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番外編 城南家の裏事情

第1話 城南晄矢の裏事情 1

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 季節の中で最も好きな初夏、五月が終わる頃、我が城南家に激震が走った。なんていうほど大したことではない。
 兄貴で城南家長男の輝矢が交際中の女性、菜々子さんと駆け落ちをしたんだ。菜々子さんは兄貴より三歳年上のバツイチで、しかも五歳の男の子がいた。まあ、あの親父がすんなり許すわけないよな。

 だけど、菜々子さんは気持ちのいい人だったし、その息子の祥一郎君もいい子で気に入っていた。あの少し頼りない輝矢にはちょうどいいと思ってたんだ。
 だから、あいつが駆け落ちすると言っても反対はしなかった。ああ見えて親父は輝矢推しなんだ。そのうち折れて、彼らを迎えるだろう。そう楽観してた。なのに半月も経たないうちに……。

「輝矢のことはもう忘れることにした。城南法律事務所はおまえが継げ」

 なんて言い出して……しかも。

「またどこの馬の骨ともわからん女を連れてこられても困る。嫁をこの中から選べ」

 テーブルの上に何十枚という写真を並べやがった。いったいいつの時代の話だ。『馬の骨』ってそれ使い方あってんのかよ。
 それに、親父が選んだのなんて絶対御免こうむる。俺は大体……まあ、これはいい。

「父さん。申し訳ないが、それは受け入れかねます」
「あ? おまえの言い分など聞く気はない」
「いえ、聞いてもらいます」
「おまえももうすぐ三十歳だろ。輝矢と違っておまえは彼女を紹介したこともなかったじゃないか。ほら、この子もこの子もおまえ好みだろ?」

 全く好みじゃない。てか、これはみんなあんた好みだろうがっ!

「彼女を紹介できなかったのは理由があります」
「なんだ? それは。下手な言い訳はしなくていい」

 ふん。偉そうにしてるのは今だけだ。俺は爆弾発言を用意していた。

「隠しておりましたが、私はゲイです。彼女ではなく、彼氏がいますので」

 これ以上ないくらい真面目な顔を作って言ってやった。
 親父は『何言ってんだ?』みたいな顔で俺を見てる。そのうち、言ってることがわかったのか、見る見るうちに赤くなっていった。なんか笑えてくる。

「ば……馬鹿も休み休み言えーっ! ふざけてんじゃないぞ、おまえ……」
「全くふざけてません。黙っていて申し訳ございませんでした」
「そ、それこそ馬の骨だろうがっ! 絶対許さんぞ。すぐに別れろ!」

 なんだと。そりゃ突然こんなこと言えば、動揺するのもわかるが、大体全てを自分の思い通りにしようとするその態度が兄貴を怒らせたんだ。

「冗談じゃないっ。会ってもせずに馬の骨とか言わないでもらえますかねっ」
「会ったって同じだ。どうせ誰もが猫を被る」

 馬なのか猫なのかどっちだ。いや、それはどうでもいいか。

「じゃあ、連れてきますよ。ついでに私の部屋で同棲します。でかいベッド買って!」
「な、なにを言うかー!! 貴様!」
「なにが貴様だ。黙ってろ! ここに住んでりゃ、馬の骨かどうかわかるだろって言ってんだよ!」

 おっと、ちょっと挑発しすぎたかな。親父の奴、絶句してる。

「ふん。じゃあ勝手にしろ。私がその化けの皮をはがしてやる。おまえも目が覚めるだろ」
「ご勝手に」

 俺はぷいっと背中を返して自室に戻った。久しぶりに親子喧嘩をしたな。学生時代以来か。俺も大人げないなあ。

 ――――さて、啖呵を切ったはいいが、実は今俺には彼氏はいない。どうするかな。

 どうするか。なんてな。俺は同棲すると喚いた時、一人の人物の顔を思い浮かべていた。そうだ。彼しかいない。

 ――――どうやって、連れてくるかな。そして、どうやって落とそうか……。

 成功の確率は全くの未知数。だけど、俺は心底ワクワクしてしまった。まずはダブルベッドを買うか。俺と彼の未来のために。



つづく

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