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屑な父と優秀な姉

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 ここからは私の予想。

 姉は幼い頃から際立って優秀な子どもだったと聞く。
 私が覚えている限りも、ずっと姉は素晴らしく聡明な令嬢だった。

 そんなことだから父は優秀な姉にさっさと家督を譲りたくなったのだろう。
 あいつのどの言動も、自分は引退し悠々自適に暮らしたいだけのように見受けられた。

 これは家令がこっそり教えてくれたところだ。
 どうやら父は幼い頃から勉強が苦手だったらしい。
 自ら望んで勉学に励む姉とは正反対だ。

 というのは、家庭教師が来る時間になると屋敷のあちこちに隠れて皆を困らせた幼い私を諭すために、家令が教えてくれたことだったんだ。

 そんなところで父に似たのかと嫌にはなるが。

 そんな私だって、大きくなるにつれ逃げなくなった。

 だが父は違ったらしい。

 家令の言葉は、幼い私への説得目的、ただそれだけのことだっただろう。
 それは家令の思惑通りとはいかなかったが、結果は成功したとも言える。

 あれほど嫌がり勉強から逃げていた父もあるところで観念し素直に学ぶようになったから、立派な辺境伯となれたのだ。
 家令はそうとでも言いたかったのだろう。

 だが私にとって父は反面教師。
 いかなるときも、それ以上でも以下でもない。

 幼い私は家令がどう言おうとも、父は未だに逃げ続けているではないかと疑って掛かった。
 そして私は父のようにはなるまいと、勉強をするようになったのだ。

 家令は今になって何を感じているだろう。

 父の逃げ癖は矯正されるどころか発展し。
 ついには娘に辺境伯を丸投げ、最も大事な責任からも逃げた。

 辺境伯として以前に、親としてどうなんだそれ?


 と、この問題は近いうちに問い詰めるとして。

 そうなると考えるべきは、優秀な姉の優秀ではない妹、つまり私の身の振り方だ。

 貴族令嬢として、どこかの家に嫁ぐことになるのは間違いない。

 だが私はこの身体から反面教師の血を完全には切り離せないでいた。

 勉強は苦手だし?
 出来ればこれからも楽しく暮らしたいし?
 どうせなら憧れの王都に住みたいなぁ、なんて。

 でもこの希望を口に出してしまったら。
 とても優秀な姉は見事にすべて叶えそうな気がする。

 だから私は言わなかった。
 憧れの王都だと言ってはみたが、姉の側から離れたいと思っているわけではないのだ。

 だが私まで婿を取って、この地に残るわけにもいくまい。
 ならば適当な相手を見繕わなければならないだろう。

 それくらいもう自分で出来る。


 この辺境の地に変化が訪れたのはそんなときだった。



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