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第九十話.エアシルの町 18 ターン領地と九騎連 1
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翌朝。
二人と挨拶してテント小屋から外に出た。
皆と挨拶して朝食にする。メニューは定番のイチゴクリームサンドとイチゴミルク、もちろんオスマンのリクエストだ。
満足したところで馬に乗り出発した。道が悪いので時間がかかるが慌てて怪我をするよりましだ。ゆっくり歩きながら進んでいく。
渓谷ならではの川沿いの景色、キャンプを楽しみながら、捕まえた魚やウサギなども焼いて食べたりした。
意外と楽しい行進だったが、結局三日間野宿した。
結構な田舎だな。
次の日の昼、ようやく最初の村、セイン騎士爵領にたどり着いた。
……これは馬車もくそもないな。
そもそもこんな所まで馬車がこれるはずがない。
馬鹿馬鹿しいので馬のまま進む事にした。
村の人達が皆じーっと見てくる。旅人が珍しいのだろう。
今回俺達は目立たないように皆、布の服と革のベストを着用している。
それでも十分目立っているが、村の様子を見ながら進んでいく。雨季の影響のせいだろう、確かに川が溢れたような形跡がそこらじゅうにある。
本当に田舎だな。村人も皆、身なりが貧しい。痩せている人が多く、景気悪そうな顔ばかりだ。村全体に負のオーラが漂っているようだ。これはかなりひどいな。
オスマンよりちょっと小さい男の子がウエスタンに声をかけてきた。オスマン(一見10歳位の子供)がいるので話しかけやすいのだろう。
「ねぇおじさん。どこからきたのー」
「おっおじさんて! 俺はまだ15歳だぞ、イースの町らへんからだ」
「へー知らないや。遠い所からきたんだねー。ねぇ食べる物なんかちょうだいー」
そう言って汚れた両手を出す。
「しょうがないな、腹減ってるのか」
「うん。あんまり食べる物がないんだ」
小さな弟も連れている。
皆で馬から降りた。服もボロボロだし、汚れている。痩せててかわいそうだ。
俺は子供の前でしゃがんでこう言った。
「手も汚いな、このまま食べると体に良くない。今から水と泡を出すからまず手を洗うんだ」
水と泡を出してやった。急に現れた事に驚きながらも、ごしごしして手を洗う兄弟。きれいになったところで手ぬぐいで拭いてやる。
「はい、ゆっくり食べな」
イチゴクリームサンドとイチゴミルクを出してやった。
二人が大喜びで受け取ると、すぐに口いっぱいにパンをほおばる。
「うわーなにこれ!? うまっ!? こんなの、初めてだー」
「うまいなにーちゃん」
ものすごく美味しそうに食べる二人。それを遠めで見ていた子供達が集まってきた。
「俺もほしー」
「あたしもー」
「よし、じゃあ、順番な。ちゃんと並んで手を洗うんだ。いいな」
「うん!」
そうしているうちに子供が全部集まってきた。三十人くらいか。つられて親も集まってくる。
並んでいるのでドンドン配る。ついに村中の人が集まってきたのか、すでに百人を超えている。問題ないのでどんどん出す。なぜかオスマンも食べている。ソニアも一緒だ。
そのうちに騒ぎを聞きつけたのか、セイン騎士家の人まで来た。
「ここで何をやっているんだ」
馬に乗った騎士風の男が話しかけてきた。
「私は元ターン家の三男クライフ・ターンです。たまたまここであった子供らとパンを食べていたら皆欲しがったので一緒に食べていたのですよ。良かったらあなたもどうですか」
「そっそうか、それは有難い。ターン家のクライフ殿でしたか」
クライフの名を聞くと慌てて馬から降りて礼をする。
「今はあの、エアシル家の家宰をしておられるとお聞きしております。九騎連の出世頭ですな。私はハミュ・セイン、セイン家の跡取りです。クライフ殿には是非お会いしたいと思っておりました」
長身細身でイケメンの騎士風だ。二十五歳くらいだろうか、黒色も混じったような金髪だ。鎧も使い込まれている感が凄い。馬も痩せているようだ。
「そうですか……やはり、雨季の被害はひどかったようですな」
「そうなんです。我々九騎連もほとほと困っているのです。ニース子爵に直訴するしかないと話し合っているのですが……」
「なるほど……実はターン家からも援助の要請が来てるのですよ。私が心配していたら、エアシル男爵が弟のルーレットとホーニャンの結婚を報告してこいと送り出してくれたので、ここまでやって来たところです」
「エアシル男爵? 男爵になられていたのですか……いや、何せ田舎な物で情報も無い物ですから」
ハミュが驚いた。
「ええ、そうでしょうな。その辺はよく分かりますよ」
「ははは、さすが元ターン家だ」
パンとジュースが行き渡り、村人が居なくなった後セイン家の屋敷向かった。
ボロい家の前に止まる。
ボロい馬小屋にハミュが馬をつないだ。
えっマジで? ここが騎士の家なの?
素晴らしくボロい屋敷だった。
綿花村の村長の家のほうが立派かも知れない……いや間違いない、圧勝だ。
皆もそう思っただろう。
顔を見合わせて苦笑いする。
騎士って本当はこんななの?
ハミュが家の扉を開いて大声で話す。
「父上! 元ターン家のクライフ殿をお連れしました」
「おおっくっクライフ殿が!」
すると長身で細身のおじさんが出てきた。ハミュにそっくりだ。45歳位かな。
「おおっ大きくなられた。小さい頃の面影がありますな。私、タミュ・セインと申します。こんな所にようこそおいでくださいました。ささ、狭い所ですが、どうぞ」
当主自ら案内してくれた。もしかしたら執事やメイドが居ないのかもしれない。
客間に案内されるが席が足りないので家来の俺達は立っていた。
クライフとタニアとソニア、ルーレットとホーニャンが座る。
冷や汗をかきながらチラチラこっちを見てくる。
バレるからやめろ。
挨拶をしているうちに奥様がお茶を持って来てくれた。もちろんクライフ達の分だけだ。
そうだ、俺達は家来なのだ。
俺、なんだかワクワクしてきたぞ!
逆に楽しくなったきた。
なぜなら責任が全く無いからだ。
ウエスタンとバレないように、にらめっこして遊んでいた。
「今年の雨季は今までに無くひどいのです。正直もう来年どころか、今年の食料もままならない。来年の種まで食べても持たないどうしようもない状況なのです。ニース子爵様にも手紙で助けを求めているのですが、いい返事はもらえません。向こうも苦しいようなのです」
セイン卿が苦しそうに話す。
「そこまでの状況でしたか……では五年前よりひどいのですな」
「ええ、あの時もひどかったが、今年はそれどころではありません。冬までも危ういのです」
ハミュも苦しそうに話した。それにうなずいてセイン卿が説明する。
「九騎連もすべて似た状況です。ターン卿も本当はクライフ殿に頼るのは間違っていると分かっているのです。しかし、もう他に頼るところが無いのです。九騎連の会長にお願いされて、恥を忍んで手紙を出して貰っているのです。クライフ殿、お父上は、本当は手紙を出すのは反対だったのです。申し訳ない。それだけは分かって頂きたい」
セイン卿が深々と頭を下げた。
クライフもルーレットもそれを聞いて泣いていた。
しばらくして落ち着いたのか、クライフが言った。
「話は分かりました。今年の会長はどなたですか」
「ウーロン卿です。もちろん彼も分かっているのですよ」
「そうですね……私が会長だとしても同じ事をしたでしょう。どんな事をしてでも民を餓えさす訳にはいきません」
「クライフ殿……」
セイン卿も涙を浮かべて頭を下げる。
「では私は一度、ターン家に行ってきます。そして連合会で話し合いましょう。現状と、本当に必要な物、毎年の財務内容を五年分用意しておいてください。ただ、私はあくまでクライフ・ターン個人としての話しか出来ません。エアシル家は関係ありません。いいですね」
「はい、もちろんです。ありがとうございます、クライフ殿」
「ありがとうございます、クライフ殿」
セイン卿とハミュが頭を下げた。
今は九月初めだ。本来なら一番食料の増える収穫の時期にこんな事を言うのだ。よほどひどいのだろう。
屋敷を出てターン領に向かった。となり村なので少しして着いた。
ぼろい家の前でクライフが止まる。
えっここなの? さっきよりひどくない?
視線を感じたのか、無言でうなずくクライフ。ルーレットも恥ずかしそうに頭をかいた。
二人と挨拶してテント小屋から外に出た。
皆と挨拶して朝食にする。メニューは定番のイチゴクリームサンドとイチゴミルク、もちろんオスマンのリクエストだ。
満足したところで馬に乗り出発した。道が悪いので時間がかかるが慌てて怪我をするよりましだ。ゆっくり歩きながら進んでいく。
渓谷ならではの川沿いの景色、キャンプを楽しみながら、捕まえた魚やウサギなども焼いて食べたりした。
意外と楽しい行進だったが、結局三日間野宿した。
結構な田舎だな。
次の日の昼、ようやく最初の村、セイン騎士爵領にたどり着いた。
……これは馬車もくそもないな。
そもそもこんな所まで馬車がこれるはずがない。
馬鹿馬鹿しいので馬のまま進む事にした。
村の人達が皆じーっと見てくる。旅人が珍しいのだろう。
今回俺達は目立たないように皆、布の服と革のベストを着用している。
それでも十分目立っているが、村の様子を見ながら進んでいく。雨季の影響のせいだろう、確かに川が溢れたような形跡がそこらじゅうにある。
本当に田舎だな。村人も皆、身なりが貧しい。痩せている人が多く、景気悪そうな顔ばかりだ。村全体に負のオーラが漂っているようだ。これはかなりひどいな。
オスマンよりちょっと小さい男の子がウエスタンに声をかけてきた。オスマン(一見10歳位の子供)がいるので話しかけやすいのだろう。
「ねぇおじさん。どこからきたのー」
「おっおじさんて! 俺はまだ15歳だぞ、イースの町らへんからだ」
「へー知らないや。遠い所からきたんだねー。ねぇ食べる物なんかちょうだいー」
そう言って汚れた両手を出す。
「しょうがないな、腹減ってるのか」
「うん。あんまり食べる物がないんだ」
小さな弟も連れている。
皆で馬から降りた。服もボロボロだし、汚れている。痩せててかわいそうだ。
俺は子供の前でしゃがんでこう言った。
「手も汚いな、このまま食べると体に良くない。今から水と泡を出すからまず手を洗うんだ」
水と泡を出してやった。急に現れた事に驚きながらも、ごしごしして手を洗う兄弟。きれいになったところで手ぬぐいで拭いてやる。
「はい、ゆっくり食べな」
イチゴクリームサンドとイチゴミルクを出してやった。
二人が大喜びで受け取ると、すぐに口いっぱいにパンをほおばる。
「うわーなにこれ!? うまっ!? こんなの、初めてだー」
「うまいなにーちゃん」
ものすごく美味しそうに食べる二人。それを遠めで見ていた子供達が集まってきた。
「俺もほしー」
「あたしもー」
「よし、じゃあ、順番な。ちゃんと並んで手を洗うんだ。いいな」
「うん!」
そうしているうちに子供が全部集まってきた。三十人くらいか。つられて親も集まってくる。
並んでいるのでドンドン配る。ついに村中の人が集まってきたのか、すでに百人を超えている。問題ないのでどんどん出す。なぜかオスマンも食べている。ソニアも一緒だ。
そのうちに騒ぎを聞きつけたのか、セイン騎士家の人まで来た。
「ここで何をやっているんだ」
馬に乗った騎士風の男が話しかけてきた。
「私は元ターン家の三男クライフ・ターンです。たまたまここであった子供らとパンを食べていたら皆欲しがったので一緒に食べていたのですよ。良かったらあなたもどうですか」
「そっそうか、それは有難い。ターン家のクライフ殿でしたか」
クライフの名を聞くと慌てて馬から降りて礼をする。
「今はあの、エアシル家の家宰をしておられるとお聞きしております。九騎連の出世頭ですな。私はハミュ・セイン、セイン家の跡取りです。クライフ殿には是非お会いしたいと思っておりました」
長身細身でイケメンの騎士風だ。二十五歳くらいだろうか、黒色も混じったような金髪だ。鎧も使い込まれている感が凄い。馬も痩せているようだ。
「そうですか……やはり、雨季の被害はひどかったようですな」
「そうなんです。我々九騎連もほとほと困っているのです。ニース子爵に直訴するしかないと話し合っているのですが……」
「なるほど……実はターン家からも援助の要請が来てるのですよ。私が心配していたら、エアシル男爵が弟のルーレットとホーニャンの結婚を報告してこいと送り出してくれたので、ここまでやって来たところです」
「エアシル男爵? 男爵になられていたのですか……いや、何せ田舎な物で情報も無い物ですから」
ハミュが驚いた。
「ええ、そうでしょうな。その辺はよく分かりますよ」
「ははは、さすが元ターン家だ」
パンとジュースが行き渡り、村人が居なくなった後セイン家の屋敷向かった。
ボロい家の前に止まる。
ボロい馬小屋にハミュが馬をつないだ。
えっマジで? ここが騎士の家なの?
素晴らしくボロい屋敷だった。
綿花村の村長の家のほうが立派かも知れない……いや間違いない、圧勝だ。
皆もそう思っただろう。
顔を見合わせて苦笑いする。
騎士って本当はこんななの?
ハミュが家の扉を開いて大声で話す。
「父上! 元ターン家のクライフ殿をお連れしました」
「おおっくっクライフ殿が!」
すると長身で細身のおじさんが出てきた。ハミュにそっくりだ。45歳位かな。
「おおっ大きくなられた。小さい頃の面影がありますな。私、タミュ・セインと申します。こんな所にようこそおいでくださいました。ささ、狭い所ですが、どうぞ」
当主自ら案内してくれた。もしかしたら執事やメイドが居ないのかもしれない。
客間に案内されるが席が足りないので家来の俺達は立っていた。
クライフとタニアとソニア、ルーレットとホーニャンが座る。
冷や汗をかきながらチラチラこっちを見てくる。
バレるからやめろ。
挨拶をしているうちに奥様がお茶を持って来てくれた。もちろんクライフ達の分だけだ。
そうだ、俺達は家来なのだ。
俺、なんだかワクワクしてきたぞ!
逆に楽しくなったきた。
なぜなら責任が全く無いからだ。
ウエスタンとバレないように、にらめっこして遊んでいた。
「今年の雨季は今までに無くひどいのです。正直もう来年どころか、今年の食料もままならない。来年の種まで食べても持たないどうしようもない状況なのです。ニース子爵様にも手紙で助けを求めているのですが、いい返事はもらえません。向こうも苦しいようなのです」
セイン卿が苦しそうに話す。
「そこまでの状況でしたか……では五年前よりひどいのですな」
「ええ、あの時もひどかったが、今年はそれどころではありません。冬までも危ういのです」
ハミュも苦しそうに話した。それにうなずいてセイン卿が説明する。
「九騎連もすべて似た状況です。ターン卿も本当はクライフ殿に頼るのは間違っていると分かっているのです。しかし、もう他に頼るところが無いのです。九騎連の会長にお願いされて、恥を忍んで手紙を出して貰っているのです。クライフ殿、お父上は、本当は手紙を出すのは反対だったのです。申し訳ない。それだけは分かって頂きたい」
セイン卿が深々と頭を下げた。
クライフもルーレットもそれを聞いて泣いていた。
しばらくして落ち着いたのか、クライフが言った。
「話は分かりました。今年の会長はどなたですか」
「ウーロン卿です。もちろん彼も分かっているのですよ」
「そうですね……私が会長だとしても同じ事をしたでしょう。どんな事をしてでも民を餓えさす訳にはいきません」
「クライフ殿……」
セイン卿も涙を浮かべて頭を下げる。
「では私は一度、ターン家に行ってきます。そして連合会で話し合いましょう。現状と、本当に必要な物、毎年の財務内容を五年分用意しておいてください。ただ、私はあくまでクライフ・ターン個人としての話しか出来ません。エアシル家は関係ありません。いいですね」
「はい、もちろんです。ありがとうございます、クライフ殿」
「ありがとうございます、クライフ殿」
セイン卿とハミュが頭を下げた。
今は九月初めだ。本来なら一番食料の増える収穫の時期にこんな事を言うのだ。よほどひどいのだろう。
屋敷を出てターン領に向かった。となり村なので少しして着いた。
ぼろい家の前でクライフが止まる。
えっここなの? さっきよりひどくない?
視線を感じたのか、無言でうなずくクライフ。ルーレットも恥ずかしそうに頭をかいた。
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