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番外編 城南家の裏事情
第2話 城南祐矢の裏事情
しおりを挟む長男の輝矢が駆け落ちをした。私を裏切るとはいい度胸だなっ。
あいつは次男の晄矢と違って不器用なところはあるが堅実だし、娘の陽菜と違って情もある。加減としては三人のなかでちょうどいいんだ。なのに……。
――――大体あの条件で、私が簡単に許すわけないだろうが。それなのに、粘り強く交渉することを避け、とっとと逃げてしまうとは。見損なったわ!
あんな根性なしではとてもじゃないが、我が事務所を任せるわけにはいかない。こうなれば、晄矢に跡を継いでもらうしかない。
並外れた頭脳をもちながら、なぜか感情的な晄矢でも、良いパートナー次第でやっていけるだろう。
しかし……今まで何人もの彼女と交際していた輝矢と違って、晄矢はそういうのを一切見せてこなかったな。
まあ、輝矢の相手はあからさまに財産目当てな女性ばかりで、必ず家に付いてきたからわかったのだが(輝矢もそれに気付いてすぐ別れることになってた)。
「よし、私がいい相手を見つけてやろう」
若くして他界した我が妻、晴香が三人の未来を案じていた。普通の家庭で育たなかったゆえの不自由さで、生涯の伴侶が正しく見極められるかと。それなら私が選んでやれば間違いないじゃないか!
私はすぐ立花に依頼し、法曹界の由緒ある家柄で年頃の女性を探してもらった。こちらの意向を打診すると、相手側はすぐ写真を送ってくれた。
ま、当然だな。見るとみんな美人じゃないか。しかも胸も大きい! これなら晄矢もうんと言うだろう。
「残念ですが、それは受け入れられません。私には彼女でなく、彼氏がおりますので」
「な、なにっ!? 馬鹿も休み休み言え!」
ところが、蓋を開けてみたらまさかのカミングアウト!?
何を言い出すんだ、晄矢のあほは。確かに……思い当たらんこともないが……。いやいや騙されてはいかん。あいつは輝矢に継がせたいと思ってるんだろう。
晄矢は自分自身も事務所経営に向いてないことを重々承知してるんだ。
「この家で同棲しますよ。一緒に住んでりゃ、馬の骨かどうかわかんだろっ!」
「なんだと、じゃあ私が化けの皮を剥がしてやる!」
売り言葉に買い言葉。頭に血が上ってしまった。晄矢も啖呵切って慌ててることだろう。
なんて思ったのに、あいつはバカでかいダブルベッドを部屋に入れ、そして本当に連れてきた! 天パーでどこぞのアイドルみたいな可愛い顔した若い青年だ。
「よろしくお願いします」
名前は相模原涼とかいった。晄矢が彼を連れてくることは今朝聞いた。東都大の学生だというので、同窓の榊に尋ねると、成績優秀な苦学生だとか。
全く、これほどあからさまな財産目当てもないだろう。こんなのに引っ掛かるとは晄矢もどうかしてる。
「認められないなら、私はこの家を出ます。それは涼もわかっていますから」
「はい。僕は晄矢さんについていくだけです」
ん? なんか違和感が……。さっき手を繋いでおったようだが、なんとなく距離を感じるな。しかも今のせりふ、どこか用意しました感が否めない。
――――ははあ。なるほど。
これはもしかしたら、晄矢の仕組んだ猿芝居じゃないのか? あいつがゲイだってのも信用できん。そう言えば私が晄矢に跡を継がせるのを諦めるとでも思ってるのか。まさかと思うが輝矢もこれに一枚噛んでるのでは……。
――――ううむ、もしそうなら、そう簡単に騙され、おまえ達の描いたシナリオに乗っかってなるものかっ!
「全く……。ま、せいぜい化けの皮が剥がれんようにするんだな。晄矢も相模原君も」
百歩譲って晄矢はそのつもりでも、この貧乏学生は晄矢を思ってなどおらんな。完全に財産目当て、玉の輿に乗ろうとしてるのだ。
可愛い顔してうちの事務所のパートナーになろうと目論んでおるに決まってる。
――――さて、どうやって化けの皮を剥がしてやろうか。
つづく
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