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私は食事を持ってきてくれた侍女の顔を見てから、そっと食事に手をつけた。

ユキ様もエドワード様もマコト様も、ナーオット殿下に操られているふりをしているのでもちろん何の疑いもなく食事をするふりをしている。

そんな私たちを目にしてナーオット殿下は嬉しそうに笑っている。

「食べたか?」

「・・・はい。」

確認してくるナーオット殿下に空になったお皿を見せた。

もちろん、私にはナーオット殿下の血が効くこともなくまったくいつも通りだ。

ユキ様も効いていないようだ。

むしろ、食事を運んできた侍女の表情を見る限り、食事に血は混ざってはいなそうだけれども。

ただ、ここは様子を見るためにもナーオット殿下の血に操られているふりをしよう。

「はははははっ。見たか、エドワード殿下。これでレイは私のものだ。私がレイを支配するのだ。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

エドワード様はナーオット殿下のセリフになんの反応も示さなかった。

「レイ、残念だったな。明日は私が正式な王太子として国内外に発表される。その時に、レイにも私の隣にいてもらうよ。もちろん、私の婚約者としてだ。ふはははははははっ。明日が楽しみだな。」

愉快そうに笑うナーオット殿下に私は表情を無くす。

「なんだ。その目はっ!反抗的な目だな。でも、レイはもう私には逆らえないんだ。くくくっ。はははっ。」

そう言って、ナーオット殿下は笑いながら牢から出ていった。

残された私たちはナーオット殿下が牢から出て行ったことを確認すると視線を合わせた。

「イラつくわね。」

「そうですねぇ。従っているふりをしなければならないというのも辛いですね。」

「レイチェルをまるで自分の都合のいい物のように言っているのが気に食わないな。」

「・・・やっぱり、あの食事は大丈夫だったんですね。」

口々にナーオット殿下への不満を口に出す面々に、私はホッとため息をついた。

どうやら皆、ナーオット殿下に操られていないようだ。

食事を持ってきた侍女の表情から多分大丈夫だとは思っていたけれども、それでもやはり少し心配だったので安心をした。

「ええ、そうね。大丈夫だったわ。」

「あの侍女も気が利くな。」

「もう、お城でナーオット殿下の血で操られている人はいないのでしょうかね。」

「多分、もういないと思うわ。お城の隅々まで案内してもらって、もれなく皆に治癒の魔法をかけたから。」

いるとするのであれば城下の人たち。

でも、城下には出る暇がなかったし、許可も下りなかった。

だから、城下の人の中にはナーオット殿下の血によりナーオット殿下に操られている人がまだいる可能性はある。

「決戦は明日ですね。」

「そうね。明日で全ての決着をつけたいわね。」

全ての決戦は明日。

明日、全てが上手く回るように立ち回らなければ、ナーオット殿下がこの国の王太子として大々的に発表されてしまう。

それはなんとしてでも避けなければ。

私たちは、それぞれ明日に備えて事前の打ち合わせをおこなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイチェル様。こちらにお越しください。」

翌日の早朝、地下牢にマルガリータさんがやってきた。

マルガリータさんは私とユキ様が入っている牢の鍵を開けて、私だけを牢の外に出した。

きっとこれからナーオット殿下の婚約者として飾り立てられるのだろう。

ギュッと唇を硬く結ぶ。

そうして、エドワード様と視線を合わせると力強くエドワード様が頷いた。

マルガリータさんは私を一瞥すると、牢の鍵をすることもなく牢から出ていこうとする。そうして、階段に足をかけた際に「カシャリ」という音を当ててマルガリータさんの足元に何かが落ちた。

けれどもマルガリータさんは何も気づいた様子を見せずに前に進んでいく。

「あの・・・なにか・・・。」

私は慌ててマルガリータさんに声をかけるが、落とした物を確認して思わず言葉が止まってしまう。

そうか、マルガリータさん。わざと落としたんだね。

「どうかしましたか?」

「いえ。なにか音がしたかと思ったんですが気のせいでした。」

「そうですか。では、時間もあまりありませんし、参りましょう。」

「はい。」

私はユキ様に視線を投げる。

ユキ様はそれを確認して確かに頷いた。

「あ、そうでした。本日はナーオット殿下が王太子として即位される日です。おめでたい日なので城の警備のものも浮かれてしまうかもしれません。ですが、レイチェル様は浮かれてしまわぬよう気を引き締めてくださいね。」

マルガリータさんは私に言うふりをして、牢の中にいるエドワード様に聞かせているようだ。

今日は城の守りが薄いと。

いや、城の守りを務めている人たちは皆ナーオット殿下の血の影響を受けていないと改めて伝えたかったのだろう。

準備はちゃくちゃくと進んでいるようだ。

「ええ。わかりましたわ。」

私はそう言って、マルガリータさんの後に続いて牢から客室へと向かった。

 

 

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