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16  嫌な知らせ

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 アクス様が眠ってから2時間程経った。

 さすがに動きたくなってきたのと、アクス様の仕事の都合もあるだろうということで、わたしは立ち上がって、彼から離れてみた。

 そうすると、また、ぱちりと目を覚まして、目が合ったわたしを凝視する。

「また、眠ってしまっていたのか? どれくらい?」
「2時間くらいです。本来ならもっと寝ないといけないんでしょうけれど、今は夕方ですし、寝るなら夜のほうが良いだろうと思いまして」

 夜に傍にいることは出来ないけれど、ベッドに横になれば普通は眠くなるはずだから、今の時間に眠らせることは良くないと考えたのだ。

「まだ、頭がぼんやりするけど、体がかなり楽になった気がする。ありがとう」
「いいえ。お役に立てたのであれば良かったです。ところで、ムーニャ嬢の魅了の件ですが、もし、使えるのであれば、黙っているような子ではないと思うんです。ですから、本人も知らない内に使っている。もしくは、魅了の魔道具を身につけているのかもしれません」

 自分でそこまで言って、思い当たることがあった。

 そういえば、ムーニャが昔から気に入ってつけている紫色の石のついたブレスレットがある。
 たしかあれは、一時期、貴族の女性の間で流行ったおまじないに使われたものだった。

「昔、願い事が叶うおまじないが流行ったんです。その時に、ムーニャは何を願ったかはわかりませんが、紫色の石に願いを込めて、それを持ち続けていると願いが叶うんだと言ってました」
「今もその石を持ってるのか?」
「はい。ブレスレットのチャームにして付けています。彼女のことですから、人気者になりたいとか、素敵な人にモテたいなどのお願いをしたんだと思います」

 わたしが答えると、ブリトニー卿が手を挙げて聞いてくる。

「僕になんの影響もないのはなぜなのでしょう?」
「ブリトニー卿には好きな人がいらっしゃるのではないですか? そういう方には効かないんだと思います」
「えっ! いや、まあ、それは」

 なぜか焦るブリトニー卿にエルン様が目をキラキラさせて尋ねる。

「トーマ様には婚約者はいらっしゃいませんでしたわよね? ということは、好きな方がいるのですね?」
「え! あ、まあ、そうと言いますか」
「応援しておりますわね!」
「あ、はい、ありがとうございます」

 エルン様に応援されて、ブリトニー卿の元気がなくなったように見えた。
 もしかして、ブリトニー卿はエルン様のことが好きなのかしら。
 好きな人に恋の応援をされても複雑なところよね。

 コホンと咳払いをしてから、アクス様が言う。

「何にしても、彼女に近づかないほうが良いということはわかった。色々と詳しい話を聞きたいから、良かったら夕食を一緒にどうかな」
「有り難いお言葉ですが、屋敷のものが心配しますので」
「すぐに連絡を入れさせる。帰りも送っていくと言っても駄目かな」
「で、ですが、わたしと噂されても困りますでしょう?」
「ああ、そうか。その心配があるのか」

 少し考えてから、アクス様が提案してくる。

「では、改めて話をする機会を貰えないだろうか。二人きりだと誤解を招くから、エルンも一緒にどうだろう」
「承知しました。もし、ご迷惑でなければ、テイル公爵領の教会で聖なる力を使って治療をしているんです。遠くからでも良いので、領民の姿を見てみるのはいかがでしょうか」
「わかった」

 アクス様はすんなりと了承してくれた。

 そして、日時や場所については改めて、エルン様に連絡することを伝えて、馬車の手配をしてもらった。

 そして、わたしは公爵邸を後にし、自分の家には戻らずに、両陛下の元に向かった。

 夕食の時間もかなり過ぎていたけれど、両陛下は嫌な顔一つせずに謁見を許してくれた。

 そして、わたしの話を聞いた陛下はテナミ様たちを軟禁することに決めた。

 反省しないようなら、新たな罰を考えると言ってくれた。

 これで、もう、あの三人はテイルス邸には行かないだろうと安心して屋敷に帰ると、レブさんたちが心配した様子で出迎えてくれた。
 慌てて遅くなったことを詫びると、レブさんたちは苦笑する。

「連絡が来ましたので、そちらについては大丈夫です。他の件で大変なことになりそうです」
「どうかしましたか?」
「リアンナ様のご家族がこちらに向かって来ているそうです」

 思ったよりも早い展開に、わたしは大きくため息を吐く。

 両親はなんて言ってくるかしら。
 とにかく、門で止めてもらって、弟妹の様子も確認してみましょう。
 
 覚悟を決めてから、遅めの夕食をとることにしたのだった。
 
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