治療と称していただきます

茜菫

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第一部

そばにいるから(23)

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 愛し合っている恋人や夫婦、そこまで至らずとも想いあっている男女がするもの、そして童話のように呪いを解いてしまえるもの。エレノーラが夢見ていたキスは、想像していたよりも素敵で、幸せな気持ちになれて、気持ちがよかった。これなら本当に魔女の呪いさえ解いてしまえそうだと、思えるくらいに。

(…享楽の魔女が残した呪いのような魔法が、キスで解けた…って言えるかも?ちょっと無理やりかしら)

 彼女はレイモンドの頬に手を添えたまま、顔を寄せて唇を重ねた。そのまま何度もリップ音を立てながらキスを繰り返し、唇を甘く食む。彼女が唇を薄く開いて舌を差し出すと、レイモンドも同じように唇を開いて舌を絡め、彼は彼女の背に腕を回して抱き寄せた。

「ん…」

 そのまま、二人は体を擦り寄せながら何度もキスをし、舌を交えた。エレノーラは彼の口内に舌を這わせているうちに、お腹の辺りに硬くなったものがあたっていることに気づく。唇を離し、吐息がかかる程の距離で見つめると、レイモンドは少し興奮した様子で彼女の目をじっと見つめ返した。

(…このまま、食べちゃいたい…)

 エレノーラがじっと見つめ合いながら、脳内でレイモンドの服を脱がせたあたりで、彼が彼女の唇を片手で塞ぐ。

「んー」

 彼女が何をするのかと、口を塞がれてしまって喋れないので抗議の目で見れば、レイモンドは顔を赤くして目をそらした。

「…エレノーラ、ここじゃだめだ」

 そして、反対の手で彼女の、いつの間にか彼の服を掴んでいた手を握る。

(けれど、一齧りくらい…いえ、一舐めくらいは…)

「だ、め、だ!」

「んーんー」

 エレノーラはまだ何も言っていないじゃないと言いたかったが、塞がれていたため変な声しか出なかった。仕方なく頬をふくらませて見せるが、レイモンドは首を横に振る。

 レイモンドが離れようとすると、エレノーラはがっしりと抱きついて、離さないという気持ちを込めてじっと彼の目を見つめた。彼女は観念したように手を離し、彼女は自由になった唇を尖らせる。

「…っエレノーラ、出よう」

「もうちょっとくらい、いいじゃない。もう、魔法は全部解除できたんだから」

 この廃墟にはもう、魔法が使われている気配はない。連絡が取れなかった魔道士二名も無事に見つかり、エレノーラの任務は全て完了した。

(一度実績を作ってしまったから、また隠れ家が見つかったら、駆り出されるわね…)

 そこでまた、あの幻覚魔法があったら。エレノーラはあまり考えたくなくて、先に少しご褒美をもらって目を逸らしておきたかった。
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