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その2

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「お前達、苦労したんだなぁ」

「はい」

「ええ」

 クライフもルーレットも恥ずかしそうに頭を下げる。

「騎士って実は大変だったのね」

 シルフィーがボソっと呟いた。

「ええ、イメージとは違いましたね」

 アルフィーもうなずいた。

 田舎の騎士とはこういう物なのか。

 馬から降りて屋敷に向かった。


 クライフが屋敷のドアをコンコンと叩く。

「はーい」

 奥から女の人の声が聞こえた。パタパタと走ってくる音が聞こえ、扉が開かれた。

「どちらさ……くっクライフ!?」

 40歳くらいの綺麗なおっぱいの大きな女の人が、目を見開いて嬉しそうに抱きついた。

「母上。ご無沙汰しておりました」

 照れたように挨拶するクライフ。

「ああ、クライフ……よく帰ってきてくれたわね。こんなに立派になって……」

 お母さんは確認するように息子を見て嬉しそうに泣いていた。

 その様子を見てルーレットも近寄り声をかけた。

「母上、ただいま戻りました」

「まぁルーレット!」

 ルーレットを見た母親は、クライフを跳ね飛ばしてルーレットに抱きついた。ルーレットも嬉しいのだろう。母親に甘えるように抱きしめる。


 跳ね飛ばされたクライフを、タニアとソニアが無言で抱きしめた。

 二人が落ち着くとそばに居たホーニャンが深くお辞儀をして口を開いた。

「はじめましてお母様。私ホーニャンと申します」

「母上。私の妻です」

「まあ! いつの間にこんな美人さんを捕まえたの、かわいらしい猫耳ね。母のミラノです、よろしくね」

 出遅れたタニアとソニアも慌てて挨拶する。

「はじめましてお母様。タニアと申します」

「ソニアと申します」

「母上。私の妻達です」

 クライフが恥ずかしそうに紹介した。

「まぁクライフは二人もつれてくるなんて……さすが私の息子達ね。こんな美人を妻にするなんてやるじゃない、そうだ、中に入って頂戴。ちょっと狭いけど我慢してね。どうぞどうぞ」

 にこやかに客間に案内されたが、さっきと似たようなかんじでやっぱり狭い。なんとかクライフ達とルーレット達はソファーに座る。

 父と兄が前に座り、母親は立っている。当然俺達も壁に引っ付くように後ろで立っている。

 嫁をさっと紹介して、すぐに本題に入った。


「クライフ、わざわざ来てもらってすまんな。お門違いは承知の上だ。だが背に腹は変えられん、甲斐性無しの父を笑ってくれ」
 
 自嘲気味に話すターン卿。50歳手前くらいだろうか。クライフによく似ているな。

「クライフ、悪いが何とか助けてくれないか。今回ばかりはどうしようも無いんだ。下手すると来月中に食料が尽きちまう。頼む、この通りだ」

 そう言ってさっと頭を下げる。跡取りで長男のスロー。23歳くらいかな。こちらは母親に似てるかもな。

「そこまでひどいのですな、兄上」

「ああ、もう頼るところがどこにもないんだ」

 弱った顔でクライフを見る。本当にどうしようもないのだろう。

「話はわかりました。ただ、私はあくまで、個人です。気持ちは分かりますがエアシル家の家宰としてではなく、クライフ個人としてしかお話できません。まずそこはいいですね?」

「クライフ! そんな事を言っている場合じゃないんだ。そこを何とかしてくれないか」

 すがりつくようにスローが叫ぶが、クライフは微動だにせず、落ち着いた表情でスローを睨んだ

「兄上……私にどうしろと言うのですか」

「いや、そのエアシル家は景気がいいじゃないか……」

「スロー! それは違うと言ってるだろ! クライフの言うとおりだ。いくら苦しくても他家の財産を当てにしてはならん!」

 ターン卿がスローに向かって怒鳴る。

「父上……ですが、このままでは……」

「兄上、お気持ちは分かります。ですが、父上の申されるとおりなのです。私はエアシル家の家宰として財布を預かっておりますが、それはあくまでエアシル家の物なのです。そこだけは決して間違えてはなりません。いいですね。次同じ事を言えば、その場で、私とルーレットは個人としても助けません。兄上、お願いですから、誓って下さい」

 諭すように言ってクライフが頭を下げる。

「スロー兄さん、お願いします」

 ルーレットも一緒に頭を下げた。

「ああ……分かった。そうだな、悪かった。でも本当に困ってるんだ。そこは分かってくれ」

 スローもそれを見て頭を下げた。

「ええ、存じております。もちろん私達の出来る限りの事はするつもりです。セイン卿からも話は聞きました。今年の九騎連の会長はウーロン卿だそうですね」

「ああ、そうだ。だが誰がやってもどうしようもない。今年はひどい有様だ」

 ターン卿も嘆いている。

「では父上、至急連合会議を開いていただきたい。それまでに、各領地の現状と過去五年分の財務状況、最低限度必要な物のリストを提出して貰いたいのです。それを見て何が本当に必要なのかを決めていくしかないでしょう」

「そうだな。では皆には私から連絡しよう……だが五年ぶりだ。ゆっくりしていけ、なあミラン」

「ええ。せっかくお嫁さんを連れてきてくれたんですもの」

「はい。父上」


 お互いに家族の顔に戻ったようだ。

 一応方針は決まったようだな。

 ここは狭いし、後は家族水入らずのほうがいいだろう。


「ではクライフ様、私達は周辺の視察をしてまいります」

「おおっそうですな……では父上。書類が揃って会議が行われるとしたら、いつ、どこになるか分かりますか」

「場所は隣のテーン領で……そうだな、二、三日後になるのではないか」

「では、二日後の朝には一度こちらに戻りますね」

「おお、そうですな。ではそうしていただこう」

「クライフ。なんで家来に敬語なんだよ。命令すればいいじゃないか。おい、お前達もう行っていいぞ!」

 スローが俺達に手で出て行けとポーズする。

「兄上!」

「スロー兄!」

 クライフとルーレットが怒鳴って立ち上がった。顔は怒り目が血走っている。

「なんだよ。そんなに怒ることねーだろ」

 悪びれずにスローが言う。

「スロー! お前の部下じゃないんだ! 他家の人に対してお前が命令する事は出来ないのだ。そんな事も分からんのか! いや、すまなかった」

 余りに怒った二人に何か感じるものがあったのか、慌ててターン卿が謝った。

「ええ、そっそうですよ。父上の言う通りです。気をつけてください」

「スロー兄!」

 ルーレットがまだスローを睨む。

「そうか。いや悪かった」

 一応スローが謝った。こいつはちょっとアホかもしれない。

「いえいえ。では我々は失礼します」


 俺達が部屋から出て行くと、クライフとルーレットも付いて来て、外へ出て謝られた。

 いや、家来だから気にしてないけど、スローの考え方は微妙なところがあるな。

 少し注意が必要だろう。 


「2日後に来るから、たまには家族でのんびりしな」

「はい、ありがとうございます」


 クライフ達と別れて俺 達トライアングルウエスタン達スターズで周辺の村を視察して回った。

 やっぱり周りも変わらなく、皆貧しくてひどかった。
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