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私はこれからの残りの人生をこの子と二人、祖国の属国とはいえ、離れた地で暮らしていくことになるのだろうか。
膨らみかけたお腹に手をあてる。
エドワード様がいない地で過ごす日々は幸せなのだろうか。

「ユキ様。私はなにもわかりません。掃除も洗濯も炊事もできません。やったことがありません。そんな私でもここで暮らしていくことができるのでしょうか。」

私は人に世話をされて生きてきた。
故に、掃除の仕方も知らない。
洗濯の仕方も知らない。
食事の作り方も知らない。
ユキ様に言われるがまま逃げてきてしまったが、使用人なしで生きていけるのか今になって不安になってきた。
それに、マコト様の部屋を使わせてもらえるということだが、私が持ってきた品々はどれもこれもここでの生活には役に立ちそうにない。

「大丈夫。少しずつ教えてあげるわ。完璧にこなさなくてもいいのよ。及第点だけ取れれば大丈夫だから。」

「完璧でなくても良いのですか・・・?」

皇太子妃になることには、全て完璧を求められてきた。
字の美しさ、洗練された身のこなし。高い教養に社交力。
そのどれもが皇太子妃として完璧を求められていた。

「何もかも完璧にできる人なんていないのよ。人には向き不向きがあるわ。苦手な分野はそれなりに、得意な分野で人の分まで役に立てればいいのよ。」

ユキ様はそう言って、私の目尻に浮かぶ涙を優しく拭き取ってくれた。
いつの間にか私は涙を浮かべてしまっていたようだ。
ユキ様と相対するとどうしてか、感情が押さえられない。

「無理はしないで。レイチェル。お腹の子に響くわ。でも、不思議ね。私の知っているゲームと貴女は姿形は同じでも性格がぜんっぜん違うわ。それにエドワードの子を妊娠しているだなんて・・・。」

「はしたないとお思いですか?」

この国では一般的に婚前交渉ははしたないとされている。
ただ、相手が婚約者の場合は容認されているのだ。

「いいえ。でも、エドワードはレイチェルを嫌ってはいなかったの?」

呟きに近いユキ様の声を拾う。

「わかりません。でも、優しくしてくださいました。何度も愛していると・・・。でも、エドワード様に腹黒いところがあるのは私も知っておりました。なので、嫌われている可能性も・・・。」

自分で言っていて悲しくなってきた。私は、エドワード様のことが好きで好きで仕方がなかったのに。

「うーん。そこはマコトに調査してもらおっかな。あのね、レイチェル。私、最初はエドワードに貴女が嫌われていて罪を着せられてしまうのが嫌で貴女をエドワードから引きはなそうとしたの。でもね、貴女を見ていたら、全然幸せそうじゃなかった。ずっと辛そうな顔をしていた。だから、エドワードに嫌われていようがいまいが、貴女をエドワードから離さなきゃって思ったのよ。」

「私は・・・辛そうでしたか?」

「うん。表面では笑っていても、とても辛そうだった。出会った頃の私の親友と同じ表情をしていた。だからレイチェルを放っておけなかった。」

ユキ様はそう言って教えてくれた。
親友との出会いから突然の別れまでの全てを。
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