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第一章 無知な少女の成長記

打倒ゴルバチョフ

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「ねぇ私…三歳なんですよ知ってます?見てくださいよこのふくふくなほっぺ!ムチムチの手足!こんな愛らしい幼女に魔法や魔術や呪術ぶっ放す人います?何の躊躇いもなく!てことでそんなサイコパス鬼畜ドS師匠をギャフンと言わせてやろうと思います。」

『未熟者が何を言っている。現実を見ろ雑魚が』

『まず魔術が使えるようになってから言えなのです愚図が』

バキャッ!


『『ギャアアアアア』』


ルクレツィアは笑顔で《エクスカリバー》を折った。本来傷一つつかないとされる鞘も、魔人の身体能力とコントロールできない【身体強化】の前ではただの鞘であった。ギャアギャアと叫ぶ一振りと「ふふふふっ」と可愛らしく青筋を立て微笑む少女が書庫にいた。


「もー言葉遣いを直さないとだめですよ?口が悪くても敬語なら何となく丁寧に感じるのです私を見習ってください。」

『『あ、口が悪いの自覚してたん「ピキッ!」ですね!』』

「まぁ冗談でいつも通りでいいですよ。今更畏まられても馬鹿にされてるように感じてうっかり折っちゃいますから。ふぅ…てことで魔力コントロールが急務なわけです。もう師匠吹っ切れちゃったのかこの読書の時間以外、何時でも何処でも攻撃仕掛けてくるんですけど…いやそのお陰で1か100の出力調整が出来るようになったんですけどね!でも就寝中とお手洗い、入浴中まで襲撃、トラップ、呪術を仕掛けてくるのはやり過ぎだと思うのですよ!!やっと最近力のコントロールが出来て満足な人間生活をおくれ始めたのに、あんまりです。はぁぁ…」


そういってルクレツィアは指の先に小さな炎を出した。が、一瞬で消てしまった。この書庫には何か魔法がかかているのか、書庫の本に影響のある魔法が使えないようになっている。もちろんほんの一つ一つに強力な【保存】の魔法が施されているが、基本魔法はかき消されてしまう。

《エクスカリバー》は自分たちとルクレツィアの口の悪さに大差はないんじゃないかと思っている。事実、鞘はかろうじて敬語を使えているのだが、一言多いため折られる対象になっていた。折られても回復できるため実際何のダメージもないのだが気持ち的に痛いので叫んでいるのだ。


『魔力のコントロールができないようじゃ魔術なんて夢のまた夢だぞ。効果に応じた魔力をピッタリ均等に魔法陣に流す必要があるからな。ゴルバチョフのように空気中に魔力で陣を構築するにも、寸分の狂いもなく一定の魔力を操作し細かい術式を書く必要がある。物体に描くのではなく何の支えのない空気中での魔法陣構築は難易度が高いぞ。
まずは魔法陣を書く練習とそれに魔力を均等に流す練習をしろ愚か者』

「それをもっと早くいってほしかったです。でも最後の一言がいらないですがもの凄く矯めになりました、ありがとうございます。凄いですね流石師匠の奥様の片腕!正直脳が筋肉で出来ているあの戦闘狂の師匠より滅茶苦茶役に立ちます。よし訓練場亜空間にて練習です!」

『え”いや、ちょっ不安しかないのです!私は行きたくないのです!』


ルクレツィアは問答無用で机に横たわっていた《エクスカリバー》を掴むと書庫を出た。


―よく考えてみるとそういう基本的なことが全く書いていない本を読んでも意味ない気が…。いや作為的だと疑ってもしょうがないです。基本はこれからエクスカリバー魔法の先生に教えてもらいましょう!―


ルクレツィアの中でゴルバチョフへの信頼度が下がり、《エクスカリバー》への尊敬の念が上昇した瞬間だった。









『っ~!いい加減移動中に僕たちでジャグリングするのをやめろ!お前もわざわざ剣になるなよっ』

『クルクル飛ぶの楽しいのです。そういう兄もジャグリングされたくなければ何か違うものに【変化】すればいいのですよツンデレさん』

『はぁぁぁああああ!?』


ルクレツィアは言い争う兄弟をくるくるとジャグリングしながら廊下を歩いていた。《エクスカリバー》を譲られた際にゴルバチョフに言われた「出来るだけ触れ剣に慣れておく」という言いつけを守っているのだ。そのため三人は四六時中共に行動している。前世の記憶を持つが人格は統合されているわけではないルクレツィアは、そういう羞恥心や人間関係の煩わしさをが感じたことはなかった。二人が人の姿をしていないということもあるが、この閉鎖的な空間魔物の森で本来母親から受ける愛情や他者とのかかわりで得る感情だけでなく、前世の記憶を持つがゆえに大人びた子供になってしまっていた。


「もー何をごちゃごちゃ言っているんですか?空き時間でも友達と遊びたいのです、大人しく付き合ってください」

『いやこれは遊びとは言わないだろ、僕は剣でジャグリングをするなと言っているんだ!おいやめろって!』

『私は歓迎なのです、兄は剣でジャグリングするのは危ないからやめてほしいと言っているのです。ただのツンデ『うるさいぞ!』』


《エクスカリバー》は昨日の説教のあとから書庫で本を読むまで、鞘も常に短剣の状態でルクレツィアと行動を共にしていた。何故か「魔法で直せば問題ない」と吹っ切れたゴルバチョフによる襲撃により、ルクレツィアは昼夜問わず身の危険にさらされている。そのため襲われない書庫以外は常に剣としてルクレツィアに握られている。ゴルバチョフの猛攻撃に、剣術の素人であるルクレツィアは二振りで手数を増やしなんとか凌いでいた。魔人となり異常な身体能力や動体視力を持つからこそ使える芸当であり、ルクレツィアは《エクスカリバー》の自身の体の一部のように扱うことが出来ていた。


「よっと!」


可愛い子らしい声で飛び上がり亜空間へと繋がる扉を切ると、空間が歪みパリンッとガラスが割れたような音がし同じ扉が現れた。


『本当に成長したですね愚鈍。魔力や気配、殺気の感知探索と魔剣の使い方が最初と比べて格段に良くなっているのです』

「ふへ、照れちゃいま『まぁ魔力のコントロールは受精卵からやり直した方がいいと思うのです』ぐっは!上げて落とす小悪魔め。珍しく褒めてくれたと思ったのに一気に地獄現実に引き落とされた気分です!」


ガチャッと背伸びをし扉を開け入った瞬間、氷の槍やナイフが何本もルクレツィア目掛け飛んできた。それをバク転やステップ、ジャンプで軽やかに避けると、巨大な落とし穴がルクレツィアを飲み込もうとした。空中で体をひねり避けると雷が落ちてきた。避雷針のように《エクスカリバー》で魔力として吸収し着地すると、何百もの虫が地面から這い出ていた。ルクレツィアはこの手の精神攻撃で魔力暴走するという失態を何度も犯しているため、魔法で自分ごと虫だけ燃やし尽くした。そしてその間に仕掛けられている魔法陣を感知し多少荒っぽい動きで全て壊すと、ようやく安全が確かめられた訓練場にて大きなため息をついた。

壊す瞬間に見た魔法陣は、順番に作動するようルクレツィアの動きが予想しつくされた時間が設定され、まるでパソコンのプログラミングのように寸分の狂いもなく予定通り作動していた。そのすべてを記憶し理解すると、改めて師と自分の差を思い知らされたようでルクレツィアは頬を上気させ嬉しそうにを浮かべた。


『何を笑っている…気色悪いぞ。ようやく見られるような動きが出来るようになったからと言って調子に乗るなよひよっこが。偶々魔法が上手くいっただけだ次は暴走するかもしれないんだから、今の魔力コントロールを覚えておけよ。』

『私もその笑顔はゾッとするのです。兄は今の動き今までで一番よかったから慢心せずこれからも精進すればもっと良くなる。うまく魔法が使えて嬉しい、魔力暴走しないように今の感覚を大切にして今からする訓練を成功させよう。と言っているのです』


右手でプルプルと震えている一振り兄剣をルクレツィアはキョトンとした顔で見つめると、花が咲き乱れたように破顔しクルクルと剣舞を舞い始めた。ルクレツィアは身体能力をコントロールできなかった時、書庫の中にある勝手に読んでいる《読む価値を疑う本シリーズ》の中に『世界の民族芸集』を見つけていた。ストレス解消と体の使い方を練習しようと記載されている踊りや奇術などに挑戦していた。今踊っている剣舞や先ほどの戦闘で使っていた体の動きは、この民族芸集から学び毎朝と夜に練習し続け会得したものだった。


「ふふふ!なんだか今なら魔力コントロール上手くいきそうです」

『っ~!調子に乗るな半人前がぁぁああ!』


照れたツンデレの叫びがこだました。


















ーーーーーーーーーー
当初予定していた以上に饒舌な《エクスカリバー》に作者も驚いています。

次回 これぞ異世界
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