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第51話 二股確定

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 シャワーの湯水が床を叩く音、とめどなく耳の鼓膜を震わせる。僕の腕や背中を素通りしていく感触が心地よい。

「真砂……もっと、ここ……」
「あ……う……ん」

 九条さんは空港から直でジムに来ていた。早朝の成田到着便。そこから車を飛ばしたのだと。車のトランクにはスーツケースと土産が入ったままだそうだ。

『日本に着いた途端、何がなんでも真砂に会いたいと思ったんだ。無視されようと嫌な顔されようと構うものかと』

 シャワールームで、九条さんは僕にそう言った。僕は僕で、会ったらどんな顔したらいいのかなんて悩んでた。けど、そんなの悩む必要ないことだった。

 唇を合わせたら、僕らはひと月半のブランクなんか一瞬で飛び越えた。ジムでの抱擁のあと、舞原さんに挨拶もせずシャワーの個室に二人して飛び込んだ。
 そして服を脱ぐのももどかしく熱いキスを交わし……。今ここ。九条さんの燃えるような愛撫を一身に受け、僕は蕩けてしまいそうになってる。

「どれほど真砂に触れたかったか……」
「九条さん……」

 何度も重ね合わす唇と体。僕は何度も極上の瞬間を味わった。




「真砂、随分いいカラダになったな。トレニンーグ頑張ったんだ」

 果てしなく続くかと思われた暴走的な行為がようやく終焉し、僕らは仲良く体を拭いている。九条さん、バスタオル持ってなかったから。

「ああ、うん……嫌、じゃない?」

 驚かせたくてしてたのに、そんなことが気になってしまう。

「嫌なもんか。理想的だよ。綺麗だ」

 バスタオルで二人の体を包むようにして、再び九条さんは僕を抱きしめた。

「ごめんな……俺の……浅慮な行動で、真砂を傷つけてしまった」

 僕の肩に顎を乗せ、九条さんが小声で謝罪してきた。耳朶にキスされてこそばゆい。

「うん……」

 あの時は、確かに僕も傷ついた。悔しくて悲しくて切なくて……この世の終わりみたいな気分だったよ。でも……今は、それが切っ掛けだとは言え、僕もしてはいけないことを。

「会えたから……もう……大丈夫だよ……謝らなくても」

 自分にも言えない秘密が出来てしまった。寂しさと怒りを払しょくするために神崎さんと寝ましたなんて、しかも未だにその関係が続いているなんて。

 ――――絶対言えない。

「そうなのか? 許してくれるのか?」

 そうとは知らない九条さんはテンション上がりまくってる。らしくなく声が上ずってるよ。

「許すも許さないも……僕は九条さんが好きだから」
「じゃあ、今まで通りでいいんだよな?」
「うん。よろしくお願いします」
「良かった……本当に良かった……」

 再び九条さんは僕をぎゅぎゅっと抱きしめる。それから、僕の顎に手をかけ上を向かせた。柔らかな唇が僕のそれに重なっていく。今日何十回めかのキスをする。甘い、甘いキス。

 ――――やばい……。もう後には引けない。またこんな二股になってしまったっ。

 今更何を言ってんだ、この尻軽野郎っ。僕の心の声に、小泉さんならきっとそう言ってキレることだろう。


 

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