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おまけ

<おまけ>祖母

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※※主人公の父方の祖母は毒親のままでいい!という方は、そっとこのページを閉じてください。※※


「これは父には内緒ですけれど」

 王都から戻って、もう十日も過ぎています。

 帰宅すると久しぶりに見た私たちに歓喜してはしゃぐ息子が迎えてくれまして。
 王都で感じた想いも重ねて、いつも以上に頑張ろうと、娘のお世話をしつつも、息子の望みを次から次へと叶えておりましたところ。

 移動の疲れもあったのか、私が熱を出してしまって。
 また息子と離れて数日。

 熱が下がってもうすっかり元気なのですが、心配した旦那さまに、まだ部屋で休んでいるようにと言われてこの通り。
 たまに顔を見せてくれる息子の相手をしつつ、編み物などをしていたのですが。

 ずっと考えていたことがあって。
 旦那さまに聞いていただくことにしました。

「おばあさまはとても優しい方だったのですよね」

 そうか、と言った旦那さまは、私をぎゅっと抱き締めてくださいます。
 私は今、大好きな旦那さまのお膝の上です。

「リーチェには優しい人だったか」

「はい。とっても優しくて、あの人たちから悪いように言われている理由がどうしても分からないのです」

 王都であのようなことがありましたから、私は最近父方の祖母のことをよく思い出しているのですけれど。
 そのどれもが優しい記憶ばかりなのです。

 確かに厳しいときもありましたが、それは後継ぎ教育の時間だけ。
 これまでだって、お義父さまやお義母さまが息子のお世話をしてくださるときには、私もおばあさまにこうして甘やかしていただいていたなと思い出してきたのです。

 でもそれも祖母がいたから、あの人は私に近付けなかったということでしょうか?

 あんなに優しい人でしたのに?

 いくら考えてみましても、両親にとってすべての元凶のように言われていた祖母が、私の知る祖母とは一致しませんでした。

「感じ方は人それぞれだからな。それに他者に見せる顔も相手によって変わるものだ」

 そういうものでしょうか?

「私がリーチェ以外にこうも甘くなることがあると思うか?」

「ふふ。それは確かにそうでしたね」

 私だって旦那さまの前でだけ変わっていました。

「あぁ。だからリーチェにとっては好ましい人であった。それでいいと思うぞ」

「そうですね。祖母のことは大好きでした」

「少し妬けるが、お会いしてみたかったな」

 まぁ旦那さま。おばあさまにも妬いてくださるのですね?
 ふふ。今日もお可愛らしい。

 私も旦那さまをお連れして結婚して子どもを産みましたよと祖母に直接報告したかったですね。
 きっと祖母ならば喜んでくださったと思います。

 でも侯爵家の惨状を知ったら、あの人ではありませんが、祖母も倒れてしまっていたかも。


 祖母が生きていたら、弟もよく教育してくれたように思うのですが。
 弟がまだ小さい頃に亡くなってしまったので、それは叶わず。

 もしお元気でいらっしゃれば、弟は後継ぎとして立派に成長していたように思います。

「それは分からんぞ。結局、侯爵と同じ轍を踏むことも考えられる」

 その可能性もありましたね。
 弟には当主より大臣の仕事をするように言っていたかもしれません。

 すると私は当主代理として祖母のように働いていたかも?

 あら?旦那さまと結婚出来ない可能性もありましたか?

 それは大変困りますね。

「旦那さま」

「ん?」

「結婚出来て幸せです旦那さま」

 後ろからぎゅーっと抱き締めていただきながら、私は旦那さまの腕に手を重ねて胸がきゅうっと鳴る幸せを噛み締めるのです。

「早く元気になってくれ」

「もう元気ですよ?」

「だめだ。産後なのに無理をし過ぎたんだ。しばらくは安静に」

「まだ部屋に籠っていたら、あの子が泣いてしまいますよ?」

 少し離れている間に使える言葉が増えていて驚かされた私たち。
 それでもまだ拙い言葉を使って、前よりずっと上手に、一生懸命に私たちとしたいことを語ってくれた息子は、また私と会えなくなって大分拗ねてしまいました。

 その拗ね方が、旦那さまそっくりで可愛くて堪らないのですけれど。

「むしろ心配だからもっと寝ていろと言っていたぞ」

「まぁそうだったのですか?」

「さすがは私の息子だろう?」

 たっぷり泣いた後のお顔をしておりましたが、今日はお庭で摘んだお花をお見舞いと言って届けてくれた息子です。
 旦那さまも同じように私の好きなお花を出先で買って来てくださいました。

 本当にそっくりな親子ですね。

 棚に並べて飾った花瓶に活けた花を眺めるだけで、こう胸のあたりがぽかぽかと温かくなって。
 これもまた幸せな気持ちのひとつだということも、旦那さまに教えていただいたことです。


 今回のことで祖母を思い出して。
 あの家でも胸の温まる記憶を頂いていたことを、私は長く忘れていたことを知りました。

 母の冷たい言葉や態度に何年も耐えられていたのも。
 弟や妹にまで心無い言葉を掛けられようと聞き流せていたことも。
 家令のアルバをはじめ使用人たちの優しさがあっただけでなく。
 仕事に追われ考える時間がなかったせいだけでもなく。
 家族として大事にされていた記憶がちゃんと私の心の奥の方に残っていたからだったのかもしれません。

 おばあさま。
 この通り私は辺境伯家に嫁ぎ幸せに暮らしています。
 色々ありましたし、これからも色んなことが起こりそうですけれど。

 もう今までのことは過ぎたこととして。
 私はこの地で旦那さまと頑張って行こうと思います。

 先日は旦那さまとお墓参りに伺いましたけれど。
 あの子たちがもう少し大きくなりましたら、今度は一緒に連れて行きますね。
 また少し成長した息子は、きっとそうですね、沢山の綺麗なお花を誇らし気に抱え、旦那さまによく似た得意気なお顔をして、元気いっぱいに練習したご挨拶を……。

 長めに吐かれた息が首筋を揺らしました。

「私はもう元気ですよ旦那さま?」

「頼むから。体調が悪いときに私を甘やかさそうとしないでくれ」

「ですから元気ですのに」

「まだ駄目だ。私が元気だと思えるときまでやめてくれ」

「もう元気ですのに。早くいいと言ってくださいませね?私のためにお願いしますね?ね?旦那さま?」

 振り返って耳を見られないようにと、一層強く抱き締められてしまいました。

 お可愛らしい旦那さま。
 きっとお耳が赤い旦那さま。
 大好きですよ旦那さま。
 でも苦しいです旦那さま。

 どうか加減してくださいませ。
 お強くて優しい旦那さま。
 私の大好きな旦那さま。

 これからも末永く一緒に居てくださいませね。
 でも苦しいのです旦那さま。



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