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事故物件2

主導権争い

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 魔入さんは両手を前に付きだした姿勢で、僕の方へとジリジリと歩み寄ってきた。

 逃げようにも、蔦に絡み捕られた僕の四肢はピクリとも動かせない。

 かろうじて動かせる首を動かして周囲を見回したが、ネズ子もどうやら捕まったみたいだ。

 ネズミの姿のまま、蔦に絡め取られて抜け出せないでいる。

 待てよ!? あれは本当にネズ子だろうか?
 
 もしかして、間違えて本物のネズミを捕まえているのでは?

「ネズ子さん! 大丈夫ですか!?」

 これで返事がなければあれは本物のネズミ。

 ネズ子はどこかに潜み、反撃の機会を伺っている可能性もあるのだが……

「優樹君。あたしなら大丈夫でちゅ。でも、抜け出せないでちゅ」

 あかん。やっぱり捕まっていたのはネズ子だった。

「他人の心配をしている場合じゃないわよ。坊や」
「うわ!」

 魔入さんが、僕の上に覆い被さってきた。

「うふふ。可愛い」

 顔が近づいてくる。

 キスをする気か!?

 避けようとしたが、顔を押さえつけられて動かせない。

「ヤダ! やめて!」
「うふふ! ヤダなんて嘘はいけないわ。こんな綺麗なお姉さんとキスできてうれしいでしょ」

 そりゃあキスは気持ちいいけど、それは好きな人同士が同意の元でやるべきであって……

 なによりもこれって、キスと言うより、口から僕の精気を吸い取る気だし……

「魔入さんの身体で、そんな事をするな! 彼女は、僕とのキスなんて望んでいない」
「うふふふ。この女も、君とこういう事をしたいみたいよ」
「嘘だ!」
「本当。そうでもなければ、私も簡単には憑依できないわ」
「魔入さん、目を覚まして!」 
「無駄よ。無駄無駄。本人に逆らう意志がないのだから」

 そして唇が触れた。

 途端に僕の身体から力が抜けていく。

 だめだ! このままじゃ精気を吸い尽くされる。

「六道魔入。目を覚ますでちゅ!」
 
 突然ネズ子が叫ぶ。

「このままだとあなたは、小学生男児にキスを強要したことになり社会的に死ぬでちゅ」

 魔入さんは僕から唇を放し、ネズ子の方を睨みつける。

「五月蠅いネズミね。見た目はともかく、この子は高校生でしょ」
「この部屋の様子をネット動画で見ている人達は、優樹君の実年齢を知らないでちゅ。六道魔入が、小学生男児を襲っているように見られるでちゅ」
「ネット動画だと? 実況でもしているのか!?」
「そうでちゅ。おまえが入ってくる前に、この部屋のあちこちにカメラを仕掛けておいたでちゅ」

 たぶん、これははったり。ネズ子には、そんな事をしている余裕はなかったはず。

「だからなんだ? この女が社会的に死のうが、私の知った事では……う……う……この……」

 どうしたのだろう? 悪霊の様子がおかしい。

 突然、魔入さんが僕から離れた。

「冗談じゃないわよ! こんな事をしたら、私の社会的信用がなくなるじゃないの!」
「この女! 今頃になって逆らうな!」

 どうやら、魔入さんと悪霊が身体の主導権を争っているらしいな。
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