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事故物件2

寂れた住宅街

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 ネズ子はネズミの姿に戻ると、そのままどこかへ走り去っていった。

「それじゃあ、仕事の話に入りましょうか」

 そう言ってディレクターは、鞄から手書きの地図を取り出す。

 地図と言っても、住宅街の簡略図だけどね。

 ディレクターは、その一カ所を指さした。

「今、私たちがいる場所はここ。あなた達が、これから行く物件は丸印のついている場所よ。ここから先の道は、居住者専用道路なので車は入れないから、あなた達二人だけで行ってね」

 え? 案内してくれないの?

「私は、ここで車の番をしていないといけないから」

 そう言ってディレクターは、前の方を指さす。

 緑の制服に身を包んだ二人の女性が、こっちに向かって歩いてくるのが目に入った。

 駐車監視員か。

「私が車から離れてしまうと、あのお姉さん達に怒られちゃうからね」
「駐車場に入れればいいじゃないですか」
「近くにコインパーキングがないのよ」

 それじゃあ仕方ないですね。

 僕と魔入さんは、地図を受け取ると物件に向かって歩き始めた。 

 それにしても、寂しい住宅街だな。

 空き家がやたらと目立つ。

 その中には、地縛霊の姿もチラホラ……

「ディレクターの話では、この住宅街は高齢化によって、住民が激減しているのよ。もう自治会も維持できないくらいに……」

 へえ、そうなんだ。

「住民のほとんどが高齢者だそうよ。もしかすると、その中には人知れずお亡くなりになった人もいるかもしれないわね」

 ん? もしかするとって?

「魔入さん。気が付いていないのですか?」
「何が?」
「僕らの後ろから、霊がいくつも付いてきている事に……」
「ええ!?」

 魔入さんは慌てて振り向く。

 そこには、爺さん婆さんの姿をした霊体が空中を漂っている。

「このひと達、さっきから僕らの後で意味不明の言葉をブツブツと呟いています」
「私にもぼんやりと姿が見えるけど、声までは聞こえないわよ。意味不明って、外国語?」
「いえ。日本語です。ただ、単語を羅列して言っているだけで、意味をなしていないという事です」

 というか、普通はそういう霊の方が多いけどね。

「なるほど。それで、この霊達、危険はないの?」

 よこしまな波動もあるので、決して安全とは言い切れないが……

「今のところは大丈夫です。僕らに危害を加えるほどの力はありません。ただ、話の断片を繋ぎ合わせて推測したのですが、先ほど魔入さんが言っていた、人知れずお亡くなりになられた方々のようです」
「という事は、この住宅地では、これだけの人たちの遺体が、まだ発見されないまま放置されているって事?」
「そうなりますね。それで一応、こういう事があったら、霊能者協会に報告を入れる事になっていますので」

 僕はスマホを取り出すと、芙蓉さん宛にメールを送るために立ち止まった。

『○○団地内にて、不成仏霊多数と遭遇。団地内に未発見遺体多数ある可能性大』

 こんな文面でいいかな。

 送信ボタンをポチっと押した。

「では、行きましょう」

 僕たちは再び歩き出す。

「社さん。霊能者協会では、こういう報告を受けたらどうするの?」
「まず関係各機関、関連自治体に報告して協議し、調査する事が決まったら、協会の霊能者が警察官と一緒に団地内へ調査に入る事になっています。その結果、未発見遺体のある可能性がある家が見つかり、それが空き家だった場合、その家の権利者を探し出して家に入る許可をもらいます」
「なるほど。警察でも、無断で家には入れないのよね。それで、空き家で無かった場合は?」
「その場合は、その住民がなんらかの理由で家族の遺体を隠している可能性があるので、警察が調査する事になっています」
「それって、家族を殺したとか?」
「そういう事もありますが、たいていの場合は家族が亡くなっても、どうしていいか分からないで放置しているとか、あるいは年金を不正受給するために遺体を隠しているとか……」
「なるほど……あ! この家じゃないかしら?」

 魔入さんの指さす先には、資料の写真に写っていた家と同じ二階建ての木造家屋があった。

 蔦の覆われ方が若干異なるような気がするが、まあそれは写真が古いからだろう。

 それはいいのだが、ディレクターの言っていた事とは少し……いや、かなり違うな。

 こりゃあ、樒を呼んだ方が良さそう。

 僕はさっそく、ここの住所と事情を書いたメールを樒に送った。

 程なくして、樒から電話がかかる。

『優樹。念のため待機していたけど、この場所だとバイクを飛ばしても二十分はかかるわよ』
「分かった。とりあえずこっちへ向かってくれ。ただし、スピード違反にはならないように」 

 電話を切ると、魔入さんは怪訝な目で僕を見ていた。

「社さん。神森さんを呼ぶの?」
「ええ。退魔銃だけでは、対処できないかもしれないので」
「だって、ディレクターも危険はないと言っていたわよ」
「いいえ」

 僕は首を横にふった。

 ディレクターが何を根拠に危険がないと言ったのか知らないが、実際に見た物件からは、とてつもない禍々まがまがしい波動が発生している。

 この物件は危険だ!
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