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第三章

8 会いに行くか?

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私たちはどうやってこの部屋に辿り着いたのだろう、いつの間にかソファに腰を掛けていた。
「見目の麗しかった其方らのその窶れよう、相当堪えたようだな?」
「「っ!!!はい・・・・・・」」
「スイはな、この世界に来て弱くなった。お前たちの責任でな」
「私たちが弱いからですね」
「・・・否、護られる立場にもなったからだ」
「っ!」
青龍殿は綺麗な所作でカップを持ち上げると、一口だけ口に含み、そして唇を濡らす。
「あやつは『護られる』という立場にはなくて、命を賭してでも『護る』側だったのだ。常にだ」
「何をでしょうか?」
スイはそこまでして護らねばならない『愛する人が元の世界にいた』ということなのか?
「そうだ、愛する者がいたんだよ、スイには」
「「っ!!!くっ」」
「だが、それは『仲間』であり『家族』であった『同士』だ。本当の恋人でも家族でもない。ま、あやつに血の繋がった親族はもういないのだがな」
「「えっ??」」
そういえばスイの家族の話を詳しく聞いたことはなかった。バーミリアで父親がミイラとして見つかったこと以外は。
「本人が言わないことを我が言うのは戸惑われる」
「そうですね・・・・・・」
私たちに話してくれないって事は、まだ信用されていないということなのか?
「その考えは違っている。『言う必要がない』だけだ」
「声に出ていましたか?」
「いや、顔に出ていた」
王族たる者、表情に出すとは精進が足りないな。
「で、お前たちはどうしたいのだ?あいつに謝りたいのか?それならば我は手助けせぬが?」
「手助け・・・?」
「逢えるのですか、スイに?」
「お前たちの答え次第で、『否』とも『是』とも言えよう」
急に目つきが鋭くなり、私たちを射貫く。
「私は・・・・・・自分の未熟さを思い知りました。ここにいる誰よりも子供であったと」
「俺は、『忌み嫌われる』ことに慣れて、またその辛さを理解している最もたる人間で有りながら、スイを否定してしまった・・・・・・・」
まさかジルフォードがそんなことに慣れていたなんて、陰で言われていたことに気付いていたなんて。私たち家族はそのことすら気付かなかった、ジルフォードが身体のことだけでなく心も苦しんでいたことに!!
「人間とはそういう者だ。自分が見たくないモノを見るとそれが正当であれど、否定し、自分を正当化する。ま、スイの世界ではこれは『子供が行う行為』だが、たまに大人でも存在する」
つまり、私たちは『恥辱な大人』と言われたも同然だ。
「だが、まあいいだろう。今、気付いたのだから。さて、ではスイに謝りに行くか?」
「「はいっ!!」」
「そして、アシュレイ兄弟、アルバート、エリアスは会いに行くか?」
「「「「もちろんでございます!!!!」」」」
「ふむ、では持っていく物だけ取ってすぐに戻ってこい」
「「はっ!!」」
私とジルは急いで、スイと私たちお揃いの結婚指輪と団長の印であるピアスを自室に取りに行こうと扉に足を向けたが、聞いてはいけないことが聞こえてしまったため足を留めてしまったのだ。
「レギウス、貴殿は自国で待て。スイを伴い必ず助けに行く」
「はっ!有り難きお言葉!」
「その前にお前に溜まった『瘴気』を我が受け取ろう」
青龍殿はレギウスの額に人差し指を宛がい、そして、「覇っ!」と叫ぶと同時にどす黒い塊が魔王から溢れ出て、青龍殿に吸い込まれていく。
「ふむ、よく持ちこたえた。もう一つ力を貸そう」
魔王の腕に金色で蒼い透明な宝石が埋め込まれたブレスレットを填める。
「これはな瘴気を吸い取ってくれるかなり貴重な装飾品だ。瘴気を取り込むことで透明な部分が黒く変色してくる。気休めで申し訳ないが、これを渡しておく」
「いえ、感謝しかございません!」
「それとな、スイと身体を交合わせることを覚悟しておけ」
「「「なっ!?」」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その言葉に私とジルフォードは、
「「なんですとぉぉぉぉぉぉっ!!」」
と叫んでも誰も咎めやしなかった。
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