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第63話 同罪
しおりを挟む「で、何曜日に来てるんだ?」
小気味よくエアロバイクを漕ぎながら、九条さんが問いかける。僕のペダルは色々重すぎて全然回らなくなってしまった。
「あ、えっと。火曜日以外は決まってないんだ。木曜日や金曜日、土曜日とか、自分の予定が空いてる日に来てる」
僕の多分淀みない嘘に、不自然な間があった。この間が怖い。もしかして嘘がバレてるんじゃ。だとすると、滅茶苦茶最悪じゃないかあっ! もし誰の目もなければ、僕は盛大に頭を抱え、叫んでいたことだろう。
「ふううん。金曜にも来てるんだ。なあ、金曜日にさあ。なんか目立つ奴いるだろ?」
少し考えるようにしていた九条さんが、真正面に顔を向けたまま問うてきた。
やっぱり九条さんはそこが気になっていたんだ。とりあえず、本当に知らなかったみたいで嘘とは思われなかった。そこだけはホッとする。
「目立つ人? 男性?」
わかっていながらとぼける。こういうの苦手なんだよ。だからいつも、二股バレちゃうんだけど(なら、二股するなというご意見は丁重にいただきます)。
「ああ。茶髪で明るい色の瞳でさ、まあ、イケメンでモデルみたいなやつ」
「ハーフっぽい人かな? そうだねえ。見かけたことあったような」
ああ、マジでごめんなさい。でも、もの凄く面倒なことになりそうなんだもん。君子危うきに近寄らずだよね?
「口説かれたりしてないか? 絶対真砂はあいつのタイプだと思うんだよ」
思った通り、九条さんも神崎さんのこと意識していたんだ。それにタイプが同じってのもお互いがわかってる。
どう考えても舞原さんが言うように、1日だけここでトレーニングしただけの関係とは思えない。
「まさか。多分、話したこともないよ」
そうとわかれば、絶対本当のこと言えない。言ったら最後、僕は二つの恋を一度に失くしてしまう。いつかは訪れることだとわかってるけど、もう少し……このままでいたい。だって、まだ続編、書き終えてない。
益々自分がクズ野郎なのを自覚する僕だが、どっちも好きだしどっちとの関係も何物にも代えがたい。
九条さんが『パリの恋人』を囲っていようが、神崎さんが他人の恋人だから口説いているのだろうと構わない。どうせ僕も同罪だ。
「真砂、金曜日にはもう行くな。あいつと同じ空気を吸ってると思うだけでも俺は嫌だ」
シャワールームで、九条さんは僕を責めながら耳元で言う。舌を穴の中で暴れさせ、言うことを聞けとばかりに耳朶を噛んだ。
「う……ん……わかった……痛っ……」
「おまえは誰にも渡さん。触れさせたくない。言ったろ? ここは俺だけのものだって」
「わかってるよ……あっ……」
僕の感じるところを指でぐいぐいしてくる。青息吐息で九条さんの愛撫を受ける。
その日はいつも以上に荒々しく責められてしまった。実は全部バレてんじゃないかとビビったけど、刺激でドキドキしちゃって癖になりそう。
変態なうえに倫理狂ってる。マジで僕は最低な奴だな。
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