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愛を乞う

あなたを慕う理由

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すると彼女は私の言葉を繰り返しました。

『パンを、ください?』

まるで、私の言葉の意味が理解できないとでもいうかのようでした。ああ、天使である彼女には私のような下賤の者の言葉は理解できないのだと、そう思いました。絶望の中で、最後にこんなにも美しい天使に会えたのなら、生きていて良かった、とそう思った時です。

彼女は私の手を握りました。

『パンはないの。でも、あなたが暮らせる場所はあるわ!』

彼女はそう言って、戸惑う気配を見せる初老の男性を無視して、私を馬車へ乗せてくださいました。

彼女は私に毛布をかけ「教会までおしゃべりしましょう」と言って、延々としゃべり続けました。と言っても教会に辿り着くまでですが。

彼女は私を教会へ預けました。そして最後にこう言ったのです。

「ここはずっと、パンもスープもくれるところよ。だからもうあんなところで寝ちゃ駄目。馬車に轢かれたらきっとものすごく痛いんだから」と。彼女は1日を生きるためのパンではなく、一生を過ごせるように毎食のパンやスープ、眠る場所の全てを与えてくださいました。彼女にそのつもりはなかったのでしょうが「ちゃんと生きなさい」と言外に言われているような気がして、とても嬉しかったのです。

エルゲンは話し終えると「あなたは忘れてしまったようですが」と儚げな笑みを浮かべた。

「……お恥ずかしい話ですが、私があなたをあの時お救いしたのは、下心半分だったのですよ」
「……」

エルゲンの話す内容に、セレーネは過去の記憶を呼び起こされた。先ほどの既視感はこれか。そう思うと同時に、エルゲンほど鮮明に覚えていられなかった自分を、呪いたくなった。確かに昔、大雪が降った日。小さな子供を道端で助けた記憶がある。彼を教会へ送り届けたことも。しかし、その助けた子供が、何という名前なのか。どういった顔をしていたのかまでは覚えていられなかった。

「もしかして……それからずっと好きでいてくれたの?」
「ええ、そうですよ。ずーっと。あの雪の日から私はあなただけを想って生きてきました。女神の祝福を受け、神官長就任式の際に、あなたから祝福の言葉を受けた時は、女神の祝福を受けた時以上の喜びがありました」
「……そ、そうだったの」
「ええ、そうですよ」

エルゲンは微笑み、そして唐突に真顔になった。耽美な顔立ちから表情が抜けると、彫刻のような冷たさが宿り、恐ろしくも見えてしまうのに。

「私はあなたに対する自らの気持ちを見誤ったり致しません」

かっこいいとも思えてしまう。
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