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訪問
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レオンハルトはニナを連れ立って、庭園を歩き少し進んだ。その先には馬車が停めてあった。馬車には王家の家紋である、獅子とユニコーンに薔薇の花を足した紋章が施されている。これは王太子の紋章である。
王太子の紋章が施された馬車へと、レオンハルトはニナをエスコートする。
離れた宮へと向かうためだ。そこはレオンハルトの住まう宮であり、滅多に人を招いたりした事はない。
王城敷地内であるが、普通に歩くには時間がかかるため、ニナを歩かせる訳にもいかず馬車を用意させていた。
「ここがレオンハルト様の…」
薔薇の宮の別名を持つ王太子宮はその名の通り、見事な薔薇が庭園に咲き誇っていた。
「とても素敵ですね」
夢のような気分になりながら、庭園を横目に大理石の床の回廊を歩み進める。
そして階段を登る道中、意を決してニナはレオンハルトに話し掛けた。
「我儘を言ってしまってごめんなさい。でもオフィーリア様に申し訳なくて…一度どうしてもちゃんと、ご挨拶をさせて頂きたく思いまして」
視線を彷徨わせて言葉を紡ぐニナに対してレオンハルトは微笑んだ。
「久々に同年代の貴族令嬢が訪ねてくれるんだから、オフィーリアもきっと喜ぶよ」
先週ニナから「一度オフィーリア様に挨拶をさせて下さいませ」と懇願され、今日はお茶会の後に、このオフィーリアが眠る『眠り姫の部屋』へとニナを連れて来る事を決心したのだった。
オフィーリアを危険から遠ざける為に、世話係の侍女の他、限られた者しか面会は出来ないようにしていた。それもレオンハルトが同伴の時に限っている。
本来であればオフィーリアは、次期セレスティア国王太子妃として、この国の有力な家柄のご令嬢達と交流を深めていたはずだ。
明るく、誰にでも分け隔てなく優しいオフィーリアなら、直ぐに打ち解けていただろう。同年代の令嬢達と、楽しくおしゃべりに興じるオフィーリアの姿を想像すると、ニナの提案はレオンハルトにとっても、嬉しい申し出だった。
薔薇水晶のシャンデリア、棚に飾られるのは美しい装丁がされた施された絵本。薔薇に戯れる蝶の絵付けがされた置物。その空間は乙女の夢を詰め込んだような部屋だった。
空間に目を奪われつつ、ニナはレオンハルトの背を追う。
雪代の帳のような天蓋のヴェールが包んでいる。小柄な身体一つが横になるには、勿体無いと感じてしまう程広い寝台。
紫銀の髪に白磁の肌。そして薔薇色の頬が愛らしい、妖精か精霊かと見紛うほどの美しい少女が、中で眠っていた。
「彼女がオフィーリア姫ですのね。本当に噂に違わずとても美しい方…」
ニナは『眠り姫』ことオフィーリアを見るなり、感嘆のため息を漏らした。
三年も断ち、眠ったまま衰弱しているのではと噂されていたオフィーリアだが、肖像画で見た十六歳そのままの姿でそこに健やかに眠っていた。衰弱した様子もなく、華奢ではあるものの、薔薇色の頬は血色もよくとても健康的に見える。
そしてオフィーリアは十六歳の頃から眠り続けているにも関わらず、一つも歳を取っていないのではないのかと思ってしまう。
三年もの月日が経っているのだから、今は十九歳のはずだ。
あどけなさを残した寝顔のオフィーリアは、少しでも音を立ててしまったら、起きてしまうのではないかと思ってしまうほど。ただ普通に寝台の上で眠っていた。
そんなオフィーリアへと、ニナは顔を覗き込むようにして少し膝を折り、そして呟く。
「オフィーリア姫様、わたくしが貴女に変わってレオンハルト様のお妃様候補となりました」
しかしそのようなタイミングで、まさかオフィーリアが眠りから目を覚ましてしまうなどと、誰も思わなかったのだ。
王太子の紋章が施された馬車へと、レオンハルトはニナをエスコートする。
離れた宮へと向かうためだ。そこはレオンハルトの住まう宮であり、滅多に人を招いたりした事はない。
王城敷地内であるが、普通に歩くには時間がかかるため、ニナを歩かせる訳にもいかず馬車を用意させていた。
「ここがレオンハルト様の…」
薔薇の宮の別名を持つ王太子宮はその名の通り、見事な薔薇が庭園に咲き誇っていた。
「とても素敵ですね」
夢のような気分になりながら、庭園を横目に大理石の床の回廊を歩み進める。
そして階段を登る道中、意を決してニナはレオンハルトに話し掛けた。
「我儘を言ってしまってごめんなさい。でもオフィーリア様に申し訳なくて…一度どうしてもちゃんと、ご挨拶をさせて頂きたく思いまして」
視線を彷徨わせて言葉を紡ぐニナに対してレオンハルトは微笑んだ。
「久々に同年代の貴族令嬢が訪ねてくれるんだから、オフィーリアもきっと喜ぶよ」
先週ニナから「一度オフィーリア様に挨拶をさせて下さいませ」と懇願され、今日はお茶会の後に、このオフィーリアが眠る『眠り姫の部屋』へとニナを連れて来る事を決心したのだった。
オフィーリアを危険から遠ざける為に、世話係の侍女の他、限られた者しか面会は出来ないようにしていた。それもレオンハルトが同伴の時に限っている。
本来であればオフィーリアは、次期セレスティア国王太子妃として、この国の有力な家柄のご令嬢達と交流を深めていたはずだ。
明るく、誰にでも分け隔てなく優しいオフィーリアなら、直ぐに打ち解けていただろう。同年代の令嬢達と、楽しくおしゃべりに興じるオフィーリアの姿を想像すると、ニナの提案はレオンハルトにとっても、嬉しい申し出だった。
薔薇水晶のシャンデリア、棚に飾られるのは美しい装丁がされた施された絵本。薔薇に戯れる蝶の絵付けがされた置物。その空間は乙女の夢を詰め込んだような部屋だった。
空間に目を奪われつつ、ニナはレオンハルトの背を追う。
雪代の帳のような天蓋のヴェールが包んでいる。小柄な身体一つが横になるには、勿体無いと感じてしまう程広い寝台。
紫銀の髪に白磁の肌。そして薔薇色の頬が愛らしい、妖精か精霊かと見紛うほどの美しい少女が、中で眠っていた。
「彼女がオフィーリア姫ですのね。本当に噂に違わずとても美しい方…」
ニナは『眠り姫』ことオフィーリアを見るなり、感嘆のため息を漏らした。
三年も断ち、眠ったまま衰弱しているのではと噂されていたオフィーリアだが、肖像画で見た十六歳そのままの姿でそこに健やかに眠っていた。衰弱した様子もなく、華奢ではあるものの、薔薇色の頬は血色もよくとても健康的に見える。
そしてオフィーリアは十六歳の頃から眠り続けているにも関わらず、一つも歳を取っていないのではないのかと思ってしまう。
三年もの月日が経っているのだから、今は十九歳のはずだ。
あどけなさを残した寝顔のオフィーリアは、少しでも音を立ててしまったら、起きてしまうのではないかと思ってしまうほど。ただ普通に寝台の上で眠っていた。
そんなオフィーリアへと、ニナは顔を覗き込むようにして少し膝を折り、そして呟く。
「オフィーリア姫様、わたくしが貴女に変わってレオンハルト様のお妃様候補となりました」
しかしそのようなタイミングで、まさかオフィーリアが眠りから目を覚ましてしまうなどと、誰も思わなかったのだ。
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