

「えっと…」
「お前は立ちっぱなしで何も食べてないだろ」
「それは、そうなんですけど」
「ルアは腹が減るとすぐにイライラするから、会食が終わる時間を見計らって用意させておいた」
「そうなるのは私だけじゃないと思いますけど」
「いいから、冷める前に食べろ」

 背中を押されて、私は食事が置かれているテーブルの椅子に座る。
 腹立たしい事に、私が座った向かい側にも椅子が置かれていて、案の定、殿下が座った。

「食べる所を見られるのって緊張するんですけど」
「テーブルマナーを教えるが、どうする?」
「多少は知ってますよ。これでも、一応、伯爵家の出ですから」
「これから、他の王族の前でも食べる事があるかもしれないし、復習しておいた方が良いんじゃないか?」
「そんな日は来ません」

 意地の悪い笑みを浮かべる殿下の言葉をはっきりと否定してから、食べる前の挨拶をして、まずはスープをすくう。
 かぼちゃのポタージュスープでとても美味しい。

 小さなテーブルではあるけれど、殿下が頬杖をつけれるくらいの空きスペースがあるから、彼は頬を緩ませた私を見て、頬杖をつき、珍しく優しい笑みを見せた。

「見ないで下さい」
「ルアだってさっきまで、俺が食事をしてるところを見てただろう?」
「真正面からじゃなかったじゃないですか!」
「じゃあ横から見る事にする」 

 そう言って、殿下は椅子を動かし、私の左隣りに座った。
 足を組み、自分の太腿の上に肘を置き、私の食事の様子を眺めはじめる。

「殿下、ご飯を用意して下さった事には感謝しています。ですが、一人で食べたいです」
「嫌だ。一人にしたくない」
「じゃあ、違う方向を見ておいて下さい」
「せっかく、ルアの顔が見れるのに、違う方向を見ていたらおかしいだろう」
「おかしくありません!」

 真剣に答えると、殿下は微笑む。
 こんな、柔らかい笑い方が出来る様になったのなら、他の人の前でも愛想よくすれば良いのに。

 メインディッシュのハンバーグを一口サイズに切って、フォークに刺して、殿下の口元に持っていく。
 お肉料理が相変わらず彼は好きじゃないから、今日の食事も殿下の分だけ魚料理だったので、少しは食べさせるために、やっている事が癖づいてしまっている。
 というか、一人前にしては大きなハンバーグなので、食べさせる事を見越してのものなのかもしれない。

「食べたぞ」

 ぼんやりしていたら、殿下の顔がすぐ近くにあって、慌てて空いていた手で殿下の口をおさえた。

「何してる」
「トラウマが…」
「トラウマとか言うな」

 殿下は私の手首をつかんで、自分の口からはなさせると、フォークを持っている方の手首もつかんだ。
 両手首をおさえられ、殿下の顔が近付いて、私の鼻先に彼のそれが触れた。

「で、殿下、駄目です!」 
「駄目じゃない」

 顔を背けて拒否すると頬にキスをされた。
 
「無理矢理は駄目だと思うんですが」
「抵抗したらいいだろ」
「抵抗できないようにがっちりつかんでるじゃないですか!」
「俺もトラウマがあるからな」

 だいぶ、根に持たれている。
 そんなに痛かったんだろうか…。
 まあ、痛いというのはよく聞くものね。

「好きな女と二人きりなのに、何もしないというのもおかしいだろ?」
「おかしくありません! 普通ですよ! 殿下の言い方なら、相手が既婚者でもしても良い事になるじゃないですか!」
「では、俺のみの場合にしよう」
「私は食事中なんですが!」

 その時、いきなり部屋の扉が開き、ヴァージニア様が叫んだ。

「ここにいたのね、ルルア! 私はどうやって帰ればいいのよ!?」
「申し訳ございません!」

 恥ずかしさと職務への焦りで、勢いよく殿下の額に頭突きして、何とかその場を乗り切った。

 いや、王太子に頭突きも良くないのは良くないけど…。
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