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Ⅱ‐53 人買いの村5
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■ルッツの村
サリナが見ているとお母さんは本当に大きな鍋に頭と腕を入れて火をかけた。胴体や足も竈の近くに持っていき、凍らせた体を融かしたいようだった。
「氷から戻せばサトルが元に戻るの?だったらサリナが炎で融かすよ?」
「ええ、火でもいいのですがお湯のほうが加減は良いのです。それに、あなたにやらせると村が灰になるかもしれませんからね」
「・・・」
竈の中にはお母さんが起こした火の魔法で薪が勢い良く燃えていて、鍋の中のお湯はぐつぐつと音が鳴っている。確かに、サリナは少しだけ燃やすのは得意ではなかったが、村全部を燃やすほど加減が出来ないわけではない・・・はずだとサリナは思った。
「ほら、もう融けていい感じになりましたよ」
マリアンヌは鍋の中から頭を大きなレードルですくって、湯と一緒に床に転がした。
「さて、どうです?焼いて、凍らせて、茹でてみましたけど、喋れるのでしょ?」
「き、貴様ぁ・・・」
マリアンヌは好き放題にこの死人の体を扱ったが、確かに死ぬこともなく。今まで通りに話しているし、熱湯の熱さも感じていないようだった。
「もう少し待っていてくださいね、体も溶けてきたら頭とつないであげますからね。その前にお話をしましょうか。今朝、村長以外の村人からも話を聞きましたが、ここの村人達も人買いの事はみんな知っていたようですね。村ぐるみとなるとひどい話ですが、いくらかのお金をもらって、あなたたちに脅かされれば誰も密告したり、逆らったりするものはいなかったのでしょう。それはさておき、村長の妻は最近あなたが連れてきた後妻さんだと聞きました。あの女は何者なのですか?」
「何故そんなことを聞く? お前たちが殺したのではないのか?」
頭だけの死人は欠けている頭部が元に戻ろうと肉が徐々に盛り上がり、片目から両目になろうとしていたが、グロテスクな状態で不思議そうな表情を浮かべていた。
「いえ、私がここに戻ったら村長だけが死んでいたのです。村長の口封じをしたのはあなたですか? それとも・・・」
「・・・さあな、貴様に答えるつもりはない」
「そうですか、では準備が整ったようですから胴体もくっつけてみましょうね」
「き、貴様ぁ!」
マリアンヌは頭をサッカーボールのように足で転がして、半解凍となったびしょ濡れの胴体の首の部分に頭を押し付けた。
「まあ!すぐにくっつくのですね!? リンネ、こんなものなのですか?」
「いや、まだ完全じゃないさ。そのうち中もつながるから、前よりも聞き取りやすい声になるはずさ」
押し付けた頭はすぐに胴体と結合して、マリアンヌが蹴っても胴体から頭が離れなかった。
「お、おのれぇ、許さん! 人の頭を足で、それに貴様は・・・」
「はいはい、じゃあそろそろやってみますか。ショーイ、この胴体の腰のあたりを炎の刀で軽くついてみてください」
「はい、マリアンヌ様」
ショーイは静かに刀を抜くと炎を纏わせた刀身を床に転がる手足の無い体にゆっくりと向けた。
「や、やめろ! お前たちは何をするつもりなのだ!?」
床の男は余裕をかなぐり捨てて、首を左右に振っている。
「ギィヤァー!」
剣が腰に浅く入っただけで、男の喉からすさまじい絶叫が響いた。不死の体を得てからというもの、ケガや病気そして痛みからも無縁となっている男は痛みに対する耐性が極めて低かった。
「やっぱり、その刀なら普通の人間と同じように傷つき、痛みを感じるのですね」
「お前ぇー・・・、痛みを与えるためにわざと体を・・・」
「そうですよ、頭だけでも良かったのですが、刺す場所が多い方が効果的でしょ?」
「な、なんということを!」
マリアンヌは残酷なセリフを平然と言ってのけ、にっこりとほほ笑んでいる。サリナは母親のことが少し怖くなってきていた。
「では、あなたが暗闇に取り込んだ男をここに戻しなさい」
「ああ・・・、良いぞ。どうせもう死んでいるんだ、空気の無い影の世界で一晩だ」
「そんな!? サトルにひどいことしたら私が許さないんだから!ぶっ飛ばしてやる!」
「サリナ、そんな乱暴な言葉を使ってはいけません。サトルに嫌われますよ。女の子は可愛く、いつも笑顔でいなければね。ミーシャさんもですよ。じゃあ、さっさとしなさい。時間稼ぎするつもりなら、3つ数えた後に腹を刺しますよ」
娘たちにやさしい言葉をかけて、最後の恐ろしいセリフも同じ口から強く言い放つと、ショーイが刀を胴体に向けた。
「ま、待て。少し集中するから10数えてくれ・・・」
男はそう言って、いつの間にか元通りになっていた両目を閉じた。
マリアンヌ達は三つ数えたときに床の上を這いずる黒い影を見つけた。その影は床の男の横に来ると大きくなり、そして床からゆっくりと伸びあがって黒いカーテンのように広がった。
マリアンヌは右手を軽く持ち上げ、ショーイは剣をそれぞれ影に向け、ミーシャはアサルトライフルを床の男に向けていた。
サリナは影を眺めながら、ただただ祈っていた。
―アシーネ様、サトルを返してください!
■ストレージの中
俺は久しぶりにゆっくりとストレージの中で過ごしていた。黒い何かに包まれてすべてが見えず、息ができないと分かった瞬間にストレージの中に飛び込んだのだ。正確にはストレージに体を拾ってもらった感覚だった。ストレージ内から外を見ると、やはり暗黒しかない。あえて出ていく必要もないだろうから、そのまま眺めていたが状況が改善しそうになかったので、風呂に入って着替えることにした。
大型バスタブにいれた草津の湯につかりながら何が起こったのか考えたものの、さっぱり判らなかった。もちろん、ミーシャ達の事が心配だったが、こういった物理法則を完全に無視したものは俺にはどうしようもないのだ。うん?このストレージは別だな。最悪の場合ストレージの外が永遠に暗闇の中だ・・・、出ることが出来ないとなると一生オフラインのゲームとDVD等の旧作を見続けてここで過ごすことになるのだろうか? そんなことを考えて風呂から上がって、着替え、食事をし、そして寝ることにした。翌朝時計を見ると5時過ぎだったが、まだストレージの外は暗闇のままだった。朝食をとりながら、改めて先の事を考えたが、ここからできることは無いとの結論以外には見いだせない。
それでも、備えあれば憂いなしだ。外に出ていくときの装備を整えるために武器の部屋に入り、弾薬の補充と装備類のチェックを行い、車両にはガソリンを補給しておいた。しかし、2時間もかからずにすべて終えてしまう。
―暇だ・・・。ミーシャ達は朝ご飯どうしたかな? 飲み物は?
■ルッツの村 村長の家
床から持ち上がった黒いカーテンは紐を切って落とされた幕のように突然地面に落ちて消えた・・・が、ただそれだけだった。
「?」
「今のは何ですか? 私はサトルさんを出してくださいとお願いしたはずです。変な時間稼ぎなら・・・」
「いや、違う! 俺の影使いで確かに取り込んだはずだ!影を消したから、中にいるはずの男が出てくるはずなのだ!? お前たちも男が消えるのは見たのだろう?」
「だったら、何処にやったのですか! 下手な時間稼ぎを! ショーイ、腹を刺しなさい」
「ギャグゥゥー!! い、痛いーーー ち、チクショウ! ゆ、許さん、お前たちの言う通りに・・・、ゲェッッッほ」
マリアンヌもショーイも容赦なかった。足元の男に嘘をついている気配もなかったが、事実として目の前にサトルはいない。敵の策略かもしれない以上は手加減をするつもりは無かった。ショーイは突き立てた刀を回して腹を抉った。
「ガァーッ!! 痛い、痛い、頼むやめてくれ・・・本当に俺は戻そうとしたのだ。何故、影の中にいないのかが俺にもわからないのだ!」
「そうですか・・・、とりあえず結果が全てですからね。ならば、どうすれば戻ると思いますか?」
「わからん・・・、ま、待て、本当にわからないのだ! だが、元の場所に・・・、そうだ! 元の場所に隠れているんじゃないのか?」
「元の場所?」
サリナが見ているとお母さんは本当に大きな鍋に頭と腕を入れて火をかけた。胴体や足も竈の近くに持っていき、凍らせた体を融かしたいようだった。
「氷から戻せばサトルが元に戻るの?だったらサリナが炎で融かすよ?」
「ええ、火でもいいのですがお湯のほうが加減は良いのです。それに、あなたにやらせると村が灰になるかもしれませんからね」
「・・・」
竈の中にはお母さんが起こした火の魔法で薪が勢い良く燃えていて、鍋の中のお湯はぐつぐつと音が鳴っている。確かに、サリナは少しだけ燃やすのは得意ではなかったが、村全部を燃やすほど加減が出来ないわけではない・・・はずだとサリナは思った。
「ほら、もう融けていい感じになりましたよ」
マリアンヌは鍋の中から頭を大きなレードルですくって、湯と一緒に床に転がした。
「さて、どうです?焼いて、凍らせて、茹でてみましたけど、喋れるのでしょ?」
「き、貴様ぁ・・・」
マリアンヌは好き放題にこの死人の体を扱ったが、確かに死ぬこともなく。今まで通りに話しているし、熱湯の熱さも感じていないようだった。
「もう少し待っていてくださいね、体も溶けてきたら頭とつないであげますからね。その前にお話をしましょうか。今朝、村長以外の村人からも話を聞きましたが、ここの村人達も人買いの事はみんな知っていたようですね。村ぐるみとなるとひどい話ですが、いくらかのお金をもらって、あなたたちに脅かされれば誰も密告したり、逆らったりするものはいなかったのでしょう。それはさておき、村長の妻は最近あなたが連れてきた後妻さんだと聞きました。あの女は何者なのですか?」
「何故そんなことを聞く? お前たちが殺したのではないのか?」
頭だけの死人は欠けている頭部が元に戻ろうと肉が徐々に盛り上がり、片目から両目になろうとしていたが、グロテスクな状態で不思議そうな表情を浮かべていた。
「いえ、私がここに戻ったら村長だけが死んでいたのです。村長の口封じをしたのはあなたですか? それとも・・・」
「・・・さあな、貴様に答えるつもりはない」
「そうですか、では準備が整ったようですから胴体もくっつけてみましょうね」
「き、貴様ぁ!」
マリアンヌは頭をサッカーボールのように足で転がして、半解凍となったびしょ濡れの胴体の首の部分に頭を押し付けた。
「まあ!すぐにくっつくのですね!? リンネ、こんなものなのですか?」
「いや、まだ完全じゃないさ。そのうち中もつながるから、前よりも聞き取りやすい声になるはずさ」
押し付けた頭はすぐに胴体と結合して、マリアンヌが蹴っても胴体から頭が離れなかった。
「お、おのれぇ、許さん! 人の頭を足で、それに貴様は・・・」
「はいはい、じゃあそろそろやってみますか。ショーイ、この胴体の腰のあたりを炎の刀で軽くついてみてください」
「はい、マリアンヌ様」
ショーイは静かに刀を抜くと炎を纏わせた刀身を床に転がる手足の無い体にゆっくりと向けた。
「や、やめろ! お前たちは何をするつもりなのだ!?」
床の男は余裕をかなぐり捨てて、首を左右に振っている。
「ギィヤァー!」
剣が腰に浅く入っただけで、男の喉からすさまじい絶叫が響いた。不死の体を得てからというもの、ケガや病気そして痛みからも無縁となっている男は痛みに対する耐性が極めて低かった。
「やっぱり、その刀なら普通の人間と同じように傷つき、痛みを感じるのですね」
「お前ぇー・・・、痛みを与えるためにわざと体を・・・」
「そうですよ、頭だけでも良かったのですが、刺す場所が多い方が効果的でしょ?」
「な、なんということを!」
マリアンヌは残酷なセリフを平然と言ってのけ、にっこりとほほ笑んでいる。サリナは母親のことが少し怖くなってきていた。
「では、あなたが暗闇に取り込んだ男をここに戻しなさい」
「ああ・・・、良いぞ。どうせもう死んでいるんだ、空気の無い影の世界で一晩だ」
「そんな!? サトルにひどいことしたら私が許さないんだから!ぶっ飛ばしてやる!」
「サリナ、そんな乱暴な言葉を使ってはいけません。サトルに嫌われますよ。女の子は可愛く、いつも笑顔でいなければね。ミーシャさんもですよ。じゃあ、さっさとしなさい。時間稼ぎするつもりなら、3つ数えた後に腹を刺しますよ」
娘たちにやさしい言葉をかけて、最後の恐ろしいセリフも同じ口から強く言い放つと、ショーイが刀を胴体に向けた。
「ま、待て。少し集中するから10数えてくれ・・・」
男はそう言って、いつの間にか元通りになっていた両目を閉じた。
マリアンヌ達は三つ数えたときに床の上を這いずる黒い影を見つけた。その影は床の男の横に来ると大きくなり、そして床からゆっくりと伸びあがって黒いカーテンのように広がった。
マリアンヌは右手を軽く持ち上げ、ショーイは剣をそれぞれ影に向け、ミーシャはアサルトライフルを床の男に向けていた。
サリナは影を眺めながら、ただただ祈っていた。
―アシーネ様、サトルを返してください!
■ストレージの中
俺は久しぶりにゆっくりとストレージの中で過ごしていた。黒い何かに包まれてすべてが見えず、息ができないと分かった瞬間にストレージの中に飛び込んだのだ。正確にはストレージに体を拾ってもらった感覚だった。ストレージ内から外を見ると、やはり暗黒しかない。あえて出ていく必要もないだろうから、そのまま眺めていたが状況が改善しそうになかったので、風呂に入って着替えることにした。
大型バスタブにいれた草津の湯につかりながら何が起こったのか考えたものの、さっぱり判らなかった。もちろん、ミーシャ達の事が心配だったが、こういった物理法則を完全に無視したものは俺にはどうしようもないのだ。うん?このストレージは別だな。最悪の場合ストレージの外が永遠に暗闇の中だ・・・、出ることが出来ないとなると一生オフラインのゲームとDVD等の旧作を見続けてここで過ごすことになるのだろうか? そんなことを考えて風呂から上がって、着替え、食事をし、そして寝ることにした。翌朝時計を見ると5時過ぎだったが、まだストレージの外は暗闇のままだった。朝食をとりながら、改めて先の事を考えたが、ここからできることは無いとの結論以外には見いだせない。
それでも、備えあれば憂いなしだ。外に出ていくときの装備を整えるために武器の部屋に入り、弾薬の補充と装備類のチェックを行い、車両にはガソリンを補給しておいた。しかし、2時間もかからずにすべて終えてしまう。
―暇だ・・・。ミーシャ達は朝ご飯どうしたかな? 飲み物は?
■ルッツの村 村長の家
床から持ち上がった黒いカーテンは紐を切って落とされた幕のように突然地面に落ちて消えた・・・が、ただそれだけだった。
「?」
「今のは何ですか? 私はサトルさんを出してくださいとお願いしたはずです。変な時間稼ぎなら・・・」
「いや、違う! 俺の影使いで確かに取り込んだはずだ!影を消したから、中にいるはずの男が出てくるはずなのだ!? お前たちも男が消えるのは見たのだろう?」
「だったら、何処にやったのですか! 下手な時間稼ぎを! ショーイ、腹を刺しなさい」
「ギャグゥゥー!! い、痛いーーー ち、チクショウ! ゆ、許さん、お前たちの言う通りに・・・、ゲェッッッほ」
マリアンヌもショーイも容赦なかった。足元の男に嘘をついている気配もなかったが、事実として目の前にサトルはいない。敵の策略かもしれない以上は手加減をするつもりは無かった。ショーイは突き立てた刀を回して腹を抉った。
「ガァーッ!! 痛い、痛い、頼むやめてくれ・・・本当に俺は戻そうとしたのだ。何故、影の中にいないのかが俺にもわからないのだ!」
「そうですか・・・、とりあえず結果が全てですからね。ならば、どうすれば戻ると思いますか?」
「わからん・・・、ま、待て、本当にわからないのだ! だが、元の場所に・・・、そうだ! 元の場所に隠れているんじゃないのか?」
「元の場所?」
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