人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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13 いじめ行為に対する処罰②

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「どういうことですか?」

 いくら考えても理由がわからないようで、デイリ様はエディ様に尋ねた。

「まあ、その内わかるよ」

 エディ様は答えを教える気は全くなさそうだった。

 考えなくてもわかる気はする。
 でも、本人は昨日のことをいじめだと思っていないから、ことの大きさに気付いていないのかもしれない。

 デイリ様は気持ちを落ち着けるかのように大きく深呼吸すると、エディ様にではなく、私に話しかけてくる。

「リネ、やっぱり君と話がしたい。二人きりで話そう」
「お断りします」
「どうしてだよ? 暴力をふるったりしない。誤解を解くだけだ」
「暴力をふるわれなくても、婚約者以外の男性と二人きりになることはできません」

 私が首を横に振ると、デイリ様は不機嫌そうに眉根を寄せた。

 でも、今の状況が自分に不利な状況であることはわかっているらしく、何も言わずに引き下がり、教室の中に戻っていく。

 すると、デイリ様と入れ替わりに教室から出てきた人物がいた。

 出てきたのは満面の笑みを浮かべたエレインだった。

「エレイン!?」
「おはようございます、エディ様、リネ様」

 ハーフアップにしているエレインは、昨日と違って落ち着きのある雰囲気で清楚なイメージだ。

「おはよう」

 エディ様と共に挨拶をする。

 エレインは満面の笑みを浮かべたまま、私のところへ駆け寄ってきた。

「髪型やお化粧は公爵家のメイドにやってもらったのですか? まるで別人みたいです!」
「昨日のリネも可愛いよね」
「それはもちろんです」

 エディ様にすかさず尋ねられて、エレインは慌てた表情で頷いた。

「無理に可愛いだなんて言わなくても大丈夫よ?」
「いいえ。本当にお可愛らしいです!」

 私が苦笑すると、エレインは朝から溌剌とした笑顔を私に向けてくれる。

 こんな風に明るくできたなら、お姉様とも上手くやれていたのかしら?

 そんなことを一瞬だけ思った。
 でも、すぐにそんな気持ちはどこかへ追いやる。

 ここまで仲がこじれたのだから、また仲良くなりたいとも思わない。

 黙っていたからか、エディ様たちが心配そうに私を見ているのに気が付いて、エレインに話し掛ける。

「もしかして、エレインが同じクラスになったの?」
「はい! これからよろしくお願いいたします!」
「こちらこそよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げてくれたエレインに、私も頭を下げた。

 その後はエディ様と別れて、どうしてエレインが私のクラスに来ることになったのか、彼女に尋ねてみた。

「まだ学年が変わるまでに時間があるからですね。どこの学校もそうですが、いじめを認めている学校なんてありません。しかも、先生も知っていて知らないふりをしたり、他の生徒に口止めしていたのでしょう? ありえません」

 エレインは眉根を寄せて話を続ける。

「自分で言うのもなんですが、私というイレギュラーな人間が入ることによって、これ以上のいじめはできなくなるはずです」
「もうすでにバレてしまったから、これ以上やると自分たちが責められるということは、普通の人ならわかるものね」
「はい。ただ、バレないようにまたやろうと言う馬鹿は必ず出てきます。私が抑止力になろうと思います」

 私へのいじめが無くなっても、ターゲットが変わるだけなら意味がない。

 そうならないようにエレインが監視するようだった。

 私としては今までクラスで一人ぼっちだったから、エレインが来てくれたのは嬉しい。

 これからどうなるのだろうと思いつつも、授業を受けることにした。

 フールー伯爵令嬢の取り巻きが一人いなくなり、エレインが入ったことによって、パワーバランスが崩れた。
 
 私のクラスで一番上だったのは、父親が候爵であるデイリ様だ。

 デイリ様がいじめのことで処分されるだろうということは、本人以外は分かっていた。

 エレインは伯爵令嬢だけど、エディ様の側近候補のため、クラスメイトのほとんどが彼女に逆らわないほうが良いと考えたようだった。

 クラスメイトの様子を見たフールー伯爵令嬢もチープ男爵令息も身を小さくするだけで、今までのように私に絡んでこなくなった。

 その日、たまたまクラス内で二人ペアになる授業があった。

 いつもなら私が一人あぶれていたり、誰かが休みの場合は嫌そうにされながらも組んでもらっていた。

 でも、今日は違った。

 エレインは私のところに来て「ペアになっていただけますか」とお願いしてくれた。

 そして、ペアになれなかったのは、フールー伯爵令嬢の取り巻きの一人だった。

 私へのいじめに関しての直接の加害者じゃない人たちは、フールー伯爵令嬢やその取り巻き、チープ男爵令息、デイリ様と話すことを嫌がった。

 下手に関われば、自分も何か処罰が下るかもしれないと怯えていた。

 取り巻きの令嬢は一人ぼっちで泣いていた。

 私もあの状態になっていた。
 私は泣かなかったけれど、とても辛かった。

 その気持ちがわかってくれたかしら。
 悪いことをしてしまったなと思ってくれたら良いなと思う。

 その日は、休み時間ごとにクラスメイトが私に謝ってきた。

『見て見ぬふりをしてごめんなさい。自分がターゲットになるのが嫌だった』
『他人の不幸を見て楽しんでしまっていた』

 など、素直な気持ちを私に伝えてくれた。
 そして、これからは二度とこのようなことはしないと言った。

 私にはエディ様がいてくれたから、変わるきっかけが出来た。

 エディ様が話しかけてくれなかったら、私は、今、ここにいたかわからない。

 もし、どこかに悲しい思いをしている人を見かけたら、出来れば助けてあげてほしいと、クラスメイトにはお願いした。

「都合のよいことばかり言ってくるものですね!」

 昼休み、エレインと一緒に食堂の隅で四人がけの丸テーブルを挟んで向かい合い、昼食をとっていた。

 すると、私たちに近付いてきた人物がいた。
 私のクラスの担任の先生、セルフ先生だった。

 先生は憔悴しきった顔をしていて、いつも私に向けてきていた厳しい目は弱々しいものになっている。
 皺一つない白いシャツに黒のスカートはいつもの先生の格好だ。
 身だしなみが大事だと言い、男性を意識していた化粧も今日はしていないようで、まるで別人のようだった。

「ティファスさん」
「……なんでしょう」
「許してください」
 
 先生は私のすぐ近くの床に座り、床に額を付けて謝ってくる。

「お願いです。許してください。許してもらえなければ私はクビです。婚約者からも婚約破棄されてしまいます。お願いします!」
 
 先生は大勢の前で謝ることにより、私が「許さない」と言い出しにくいようにしたみたいだった。

 床から額を離し、私を見つめてくる先生の目には涙が溜まっていた。

 可哀想。
 だけど、涙なんて私は何度も流してきた。

「……先生の言っておられることは自分の都合だけですよね? 本当に反省しておられるのですか?」

 私が尋ねると、先生は驚いた表情になった。

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