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第3章
第119話 僕のこと1
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「お前のことが知りたい」
泣いているせいかな? 体が熱い…はぁ、と吐き出す呼吸すら熱い。頭はぼんやりする。僕のことを知りたいなんて、クライスったら変なの。何も言いたくはないけれど、と思いながらも、真剣な彼の目に負けて、僕はぽつりぽつりと話をはじめた。
「目を見られるとリリーやベルトやロイルに、嫌われてしまうと思ったの」
「なぜ?」
「だって僕の目、気持ちの悪い色でしょ? 昔よく、そう言われたから」
「お前の瞳が気持ち悪い? そんなはずがない。誰に言われた?」
「小さい頃に使用人たちに……」
「……公爵家の使用人がそんなことを!? 他には、何か言われたのか?」
「そう、だね…彼らは裏で色々言っていたけれど、そんな話聞いても…おもしろくないよ。聞かないほうがいいよ」
もうこんな暗い話は終わりにした方がいいと思うのだけど……。
「言え。全部」
でも……と口籠もる僕に彼はどうしても聞かせろと言う。はぁ、はぁ、と熱い息を吐き出しながら、僕は答えた。
「あいつは…公爵家嫡男のくせに…魔力は自分たちより少ない落ちこぼれだ…とか。真っ黒い髪をした化け物だ、とか。我が儘で高飛車で手に負えない性格のくせに人形のような顔をして…人を…誘惑して陥れるつもりに…違いない。あいつは危険な闇属性だから…近づかない方がいい。とか、そんなの…かな。他にも色々あった気がするけれど、もう…忘れた」
クライスの顔がどんどん曇っていく。しまった。彼を悲しませたくはないのに。
「あ、でもそんなふうに言ってくる奴は…わがままを言ってみんな…辞めさせたから、やられっぱなしだったわけじゃ…ないよ」
思う存分悪役ぶりを発揮してどんどん彼らをクビにしていったからね。それか、自分からユジンのところに行ったりして、今はもうそんなことを言う使用人は残っていない。僕の元にいるのはルゥとメアリーとベンスとセントラだけになった。
だから、大丈夫なはずなのに。今更涙が流れてくるのはどうしてだろう。
僕は涙を止めることなく、わんわん泣きながらお話を続けた。
目の色が変わったあの日のこと。その時の使用人たちの反応。お父様とお母様が僕の目をどうおもっているのか噂話を聞いてしまった時のこと。
つっかえつっかえ、話の時系列もバラバラしていてとてもわかりにくい僕の話を、彼は最後まで聞いてくれた。
僕は、こんなふうに自分のことを誰かに話すのは得意じゃない。それは七海のときもそうだった。
七海は弱すぎる体のせいで、人の助けなしではほとんど何もできなかった。
朝起きて体温を測ると、お母さんが
「今日も、残念だけど学校は休みなさい。ひどい熱が出ているわ」
と言う。僕はこくりと頷いて、しばらく眠り、おかゆを食べ、薬を飲む。うっと気持ちが悪くなるとお母さんが用意してくれていたビニール袋に吐いた。
「七海、大丈夫!?すぐに病院に行きましょ」
中学三年生にもなって母に抱えられるのは恥ずかしいけれど、そうも言っていられない。幸い体は小さくとても細いから、女性の力でもなんとか僕を抱えることはできるようだ。でも重いに違いない。しかも彼女は診察券、水筒、財布、タオル、ビニール袋、ティッシュ、僕の替えの服、薬などあらゆるものを詰め込んだ大きな鞄まで持っている。(中身は僕に必要なものばかりだ)
母に車に乗せられ、病院に行き、診察を受ける。薬をもらい、帰ってまた休む。
入院となると、父や母が入院セットを用意してくれ、毎日新しい服を届けてくれた。優斗もその手伝いや差し入れをしてくれた。
お母さんもお父さんも優斗も、もっとやりたいことがあるはずなのに、僕のせいで貴重な時間が削られていく。
「ありがと。ごめんね」
僕は同じことを繰り返しいうことしかできなかった。人を頼らなければ生きていけない。
そんな自分が大嫌いだった。特別なものなんて何もなくていい。ただ、一人で生きていくだけの力が欲しかった。
ーーこれ以上迷惑をかけたくない。
僕が自分の最後を決めたのはたぶん優斗の言葉を聞いたから、だけじゃない。もう、いいかげんそんな自分を終わらせたかった。苦しい闘病生活にも疲れていた。それ以上に、それに大切な人たちを巻き込み続けるのが辛かった。そして、一度終わらせることを思いつくと、それが最善の方法だと思えてならなかった。
ーーだって、もうこれ以上誰にも迷惑をかけずに済む
覚悟を決めるとふわっと気が楽になって、笑みが浮かんだ。
前世の七海は最後まで誰にも相談しなかった。
泣いているせいかな? 体が熱い…はぁ、と吐き出す呼吸すら熱い。頭はぼんやりする。僕のことを知りたいなんて、クライスったら変なの。何も言いたくはないけれど、と思いながらも、真剣な彼の目に負けて、僕はぽつりぽつりと話をはじめた。
「目を見られるとリリーやベルトやロイルに、嫌われてしまうと思ったの」
「なぜ?」
「だって僕の目、気持ちの悪い色でしょ? 昔よく、そう言われたから」
「お前の瞳が気持ち悪い? そんなはずがない。誰に言われた?」
「小さい頃に使用人たちに……」
「……公爵家の使用人がそんなことを!? 他には、何か言われたのか?」
「そう、だね…彼らは裏で色々言っていたけれど、そんな話聞いても…おもしろくないよ。聞かないほうがいいよ」
もうこんな暗い話は終わりにした方がいいと思うのだけど……。
「言え。全部」
でも……と口籠もる僕に彼はどうしても聞かせろと言う。はぁ、はぁ、と熱い息を吐き出しながら、僕は答えた。
「あいつは…公爵家嫡男のくせに…魔力は自分たちより少ない落ちこぼれだ…とか。真っ黒い髪をした化け物だ、とか。我が儘で高飛車で手に負えない性格のくせに人形のような顔をして…人を…誘惑して陥れるつもりに…違いない。あいつは危険な闇属性だから…近づかない方がいい。とか、そんなの…かな。他にも色々あった気がするけれど、もう…忘れた」
クライスの顔がどんどん曇っていく。しまった。彼を悲しませたくはないのに。
「あ、でもそんなふうに言ってくる奴は…わがままを言ってみんな…辞めさせたから、やられっぱなしだったわけじゃ…ないよ」
思う存分悪役ぶりを発揮してどんどん彼らをクビにしていったからね。それか、自分からユジンのところに行ったりして、今はもうそんなことを言う使用人は残っていない。僕の元にいるのはルゥとメアリーとベンスとセントラだけになった。
だから、大丈夫なはずなのに。今更涙が流れてくるのはどうしてだろう。
僕は涙を止めることなく、わんわん泣きながらお話を続けた。
目の色が変わったあの日のこと。その時の使用人たちの反応。お父様とお母様が僕の目をどうおもっているのか噂話を聞いてしまった時のこと。
つっかえつっかえ、話の時系列もバラバラしていてとてもわかりにくい僕の話を、彼は最後まで聞いてくれた。
僕は、こんなふうに自分のことを誰かに話すのは得意じゃない。それは七海のときもそうだった。
七海は弱すぎる体のせいで、人の助けなしではほとんど何もできなかった。
朝起きて体温を測ると、お母さんが
「今日も、残念だけど学校は休みなさい。ひどい熱が出ているわ」
と言う。僕はこくりと頷いて、しばらく眠り、おかゆを食べ、薬を飲む。うっと気持ちが悪くなるとお母さんが用意してくれていたビニール袋に吐いた。
「七海、大丈夫!?すぐに病院に行きましょ」
中学三年生にもなって母に抱えられるのは恥ずかしいけれど、そうも言っていられない。幸い体は小さくとても細いから、女性の力でもなんとか僕を抱えることはできるようだ。でも重いに違いない。しかも彼女は診察券、水筒、財布、タオル、ビニール袋、ティッシュ、僕の替えの服、薬などあらゆるものを詰め込んだ大きな鞄まで持っている。(中身は僕に必要なものばかりだ)
母に車に乗せられ、病院に行き、診察を受ける。薬をもらい、帰ってまた休む。
入院となると、父や母が入院セットを用意してくれ、毎日新しい服を届けてくれた。優斗もその手伝いや差し入れをしてくれた。
お母さんもお父さんも優斗も、もっとやりたいことがあるはずなのに、僕のせいで貴重な時間が削られていく。
「ありがと。ごめんね」
僕は同じことを繰り返しいうことしかできなかった。人を頼らなければ生きていけない。
そんな自分が大嫌いだった。特別なものなんて何もなくていい。ただ、一人で生きていくだけの力が欲しかった。
ーーこれ以上迷惑をかけたくない。
僕が自分の最後を決めたのはたぶん優斗の言葉を聞いたから、だけじゃない。もう、いいかげんそんな自分を終わらせたかった。苦しい闘病生活にも疲れていた。それ以上に、それに大切な人たちを巻き込み続けるのが辛かった。そして、一度終わらせることを思いつくと、それが最善の方法だと思えてならなかった。
ーーだって、もうこれ以上誰にも迷惑をかけずに済む
覚悟を決めるとふわっと気が楽になって、笑みが浮かんだ。
前世の七海は最後まで誰にも相談しなかった。
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