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第17話 婚約破棄

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 どうして、お兄様があんな事を言ったのかわからないまま、数日が過ぎた。

 ルーブンの専属メイドのドロシーが間に入ってくれて、わたしはお兄様やマレフィナ様達に気付かれる事なく、イロアスと連絡を取っていた。

 お兄様はもしかしたら、わたしの味方なのかもしれない。

 あの時、私を殺したのには理由があった?

 でも、お兄様は悲しそうな顔をしていたかしら?
 それに、ルーブンまで殺す必要はあった……?

 こんな気持ちをイロアスに伝えると、お兄様の件については、お父様に相談したらどうかというアドバイスが返ってきた。

 だから、わたしはお父様に時間を作ってもらい、お兄様の発言について話をしてみた。
 すると、お父様は教えてくれた。

 わたしの家系の女性は、家族に殺されると過去に戻る事が出来るのだと…。

 わたしが過去に戻れたのは、からだった。

 ……言い方がおかしいわよね。
 殺してくれた、だなんて…。

 となると、ルーブンは巻き込まれただけ…?
 
 ううん。
 お兄様がああしなくても、マレフィナ様が、あの場にいたルーブンを殺そうとするかもしれない。
 
 彼女が幼い頃、虫をいたぶって、じわじわと苦しませて殺しているのを見た事がある。

 怖くて、その事を本人にも他の人にも言えなかった。

 ルーブンはあの時、助かっても、マレフィナ様にもっと酷い形で殺されていたかもしれない。

 だから、お兄様はルーブンに関しては、すぐに楽にしてあげたのね。

 わたしに関しては、マレフィナ様の希望で、あんなやり方になったのかもしれない。

 でも、殺す以外に方法はなかったの…?

 ……そうね…。

 あの時のお兄様には誰一人味方がいなかった。
 お父様達は病に冒されていたし、イロアスを巻き込むわけにもいかなかった。

 結局は、わたしにも原因があったのね。

 お兄様の苦しみを全く理解できず、マレフィナ様の言いなりになっている、お兄様をどこか心の中で嫌がっていたんだわ…。

 わたしは逃げてばかり。

 お兄様に苦しい思いをさせて、わたしは自分の事ばかり考えている…。

 ある事を考えたわたしは、イロアスにまた連絡をした。






 次の日の放課後、わたしのクラスまで来てくれたイロアスは心配げに聞いてくる。

「何かあったのか?」
「イロアス、お願いがあるの…」
「お願い?」
「どうかわたしを――――」

 わたしのお願いを聞いたイロアスは何度も駄目だと言った。

 けれど、わたしも引かなかった。

 最終的にはイロアスも折れてくれて、わたしのお願いをきいてくれる事になった。

 そして、それから数日後、わたしとトマング殿下の婚約は王太子殿下により、強制的に婚約破棄となり、時を同じくして、イロアスとロリアンナ様の婚約も破棄された。

 トマング殿下の希望により、ロリアンナ様との婚約が進むという話を聞いている中で、不穏な動きをはじめたのは、マレフィナ様と、そして、トマング殿下との婚約を阻止したい、ロリアンナ様だった。

 婚約破棄の手続きが終わり、生活が落ち着き始めてきた、とある日の昼下り。
 イロアスと家族、そして使用人しか知らない、わたしの家の敷地内にある池の畔で、のんびりと本を読んで過ごしていた。
 わたしの近くにいるのはドリーしか見えない。
 敷地内だから、護衛も必要なかったから。

 そこへ、突然、ロリアンナ様が1人で現れた。

 恐ろしい形相で現れたロリアンナ様の手には、ナイフが握られていた。

 何とか平静を装い、本を閉じて立ち上がる。

「ロリアンナ様、あなたが怪我をされますよ?」
「うるさいわね! 怪我をしたっていいわ! あんたなんか殺してやる!」

 短絡的な考えね…。
 こうなると思っていたのよ。

 マレフィナ様は止めなかったんでしょう?

 だって――。

 ドリーの方をチラリと見ると、彼女は申し訳なさげにわたしから視線をそらしただけだった。

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