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第76話 爆弾
しおりを挟む目の前に、アライジャとナギの相当カッコいいポーズを取った表紙が踊っている。カメラ目線で見るアライジャは逞しい上半身を惜しげもなく晒し、その背後には横顔でクールに決めるナギがいる。
「舞原さん……これ、どういう……」
「驚くのはまだ早いですよ」
茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべ、舞原さんは徐に裏表紙を開く。
「ええっ!」
そう、そこには見覚えありまくりの僕のサインが! い、一体これはどういうことだ?
「鮎川先生、実は最初から知ってました。僕、デビュー作の『ライオンと竪琴』以来の大ファンなんです」
僕はグウの音も出なかった。目や口、多分鼻の穴まで、恥ずかしげもなく開けっ広げてたに違いない。
舞原さんは、あの最初のサイン会の日。ダッフルコートにニット帽、眼鏡とマスクをして書店に訪れていた。朝早くから列に並んでいたらしい。
「あの怪しい人が舞原さんだったのか……」
一言も話さないから妙な人だとは思っていた。恥ずかしいんだろうと善意に解釈していたのだけれど。
「怪しい人はないでしょう。ま、身バレしたくなかったので仕方ないです」
へへっと舞原さんが嬉しそうに笑う。なんか調子狂っちゃうよ。
「いつ気が付いたの? 僕が鮎川零だって」
そのままストレッチのスペースに居座り、ペットボトルのスポドリ片手に僕らは話し込んでる。年始初のジムはまだ正月気分が抜けないのか、人がまばらだ。
「僕はコアな鮎川ファンですよ。そんなの最初からに決まってるじゃないですか」
「マジか……知ってて黙ってるなんて反則だよ……」
ということは、あの偶然出会った書店でも僕がなにをしてたか知ってたってわけ? なんちゅう悪趣味っ! 挙動不審の僕を絶対見て笑ってたんじゃあ……。
「うーん。でも、身分を隠したいようでしたので。それにあくまでトレーナーと会員さんでいたかったですよ」
ううむ確かに。僕のファンだと知ったら、絶対担当変わってもらってたよ。
「じゃあ、なんで今になってバラしたの?」
「だって。もう気まずくないでしょう? 今更担当変わるとか言います?」
「んー。だね。言わない」
すっかりと言っていいのか。僕は舞原さんと仲良くなってる。実は続編に彼をモデルとしたキャラを登場させたくらいだ。
――――あ、そうか。いや、しまったな。
バレるよなあ。僕のファンなら当然のこと。第一、アライジャとナギのモデルが誰か、彼には絶対わかってるんだ。
無邪気そうに笑みを作る舞原さん。得体の知れないと感じたのは、こんな爆弾を隠していたからなのか。
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