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愛を乞う

魅力の有無

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エルゲンの真剣な眼差しに、セレーネは胸が締め付けられる思いがした。こんなにも想ってくれているだなんて、思わなかったから。もう霞んでしまってよく見えない雪の日の記憶からずっと、エルゲンは好きでいてくれたのに。自分は何て薄情だったのだろう。

セレーネは思いつめ、涙を流した。

「ごめんなさい……。ごめんなさい、エルゲン。私、なんて思い違いを……」
「いいえ、私が結婚を申し込んだ理由をちゃんとお話しなかったのが悪いのです。……セレーネ、どうか泣かないで」

ぎゅうと抱きしめられる。エルゲンの香りが鼻孔を満たす。首筋にその絹のような髪がしとどに流れる感触。セレーネは泣きながら、諦めの感情があったことをエルゲンに零した。

「……仕方ないと思ったの」
「え?」
「わ、私は……エルゲンにとって、あまり魅力的じゃなくて……それは、幼い頃からレーヌ様みたいに落ち着きのある素敵なレディと出会っているから、仕方ないって思ったの」
「なぜ、そんなことを……。あなたは十分魅力的ですよ」

頬を撫でながら言われて、セレーネはどう言葉にしたらいいのか迷った。淑女が言葉にするにはあまりにも淫らな気がしたが、それでも言わずにはおれず「あのね……」と勇気を振り絞って問いかける。

「エルゲンはお胸の大きな女性の方が好きでしょう?」
「……は?」

呆けるエルゲンに構わず、セレーネは言葉を続ける。

「私はレーヌ様と比べてお胸も小さいし、なにより背も小さいわ。言動も子供っぽいし、レーヌ様みたいな落ち着きもない。だから……だから、そのエルゲンは私のこと……そういう目で見られないのかなって……申し訳ないと思っていたの」
「それは……」

エルゲンは言い淀んだ。セレーネは肩を落とし、自分が吐いた言葉で自身の心を傷つけてしまったことに気づく。心が異様に痛かった。言葉にしてみると、レーヌより優れているところは、自分には全然ないのではないかと。そんな風に考えてしまう。

「……セレーネ。1つ質問致します」
「え、ええ……」

あまりにも真剣なエルゲンの表情に、セレーネはピシっと背筋を伸ばした。

「あなたは繊細な玻璃細工に……鈍器を挿すことが出来ますか?」

質問した途端、顔を赤らめるエルゲンに、セレーネはただ首を傾げるしかなかった。玻璃細工と鈍器が一体この話に何の関係があるのだろう。と大真面目にそんなことを考えてしまったが、エルゲンのその表情にからかっている調子は見られない。

「玻璃細工に鈍器を挿すってどんな状況?」

と、セレーネも至って真面目に答える。するとエルゲンは「しまった、この例えはまずかったか」と顔を真っ赤にしながら、慌てた。そして何か言葉を考えている風だったが、何も思いつかなかったのか彼は若干肩を落とす。
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