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第5章

第200話 悪役令息の逃亡

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洞窟のような狭い通路を走って走って走り続ける。足元が見えないから何度も石につまずいて転けてしまう。うう、走って転けて走って転けて……おまけに道がわからないなんて、なんだかジーンの庭園のことを思い出す。

(長いよぉ。こんなに走っているのに、全然終わりが見えない)

分かれ道が何度もあったけれど、道が合っているのかどうかもわからない。幸い行き止まりではないから引き返すことなく進んではいるのだけど……。

「はぁ、はぁ、喉が、乾いたな……」

ぴちゃんぴちゃんと水音が聞こえる。走っていると、時折バチャンと水を踏むことがあるから、水が流れているのかもしれない。試しにしゃがみ込んで地面の岩肌を触ってみると、しっとりと濡れているところがあった。でも、これって飲めるのかしら? 暗すぎて水がきれいかどうか目で見て確かめることもできない。飲むには怖い……。う~ん、どうしよ……と考え、僕はとっても良い方法を思いついた。そういえば僕はなのだった。

僕は手に魔力の水を集め、それを零さないように慎重にごくりと飲む。

「あ、ちょっと甘くて…おいし…。…生き返る、はぁ、はぁ」

魔力の水を飲料水として利用するのは初めてだったけど、大成功だった。普通の水よりも甘い水は体を潤し前に進む力を与えてくれる。20ミリリットルくらいの魔力の水を飲んだけど、体調はいい。(自分の魔力を自分で飲めば魔力の量としてはどうやらプラスマイナスゼロになるみたい)

「よかった。水の心配はしなくてよさそう」

クライスのくれたチョーカーのおかげで魔力枯渇の心配もなさそうだ。(普通のチョーカーだと思ってたのに、こんなすごい仕掛けがしてあるなんて。彼に会ったらお礼を言わないと。)

もある。もある。きっと大丈夫。何度も自分を励ましながら前へ前へと進む。

でも……。ふっと暗い影が心をおおう。もう一度、会えるのだろうか? この真っ暗な世界から、本当に、出られる? 

ーー会いたい、会いたい、会いたい。

会ってお礼を言って、それからおでこにおまじないをしてもらって、温かい彼の腕に包まれながら、眠りたい。


水分補給をしながらまた延々と走り続けると、前方に、ぽぉっと小さな光のたまが現れた。

「ん? あれ、何だろう」

――光

ひらひらと飛び回るそれを僕は夢中で追いかける。やっと見つけた光を見失いたくなかった。
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