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日常編

10話 肉山盛りスペシャル

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 アリアは異変を感じていた。それは、メロが帰ってこないということ。3日前に、「嫌な予感がする」と言ってから家を出て、帰ってこないのだ。アリアは心配だった。けれど、森のどこにいるのかも分からない。メロは昔言っていた。
「ドラゴンにとって縄張りは誇りみたいなものよ。侵されたら自身の誇りに関わるの。分かった?アリア」
 縄張り争いは激しいと聞いている。特に、人の来ない森なんかは……。本当に大丈夫だろうか。心配だけれど、どうしてあげることもできない。カーテンを閉じて、寝ることにした。不安でなかなか寝付けなかった。
 次の日の朝。ドラゴンの咆哮で目が覚めた。きっとメロだ。ベッドから飛び起きて、すぐにメロのところへ駆けつけた。玄関には物凄い傷を負ったメロが倒れていた。
「メロ!」
「あぁ……アリア……」
「喋っちゃだめ!じっとしてて!」
 傷ついた身体を確認する。首元を深く噛まれたのか、大量に血が出ている。それから、翼。翼は根本に切り傷があるし、炎をガードしたせいか、激しい火傷の痕がある。
 こんなときのために薬草を集めておいてよかった。ちょっと大きさは足りないかもしれないが、集めれば十分な大きさになる。それにしても、多分ストックはなくなるだろう。
「しみると思うけど、我慢してね。」
「いっ……痛い……っ」
 傷を水で洗い流す。砂埃なども洗い流して綺麗に。それから、薬草の葉を当てて止血する。強く圧迫すれば止血になるし、傷に薬草の成分が届く。血はもう止まっているようだ。
「メロ、まだ痛い?」
「少ししみるわ……。けど、さっきよりマシ……」
「よかった。もう少しだけ耐えててね」
 翼。火傷して酷い有様だ。皮膚が破れている。
「とにかく冷やさないと……氷……氷かぁ」
 大きなタライに水を入れてを持ってきて、手をかざし呟く。
「大いなる氷の精霊よ。我に力を貸し与え給え」
 手から青い光が溢れ出て、水があっという間に凍っていく。指でつついてみると、完全に凍っていて、冷たい。これを思いっきり、グーで!
「えいやぁ!!」
 バキャッという音と共に砕けた氷を布の袋にいれて、翼に優しく当てる。
「冷たくて心地良いわ、ありがとう……」
 メロがほっとしたのかそっと目を閉じる。よかったよかった……。氷を叩き割った衝撃で手がジンジンするけど。
「メロ、しばらく安静にしててね。」
「ええ」
 そのときだった。木が次々倒れるような大きい音と爆発するような轟音がした。まさか……。メロが身体をびくんとさせ反応する。首を持ち上げ、何か気配を感じ取った。
「あいつが来た……!アリア、逃げて!」
「え、もしかして、メロの縄張りを荒らしたドラゴン?」
 メロは頷く。
「ええ。このまま放っておけばここにいる生き物たちは皆殺しにされるわ。」
「でも、でも……」
「大丈夫よ。私は強いんだもの。この森の女王よ?」
「でも、危なくなったらすぐに言ってね?約束よ?」
 メロは微笑んだ。
「もちろんよ」
 メロは無理に立ち上がった。傷口に貼ってある薬草を振り払って、翼に乗せてあった氷水入りの袋も退かした。
 向こうから、黒いドラゴンがやってくる。黒いドラゴンが吼えている。きっと、メロを探しているんだ。メロは怯えもせず立ち向かう。
「いたか。深林の女王よ」
「私の縄張りにまだ用があるの?さっさと立ち去れば、見逃してあげるわ」
「笑わせるな。そんなにボロボロでやっとかっと俺を逃したお前が何を強がっている?」
「うるさい!」
 メロが炎を吐く。黒いドラゴンは翼で簡単に振り払った。きっと実力ならメロが上だが、怪我をしている今、実力差は逆転している。このままでは……。
「メロ、メロ……!」
「大丈夫よ」
 黒いドラゴンは、メロの首に噛み付く。このままじゃメロが殺されてしまう……。アリアはいてもたってもいられず、メロの前に飛び出した。
「やめて!メロを傷つけないで」
「なんだ、小娘か。深林の女王はこんな小娘を守るために奮闘していたのか?人間にすがるとは、愚かな」
 黒いドラゴンはアリアをあざ笑う。アリアは黒いドラゴンの前に手を突き出した。
「私の親友を傷つけたからには、覚悟してもらうよ?」
「人間に何ができる?」
 黒いドラゴンは炎を放ち、辺りを焼き尽くす。アリアは1人で炎に突っ込んでいく。
「アリア、何してるの?!」
「もう一度、力を貸して、氷の精霊たち……!」
 手を合わせると、アリアの身体を包んでいた炎が一瞬で凍っていく。アリアの身体から、炎を通じてドラゴンの口まで凍っていく。氷のせいでドラゴンの口は塞がれて、炎が吐けなくなった。
「が、ががっ……!あがっ……!」
「人間だからってバカにしないでくれる?」
 アリアが手を振ると、ドラゴンの身体までもが凍っていく。ドラゴンは、なんとか口を覆っていた氷を噛み砕いた。
「人間、やるではないか」
「どうするの?もう降参するなら、これ以上痛いことはしないけど」
「我々竜の一族は、命がけで戦う……!邪魔をするな小娘!」
「残念」
 アリアが誰にも聞き取れないような小さな声で魔法の言葉をつぶやくと、辺りに巨大な氷柱が浮かび始めた。
「ばいばい、乱暴者のドラゴンさん」
「やめ、やめろ……!」
 氷柱がドラゴンに触れると、次々に凍っていく。簡単に破れないような分厚い氷で包まれていく。
「ふう」
 メロが心配そうな目で見つめている。
「アリア……」
「どうしたの、メロ。もう大丈夫だよ」
「ありがとう。強くなったわね」
「えへへ、それほどでも。それで、このドラゴンどうしよう?」
「どうしましょうか。」
「王国の兵士たちに頼んで、竜人族の里に連れて行ってもらおうか」
「ええ、そうね……」
 疲れ果てたメロはぐったりして、その場に寝そべった。アリアも、草原の上に寝転がった。
「たはは、疲れちゃった。起きたら、お腹いっぱいご飯食べようよ、ね?」
 メロはぐっすり眠っていて、返事をしなかった。アリアも隣でうたた寝することにした。
 2人(1人と1匹)が目を覚ましたのは、太陽が高く登った頃だった。
「うーん、お腹空いた!メロ、起きて」
「んん……」
「今からお昼ご飯……まぁ朝ご飯か!作るけど、メロは何がいい?」
「アレがいいわ。特別なときにアリアが作ってくれる、アレ」
「あぁ、アレね!わかったよ!」
 アリアは早速キッチンへ向かった。
 とりあえず、うちに取っておいてある肉を用意する。牛肉に豚肉、鶏肉を用意する。これを、火の魔法でじっくり焼く。もちろん、塊のまま。軽く味付けをする。塩と胡椒で十分。メロは胡椒が苦手だから、少なめに。
 肉から脂が垂れてきて、炎がより強く燃え盛る。赤い炎に包まれて、焼き目がついてきたら、そろそろ終わりだ。最後に、空いたフライパンで目玉焼きを作る。ありったけの卵を割って、半生程度に焼く。フライパンが覆われるほどに。山盛りになった肉の上に、大量の目玉焼きを乗せて、黄身にナイフを入れる。とろとろの黄身が肉にかかって、めちゃくちゃ美味しそうだ。最後に、黄身のかかっていないところにチーズを乗せる。乗せたチーズを軽く、炎の魔法で炙る。
「溶けてる……!美味しそう~」
 チーズがどろりと溶けている。山盛りの肉に大量の目玉焼き、チーズが美味しそう。さっそく大皿に乗せて、メロのところに持っていく。
 メロは料理を見るなり、顔がパッと明るくなった。
「これよ!これ、なんて名前の料理なの?」
「うーん、肉……肉……肉山盛りスペシャル?」
「っあははっ、何よそれ!」
 メロは笑うと、肉山盛りスペシャルに食いついた。メロに食欲があってよかった。これで元気になってくれそうだ。
「アリアは食べないの?」
「あ、食べるよ。私の分はもう切り分けておいたから。」
「じゃあ一緒に食べましょうよ」
 アリアの隣に小さな机を椅子を持ってきて、食べることにした。
「いただきます!!」
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