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15  癒やしの力と禁忌の魔法

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 ブリトニー卿が執務室の中に入るように、わたしとエルン様を促してくれた。
 そのため、帰りの馬車の手配をしなければならないけれど、部屋の中に入る前に、お馬鹿さん3人組を帰らせることにした。

「とにかくお帰りください。本来ならばあなたたちのしたことは許されるものではありませんよ。ムーニャ様は特に」

 王族だから何とか許されているのであって、普通の貴族なら門の中にだって入れてもらえないはずだわ。

 というか、テイル公爵家は相手にする暇もないくらい忙しいといった感じかしら。

「このことは両陛下にお伝えしますから」

 冷たく言うと、三人は焦った顔になった。
 そして、テナミ様が一番に口を開く。

「そういえば、やらないといけないことがあるのだった。失礼する」
「ぼ、僕もだ! では!」
「わ、私もですわ!」

 ムーニャの場合は置いていかれたくないといった感じで、二人の後を慌てて追いかけていった。

 その後は執務室の中に入り、アクス様とブリトニー卿に三人の非礼を詫びた。

 私が詫びるのもどうかと思ったけれど、昔の婚約者や友人たちだったため、何も言わないのもどうかと思ったのだ。

「リアンナ嬢に謝ってもらう必要はない。それよりも、今日はどうしたんだ」

 さすがに仕事をしながら、わたしの相手をするのは失礼だと思ったのか、アクス様は書類仕事の手を止めて、わたしに目を向けた。

「いえ。以前、お話できなかったことを伝えに来ただけです」

 エルン様が心配して、わたしに相談しに来てくれたんです、と言うのもどうかと思ったので、そう答えた。

「できなかった話?」
「ええ。目のクマが酷いようですから気になったんです。ちゃんと眠れていますか?」

 アクス様の目の下のクマは以前よりも酷い気がするので、答えは聞かなくてもわかる。

「眠れてはいる。それよりも聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
「ムーニャ嬢は魅了魔法が使えるんだろうか?」

 アクス様は目を閉じてこめかみを押さえる。

「どういうことですか?」

 近くにあるソファに座るように促されたけれど、アクス様の様子が気になって近づくと、突然、アクス様が眠り始めた。

「「「えっ!」」」

 話の途中で眠り始めてしまったので、わたしだけじゃなく、ブリトニー卿やエルン様までもが驚きの声を上げた。

 近づいて顔を覗き込んだり、目の前で手を振ってみても、一向に起きる気配はない。

 せっかく眠れたのだから起こすのも何だと思って、部屋から静かに出て行こうとすると、アクス様の目がぱちりと開いた。
 そして、驚いた顔になって言う。

「今、寝てたのか?」
「寝てましたね」

 ブリトニー卿が頷くと、アクス様は両手で顔を覆う。

「前回もこんな感じだったんだ。リアンナ嬢が近づいて来ると眠くなる」
「そうなんですか?」

 そう言って、また近づいていくと、アクス様がまた眠ってしまった。

「わたしから何か眠るオーラでも出ているんでしょうか」

 ブリトニー卿に尋ねると、思案顔で答えてくれる。

「それも聖なる力なのかもしれませんね。アクス様はかなり疲れておられますので、眠ることによって癒やしになるのではないでしょうか」
「お兄様が眠っているところなんて初めて見ましたわ! しかも、こんなに大きな声でお話をしていても起きないだなんて」

 エルン様が感動した様子で言う。

 アクス様が眠ってくれたことや、エルン様が喜んでくれることは嬉しい。
 でも、わたしはこのままどうしたら良いのかわからない。

 結局、わたしが立っているところに椅子を持ってきてもらい、そこに座ってアクス様を眺めながら、エルン様と会話をし、その間にブリトニー卿は仕事をしながら、わたし達の相手もしてくれた。

「先程、アクス様も聞いておられましたが、バケッソ伯爵令嬢は魅了魔法でも使えるのでしょうか?」
「どういうことでしょう?」
「僕は大丈夫なんですが、アクス様はバケッソ伯爵令嬢が近づいてくると、急に彼女が愛しくなるんだそうです」
「それは恋をしているのではなくてですか?」
「ええ。普段は思い出すだけでも嫌なんだそうです」

 ブリトニー卿が苦笑して言った。

 一体、どういうことなのかしら?
 魅了魔法というものが存在するのは知っている。

 でも、その魔法を使うことは禁忌とされているから、使っていることがわかれば処刑される可能性もある。

 ムーニャはそんな馬鹿な魔法を使っているのかしら?
 馬鹿だから、ありえないことはないけど――

 
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