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第一章 無知な少女の成長記
金髪とアメジスト
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バチバチと音を立て放電する雷の鎧に包まれルクレツィアは目にもとまらぬ速さで切りかかる。これには流石のゴルバチョフも魔人の身体強化と槍術だけでは太刀打ちできず、【身体強化】をかけ応戦する。お互いただ大魔法を放ちこの戦いを終わらせることはできるだろう。しかしそれでは何も意味がないということは分かっていて、二人は刃を交わす。
『おいっ雷の武装化魔法は危険すぎる!どうしてお前が止めなかったんだっ』
『うるさい兄は心配性ですねっ、コイツを守るのは私なのです!主が望むままに支えるのが私たちの役目なのです、無駄口叩く暇があれば折れないよう歯を食いしばれ、魔装の制御に集中しとけなのですよ!っ…来ますよあのゴミクソ馬鹿爺の魔装化!』
轟音と凍てつく冷気を振りまきゴルバチョフは氷の鎧に包まれた。ゴルバチョフの周囲は氷付き吹雪が降りしきる中、白に近い銀色の髪と髭に包まれた紫の瞳が輝いていた。
【魔装】とは魔力に属性を付与した状態でそれを纏う魔法、またそのものをいう。いまルクレツィアの身を纏う《エクスカリバー》も似たようなもので、普通の服はただ純粋な魔力を変化せるのに対し【魔装】は魔力の質、量、さらに付与した属性の効果により攻撃力、防御力、難易度そして危険度が格段に上がる。
ルクレツィアの【雷魔装】は中でも特に扱いが難しく、自分の速さに動体視力が追い付かないだけならまだしも肉体がその速さについていけないのだ。魔人であってもその力の半分を常時使うので精一杯という破壊力と速度を持つここの方法は、雷属性との相性はもちろんその他の魔法も併用しなくてはいけない。衝撃から身を守る【防御強化】傷ついた瞬間に回復する【回復魔法】動体視力や高速移動の中で剣を振り上げる筋力を強化する【身体強化】得物や自身を纏う雷の魔力の制御の多重魔法の併用が出来なくては動くこともままならない。
集中しているルクレツィアの邪魔にならないよう《エクスカリバー》は二人だけで言葉を交わしていた。兄剣はルクレツィアが精霊界から戻ってから何度も驚かされていたのだ。以前とは比べ物にもならない剣術や魔法魔術の精度の高さ、遅かれ早かれゴルバチョフの呪いが解けることは分かっていたが、そこから導き出された推測がこの男とその息子の血を引くだけある。ゴルバチョフと話したことと何ら変わりない事実がルクレツィアの口から血を吐くように出てくる。
「この屋敷には徹底的に鏡がありません、極めつけに私の瞳では自分の顔をぼんやりと色しか判断できない!服も靴も体に合うよう変化するなんてわざと人形に着せて私に見せたことも、魔人になった後も必要以上に身体をバラバラにして、頭部を狙っていたのも爪や髪が伸びていないことを気づかせないためですよねっ。
書庫の本の内容も最初はこの世界の常識を知っている師匠にとってはこれが普通なのかと思いました。でも明らかに魔人のことが書かれたものが避けられているんです!どんな昔の本でも揃っている書庫に種族や地図、歴史の内容が意図的に省かれているなんて三年間毎日通ってきた私が分からないわけないじゃないですか。
そんなに…そんなに私に外を知られることが嫌なんですか?どうして…私の顔を隠したのですか?どうして…私を弟子にしたのですか?」
《エクスカリバー》は何も言えない。ゴルバチョフの顔もルクレツィアの顔も激しい戦いの中でどんな表情か窺えない。ただこの戦いは二人にとっていつもの修行とは一線を画す。それほどまでに二人は全力で言い合っていた。
《エクスカリバー》はルクレツィアの容姿がゴルバチョフの妻メリル=ベラスケスにそっくりだと、そして瞳を持っていることに気づき、ルクレツィアの質問に誤魔化し続けた。目が見えないなんて嘘をついてこの少女から顔を奪い続けた。孤児の自分を拾ってくれた大恩ある慕う師の瞳と、さらにその妻の顔が自分とそっくりだなんでいくら偶然だといっても出来過ぎているのだ。ルクレツィアがゴルバチョフを信じられなくなり破綻した信頼のないここの暮らしは見ていられるものではなくなるのは分かっていた。そしてこの生活がこの少女が壊れることが怖くて何も言わなかったのだ。
さんざんゴルバチョフを責めておいて、結局自分たちもルクレツィアを苦しめていた。そしてその現実から逃げていた卑怯者だった。
「大体おかしいんですよ私が攫われた場所と川に投げられた場所、師匠に拾われた場所の距離感が不自然すぎます。私が辺境に住んでいたとしても町に住んでいたとしてもこの屋敷に来るまでに何かしら川を監視、検問所があるはずです。転移で近くに人が住んでいない場所に来たとしてもそのレベルの人が魔物に襲われ対象をただ川に流すなんてありえないんです。わざわざ魔法で生かしたり、その後も死亡を確認するわけでなく放置。そしてこの顔と髪!この目!」
《エクスカリバー》は精霊界に行っていたルクレツィアを見た時本当は安心した。あの明るい笑顔で自分を片手にゴルバチョフのもとにかけていく姿が嬉しかった。だがそれもルクレツィアが成長した姿であの《エクスカリバー》の【剣の魔装】を着た姿を見たことで違うことに気が付いた。
「私はメリルじゃない!私にルクレツィアをくれたのは師匠なのに!
どうして…どうして私を見てくれないの!?
私を…ルクレツィアを愛して……」
ルクレツィアはゴルバチョフが妻の代わりとして自分を攫い傍に置いていたと勘違いしていた。知識を制限され外に興味が移らないように、顔を隠され師との関係がバレないよう、自分が誘拐したことがバレないよう全てを隠され続けた。その全てを知ったルクレツィアがゴルバチョフの愛を信じられなくなったのは仕方がない事かもしれない。
精霊たちの手前威勢よく飛び出してきたが本当は不安と恐怖で足が竦みそうだった。自分の思いを伝えたい今、ゴルバチョフに拒絶されないか不安で前が暗い。いつの間にか二人は戦いをやめ【魔装】を解除していた。
「ルクレツィアお前をメリルの代わりにだなんて思ったことは一度もない。
じゃがワシにお前を愛すことはできない」
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次でシリアス最後です
次回 名前の意味
『おいっ雷の武装化魔法は危険すぎる!どうしてお前が止めなかったんだっ』
『うるさい兄は心配性ですねっ、コイツを守るのは私なのです!主が望むままに支えるのが私たちの役目なのです、無駄口叩く暇があれば折れないよう歯を食いしばれ、魔装の制御に集中しとけなのですよ!っ…来ますよあのゴミクソ馬鹿爺の魔装化!』
轟音と凍てつく冷気を振りまきゴルバチョフは氷の鎧に包まれた。ゴルバチョフの周囲は氷付き吹雪が降りしきる中、白に近い銀色の髪と髭に包まれた紫の瞳が輝いていた。
【魔装】とは魔力に属性を付与した状態でそれを纏う魔法、またそのものをいう。いまルクレツィアの身を纏う《エクスカリバー》も似たようなもので、普通の服はただ純粋な魔力を変化せるのに対し【魔装】は魔力の質、量、さらに付与した属性の効果により攻撃力、防御力、難易度そして危険度が格段に上がる。
ルクレツィアの【雷魔装】は中でも特に扱いが難しく、自分の速さに動体視力が追い付かないだけならまだしも肉体がその速さについていけないのだ。魔人であってもその力の半分を常時使うので精一杯という破壊力と速度を持つここの方法は、雷属性との相性はもちろんその他の魔法も併用しなくてはいけない。衝撃から身を守る【防御強化】傷ついた瞬間に回復する【回復魔法】動体視力や高速移動の中で剣を振り上げる筋力を強化する【身体強化】得物や自身を纏う雷の魔力の制御の多重魔法の併用が出来なくては動くこともままならない。
集中しているルクレツィアの邪魔にならないよう《エクスカリバー》は二人だけで言葉を交わしていた。兄剣はルクレツィアが精霊界から戻ってから何度も驚かされていたのだ。以前とは比べ物にもならない剣術や魔法魔術の精度の高さ、遅かれ早かれゴルバチョフの呪いが解けることは分かっていたが、そこから導き出された推測がこの男とその息子の血を引くだけある。ゴルバチョフと話したことと何ら変わりない事実がルクレツィアの口から血を吐くように出てくる。
「この屋敷には徹底的に鏡がありません、極めつけに私の瞳では自分の顔をぼんやりと色しか判断できない!服も靴も体に合うよう変化するなんてわざと人形に着せて私に見せたことも、魔人になった後も必要以上に身体をバラバラにして、頭部を狙っていたのも爪や髪が伸びていないことを気づかせないためですよねっ。
書庫の本の内容も最初はこの世界の常識を知っている師匠にとってはこれが普通なのかと思いました。でも明らかに魔人のことが書かれたものが避けられているんです!どんな昔の本でも揃っている書庫に種族や地図、歴史の内容が意図的に省かれているなんて三年間毎日通ってきた私が分からないわけないじゃないですか。
そんなに…そんなに私に外を知られることが嫌なんですか?どうして…私の顔を隠したのですか?どうして…私を弟子にしたのですか?」
《エクスカリバー》は何も言えない。ゴルバチョフの顔もルクレツィアの顔も激しい戦いの中でどんな表情か窺えない。ただこの戦いは二人にとっていつもの修行とは一線を画す。それほどまでに二人は全力で言い合っていた。
《エクスカリバー》はルクレツィアの容姿がゴルバチョフの妻メリル=ベラスケスにそっくりだと、そして瞳を持っていることに気づき、ルクレツィアの質問に誤魔化し続けた。目が見えないなんて嘘をついてこの少女から顔を奪い続けた。孤児の自分を拾ってくれた大恩ある慕う師の瞳と、さらにその妻の顔が自分とそっくりだなんでいくら偶然だといっても出来過ぎているのだ。ルクレツィアがゴルバチョフを信じられなくなり破綻した信頼のないここの暮らしは見ていられるものではなくなるのは分かっていた。そしてこの生活がこの少女が壊れることが怖くて何も言わなかったのだ。
さんざんゴルバチョフを責めておいて、結局自分たちもルクレツィアを苦しめていた。そしてその現実から逃げていた卑怯者だった。
「大体おかしいんですよ私が攫われた場所と川に投げられた場所、師匠に拾われた場所の距離感が不自然すぎます。私が辺境に住んでいたとしても町に住んでいたとしてもこの屋敷に来るまでに何かしら川を監視、検問所があるはずです。転移で近くに人が住んでいない場所に来たとしてもそのレベルの人が魔物に襲われ対象をただ川に流すなんてありえないんです。わざわざ魔法で生かしたり、その後も死亡を確認するわけでなく放置。そしてこの顔と髪!この目!」
《エクスカリバー》は精霊界に行っていたルクレツィアを見た時本当は安心した。あの明るい笑顔で自分を片手にゴルバチョフのもとにかけていく姿が嬉しかった。だがそれもルクレツィアが成長した姿であの《エクスカリバー》の【剣の魔装】を着た姿を見たことで違うことに気が付いた。
「私はメリルじゃない!私にルクレツィアをくれたのは師匠なのに!
どうして…どうして私を見てくれないの!?
私を…ルクレツィアを愛して……」
ルクレツィアはゴルバチョフが妻の代わりとして自分を攫い傍に置いていたと勘違いしていた。知識を制限され外に興味が移らないように、顔を隠され師との関係がバレないよう、自分が誘拐したことがバレないよう全てを隠され続けた。その全てを知ったルクレツィアがゴルバチョフの愛を信じられなくなったのは仕方がない事かもしれない。
精霊たちの手前威勢よく飛び出してきたが本当は不安と恐怖で足が竦みそうだった。自分の思いを伝えたい今、ゴルバチョフに拒絶されないか不安で前が暗い。いつの間にか二人は戦いをやめ【魔装】を解除していた。
「ルクレツィアお前をメリルの代わりにだなんて思ったことは一度もない。
じゃがワシにお前を愛すことはできない」
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次でシリアス最後です
次回 名前の意味
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