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第3章
第118話 金の瞳
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(ん、ここは……妖精の国?)
抱っこの揺れが心地良くてまた眠ってしまった僕が目を覚ますと、あたりは妖精だらけ。
四枚の羽をパタパタと動かし、蝶々みたいに花から花へと飛び回っている。
「あれ~おいしそうなかおりがする」
「ほんとほんと、わぁ、おいしそう」
僕の周りに集まってくる妖精たち。手も足も全部小さくて、でもみんな服装も髪型も顔も体型も全部違う。だけど笑い方は似ている。コロコロと鈴を転がしたような、涼しげな笑い声だ。
「あ、キルナ様、起きたのですか?」
ロイルが僕の顔を覗き込んでいる。
「よく眠っておられましたね。すごく気持ちよさそうに」
ベルトも駆け寄ってきた。
「ふぇ、ごめん。そんなに寝てた? そか、温室に……もう着いたんだね」
ふわぁ、すごい。花でいっぱいの見事な温室だ。僕の温室よりも何十倍も広くて、花の種類が豊富で、妖精もたくさんいる。湿度や温度を管理する設備も完璧だ。ここでならどんな花でも草でも元気に育つに違いない。
(あ、でもトリアは芽が出ないと言っていたのだっけ。なんでだろ。)
「えと、トリアはどこかしら?」
「こちらです」
クライスが歩くといい感じに振動が伝わってきて、すぐに眠たくなってしまう。でも駄目駄目! と僕は首を振った。
こいつどんだけ寝るんだ、ってみんな思ってるよね。まずい。せっかく友達の家に来たのにぐうぐう寝てばっかりじゃ失礼だ。いい加減バシッと起きなきゃ!! 僕は目を覚ますために目頭の近くのツボを指でぎゅっと押した。(これはつまらない授業で居眠りしそうな時にいいよ、と優斗に教わった)
(よし、これで大丈夫そ……。あれ? そういえば、僕、今眼鏡を……していない? ……あぁ、なんてこと!!)
今、ロイルとベルトに顔を見られた…よね。さっきはリリーとも近くでお話をした。僕の目は、気持ち悪いと思われなかっただろうか?
『きゃあ!! 何ですか!? その瞳のお色は。昨日までは青色でしたのにっ!!』
あれは、まだ僕が七海の記憶を取り戻す前。そんな小さな時の記憶なんて他はほとんど忘れてしまったのだけど、その時のことだけはやけにはっきりと覚えている。
もともと青かった目が、ある日突然金色に変わった。僕は特になんとも思わなかったけれど、使用人たちはとても気持ち悪がっていた。急に色が変わるなんて変だって。しかも金の瞳なんて見たことがないと言っていた。最初にその変化に気づいた侍女は悲鳴をあげていたっけ。もし病気だったりしたら世話をしている自分たちのせいになるからと、水で目を洗われたり、目薬を何種類もさされたりしたけれど、残念ながらどれも効果はなく僕の目が元の青色に戻ることはなかった。
みんなに気味悪がられて、最初はなんとも思わなかった僕も次第にこの金の眼が不気味に見えるようになってきた。
ーー黒い髪だけでも気持ち悪いと言われるのに、瞳まで変な色になってしまった。
その数日後、お父様とお母様も僕の目を気持ちが悪いと言っていた、と使用人たちが話しているのを耳にした。あの時の絶望的な気持ちは今でもよく覚えている。それからというもの、僕は自分の目が大嫌いになった。髪の毛と同じくらいに。
だから、ルゥたちが学校用にと分厚い伊達眼鏡を用意してくれて、僕は内心ほっとしたのだった。クライスは近くで見ても平気なようだけれど、リリーとベルトとロイルは僕の目を知らない。
(隠さなきゃ。嫌われてしまう……。)
僕はクライスの耳に顔を近づけて小声で尋ねた。
「ね、クライス。僕の眼鏡を知らない?」
「眼鏡? ああ、今日はほとんど眠っているし、必要ないかと思って部屋に置いてきたが……。どうした、キルナ。なぜ泣いている?」
「え、あ。なんで、だろ。ごめん。なんでも……ないのだけど」
涙は止めようとすればするほど溢れてきて、どうしようもなかった。駄目だ。泣いたりしたらみんなこっちに注目してしまう。僕はクライスの肩に額をくっつけて、言った。
「ぼ、僕…また…眠くなってきたの。ごめん…ね。もうちょっとだけ、寝かせて欲しいの」
もうちょっとだけ。そうしたら涙、止まるから。僕は眠たいふりをして彼の肩で顔を隠すことにした。目の色もそうだし、涙も見られたくなかった。
「ああ、眠っていいぞ。すまない、ベルト。キルナを休ませたい。どこか部屋を貸してくれないか?」
「ええ、もちろん。客室にご案内します」
案内された客室は、淡いグリーンで統一された爽やかな印象の部屋だった。中央にキングサイズの大きなベッドが一つ置かれ、家具は猫足の家具で揃えられ、とても高級感がある。王子様が泊まっても全然おかしくない素晴らしい部屋だ。
「明日は休みですし、なんなら泊まっていってください。使用人も控えておりますので、必要があればいつでもそこのベルでお呼びください」
ベルトが扉を閉めると、部屋にはクライスと僕、二人だけになった。もう、隠さなくても大丈夫。ゆっくり顔を上げるとすぐ近くにアイスブルーの瞳があった。
「キルナ、泣いている理由を教えろ」
言い方はいつも通り命令口調だけど、その目はどこまでも優しく真っ直ぐに僕の目を見つめていた。
抱っこの揺れが心地良くてまた眠ってしまった僕が目を覚ますと、あたりは妖精だらけ。
四枚の羽をパタパタと動かし、蝶々みたいに花から花へと飛び回っている。
「あれ~おいしそうなかおりがする」
「ほんとほんと、わぁ、おいしそう」
僕の周りに集まってくる妖精たち。手も足も全部小さくて、でもみんな服装も髪型も顔も体型も全部違う。だけど笑い方は似ている。コロコロと鈴を転がしたような、涼しげな笑い声だ。
「あ、キルナ様、起きたのですか?」
ロイルが僕の顔を覗き込んでいる。
「よく眠っておられましたね。すごく気持ちよさそうに」
ベルトも駆け寄ってきた。
「ふぇ、ごめん。そんなに寝てた? そか、温室に……もう着いたんだね」
ふわぁ、すごい。花でいっぱいの見事な温室だ。僕の温室よりも何十倍も広くて、花の種類が豊富で、妖精もたくさんいる。湿度や温度を管理する設備も完璧だ。ここでならどんな花でも草でも元気に育つに違いない。
(あ、でもトリアは芽が出ないと言っていたのだっけ。なんでだろ。)
「えと、トリアはどこかしら?」
「こちらです」
クライスが歩くといい感じに振動が伝わってきて、すぐに眠たくなってしまう。でも駄目駄目! と僕は首を振った。
こいつどんだけ寝るんだ、ってみんな思ってるよね。まずい。せっかく友達の家に来たのにぐうぐう寝てばっかりじゃ失礼だ。いい加減バシッと起きなきゃ!! 僕は目を覚ますために目頭の近くのツボを指でぎゅっと押した。(これはつまらない授業で居眠りしそうな時にいいよ、と優斗に教わった)
(よし、これで大丈夫そ……。あれ? そういえば、僕、今眼鏡を……していない? ……あぁ、なんてこと!!)
今、ロイルとベルトに顔を見られた…よね。さっきはリリーとも近くでお話をした。僕の目は、気持ち悪いと思われなかっただろうか?
『きゃあ!! 何ですか!? その瞳のお色は。昨日までは青色でしたのにっ!!』
あれは、まだ僕が七海の記憶を取り戻す前。そんな小さな時の記憶なんて他はほとんど忘れてしまったのだけど、その時のことだけはやけにはっきりと覚えている。
もともと青かった目が、ある日突然金色に変わった。僕は特になんとも思わなかったけれど、使用人たちはとても気持ち悪がっていた。急に色が変わるなんて変だって。しかも金の瞳なんて見たことがないと言っていた。最初にその変化に気づいた侍女は悲鳴をあげていたっけ。もし病気だったりしたら世話をしている自分たちのせいになるからと、水で目を洗われたり、目薬を何種類もさされたりしたけれど、残念ながらどれも効果はなく僕の目が元の青色に戻ることはなかった。
みんなに気味悪がられて、最初はなんとも思わなかった僕も次第にこの金の眼が不気味に見えるようになってきた。
ーー黒い髪だけでも気持ち悪いと言われるのに、瞳まで変な色になってしまった。
その数日後、お父様とお母様も僕の目を気持ちが悪いと言っていた、と使用人たちが話しているのを耳にした。あの時の絶望的な気持ちは今でもよく覚えている。それからというもの、僕は自分の目が大嫌いになった。髪の毛と同じくらいに。
だから、ルゥたちが学校用にと分厚い伊達眼鏡を用意してくれて、僕は内心ほっとしたのだった。クライスは近くで見ても平気なようだけれど、リリーとベルトとロイルは僕の目を知らない。
(隠さなきゃ。嫌われてしまう……。)
僕はクライスの耳に顔を近づけて小声で尋ねた。
「ね、クライス。僕の眼鏡を知らない?」
「眼鏡? ああ、今日はほとんど眠っているし、必要ないかと思って部屋に置いてきたが……。どうした、キルナ。なぜ泣いている?」
「え、あ。なんで、だろ。ごめん。なんでも……ないのだけど」
涙は止めようとすればするほど溢れてきて、どうしようもなかった。駄目だ。泣いたりしたらみんなこっちに注目してしまう。僕はクライスの肩に額をくっつけて、言った。
「ぼ、僕…また…眠くなってきたの。ごめん…ね。もうちょっとだけ、寝かせて欲しいの」
もうちょっとだけ。そうしたら涙、止まるから。僕は眠たいふりをして彼の肩で顔を隠すことにした。目の色もそうだし、涙も見られたくなかった。
「ああ、眠っていいぞ。すまない、ベルト。キルナを休ませたい。どこか部屋を貸してくれないか?」
「ええ、もちろん。客室にご案内します」
案内された客室は、淡いグリーンで統一された爽やかな印象の部屋だった。中央にキングサイズの大きなベッドが一つ置かれ、家具は猫足の家具で揃えられ、とても高級感がある。王子様が泊まっても全然おかしくない素晴らしい部屋だ。
「明日は休みですし、なんなら泊まっていってください。使用人も控えておりますので、必要があればいつでもそこのベルでお呼びください」
ベルトが扉を閉めると、部屋にはクライスと僕、二人だけになった。もう、隠さなくても大丈夫。ゆっくり顔を上げるとすぐ近くにアイスブルーの瞳があった。
「キルナ、泣いている理由を教えろ」
言い方はいつも通り命令口調だけど、その目はどこまでも優しく真っ直ぐに僕の目を見つめていた。
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