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9. 心外な出来事 ②
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なんだか温かいなと思った。パシャっと音が反響する。
なんだろう、水?お湯?溺れる?
手足を伸ばして何かに捕まろうとする。と、ぎゅっと体を支えるものに気づいた。
ああ、大丈夫だ、溺れない。
ホッとする。温かくて気持ちがいい。時々水音がする以外静かだ。
これ、夢かな。私、寝てるんだ。だって、ものすごく眠いし。
頬に触れている何かに気づいた。何かな、これ……。
「俺の腕を噛まない、一花」
声が反響していた。細く目を開ける。明かりが目に入ってくる。それから、人のシルエット。
眠くて目を開けていることができず、すぐに閉じた。
柔らかい何かが唇を塞ぐのがわかった。
「大人しく待っていてあげるのも、そろそろ限界ですからね?お嬢様」
「ん……」
答える間も無くまた唇が塞がれる、やさしく、ゆっくり。
水音がきこえた。
眩しくて目が覚めた。ブラインドが開いていて光が部屋に入ってきていた。
ぼんやりと視線を動かす。白いシーツが目に入る。それから……。
「おはようございます、お嬢様」
にっこり笑った榛瑠の顔がほんの数センチ先にあった。
……え。
……ちょっとまって。なんで? 私、昨日……。
色々思い出す。そして色々思い出せない!えっと、何があった、私⁉︎
体があちこち痛む。とにかく起きなくちゃ。
そうして、巻きつけるようにして寝ていた毛布から体を起こして、……思考が一瞬止まった。
どうして私、何にも着てないの??
一瞬の空白の後、慌てて毛布を手繰り寄せて体に巻きつける。
心臓がおかしなくらいバクバク言っている。ちらっと榛瑠を見ると、何事もないかのようにベットの上に座っていた。
「な、なんで……」
「何がですか」
何がって、すべてよ!待って、私、昨日飲みに行って、なんか途中からおかしくなって、誰かに助けられて。
何が起こったのか、まず、一つずつ聞くべき?それともいきなり聞くべき?どうして裸でしょうかって。
……それ、無理。ゆっくりいこう。
「あの、昨日、私」
「はい」
「なんかしでかしました?」
だよね、きっと。
「ほんの少し馬鹿だっただけですよ。正確には脇どころか全面的に甘くて嵌められただけです」
「……それであの、助けていただいたのでしょうか」
ぼんやりと榛瑠と電話した記憶がある。それから優しい声と、あと、黒い人影。
「私と、もう一人でね」
「……あの、彼は?」
私に何か飲ませたであろう人の名を言いたくなかった。でも、気にはなる。
「さあ?」
榛瑠の返事はそっけなかった。
まあいいや、さすがに私も、今はそれどころじゃない。
ちょっとまってよ、車に乗せられた記憶はなんとなくある。で、多分ここまで来て……。
ドウシテハダカ?
口を開いたまま次の言葉が出ない私を見て榛瑠が言った。
「誤解のないよう言っておきますが、服を脱いだのはあなた自身です。私が脱がせた訳ではありませんから」
「……え……」
なんでそんなことした、私?人生やめるつもり?
「あ、でも、お風呂に入れたのは私ですけど。入るってきかなかったので」
水音……、聞いた……。お風呂って、いれたって、ハダカって……。
私は頭から毛布を被ってその場で丸まった。顔がめちゃくちゃあつい。耐えられない!
見られたどころじゃないわよ、どうしてくれるの、私!
なんとなく、覚えている。髪とか撫でてもらったし、ドライヤーの音とか聞いた気がするし。
それに、……それに、なんだかすごい気持ちよかったような……。
そう思った時、心臓が飛び出た、と思った。
ついでに涙も滲んだ。
「すごく恥ずかしがっているみたいですが、あなたがお小さい時、着替えさせたりしてたの私ですからね」
「……一応、もう五歳児ではないもので」
私はボソボソ言ってみる。
「御心配なく。言うほど変わりません」
「……酷い」
「違うというなら、試して見ましょうか?」
え?
ぎしっとベットマットが揺れるのがわかった。思わず顔を上げる。
榛瑠が近寄ってくる。私は身動きも出来ず、ただ思いっきりぎゅっと目をつぶった。
そして、私は身を思いっきりよじった。
「ちょっと、やだ、やめて!お願い!ごめんなさい!やだってば!」
人が脇腹弱いの知ってて!
榛瑠は私の脇腹をくすぐるのをやめてそのままベットを下りた。
「ほら、子供の時と変わらないじゃないですか」
涼しい声が頭の上から降ってくる。私は悪魔みたいな声の主を見上げた。
無表情な金色の目が私を見下ろしていた。
「ねえ、もしかして、榛瑠怒ってる?」
榛瑠はわたしを見下ろして婉然と微笑んだ。
だめだ、これはかなり怒ってる。
そう思ったら急に悲しくなった。私は毛布をまた頭から被った。
なんで怒るの?そりゃあ、私も油断したと思うよ?でも、同僚と飲んだだけじゃない?私のせいなの?やだ、もう。
横に榛瑠が座る気配がした。体に力が入って縮めてしまう。と、毛布の上から頭にそっと手が置かれた。
「何か、食べられそうですか?」
私は毛布にもぐったまま首を横に振った。
「じゃあ、温かい飲み物でもいれましょうね。ゆっくりでいいので、起きて来て下さい」
そう言った後、部屋から出て行く音がした。私はそっと顔を挙げた。誰もいない。
着替えは部屋のスツールの上に畳んで置いてあった。
毛布を引きずりながら取りに行く。昨日着ていた服全て、きちんと洗濯しておいてあった。……下着も。
恥ずかしいのと、悲しいのとで、その場に座り込んでしまった。
もう、いいや。もう、お嫁にいけない。覚悟を決めて榛瑠にもらってもらおうかな。
彼にだってメリットはあるんだし。もういいや、それで。
もう、どうでもいい気がしてきた。
なんだろう、水?お湯?溺れる?
手足を伸ばして何かに捕まろうとする。と、ぎゅっと体を支えるものに気づいた。
ああ、大丈夫だ、溺れない。
ホッとする。温かくて気持ちがいい。時々水音がする以外静かだ。
これ、夢かな。私、寝てるんだ。だって、ものすごく眠いし。
頬に触れている何かに気づいた。何かな、これ……。
「俺の腕を噛まない、一花」
声が反響していた。細く目を開ける。明かりが目に入ってくる。それから、人のシルエット。
眠くて目を開けていることができず、すぐに閉じた。
柔らかい何かが唇を塞ぐのがわかった。
「大人しく待っていてあげるのも、そろそろ限界ですからね?お嬢様」
「ん……」
答える間も無くまた唇が塞がれる、やさしく、ゆっくり。
水音がきこえた。
眩しくて目が覚めた。ブラインドが開いていて光が部屋に入ってきていた。
ぼんやりと視線を動かす。白いシーツが目に入る。それから……。
「おはようございます、お嬢様」
にっこり笑った榛瑠の顔がほんの数センチ先にあった。
……え。
……ちょっとまって。なんで? 私、昨日……。
色々思い出す。そして色々思い出せない!えっと、何があった、私⁉︎
体があちこち痛む。とにかく起きなくちゃ。
そうして、巻きつけるようにして寝ていた毛布から体を起こして、……思考が一瞬止まった。
どうして私、何にも着てないの??
一瞬の空白の後、慌てて毛布を手繰り寄せて体に巻きつける。
心臓がおかしなくらいバクバク言っている。ちらっと榛瑠を見ると、何事もないかのようにベットの上に座っていた。
「な、なんで……」
「何がですか」
何がって、すべてよ!待って、私、昨日飲みに行って、なんか途中からおかしくなって、誰かに助けられて。
何が起こったのか、まず、一つずつ聞くべき?それともいきなり聞くべき?どうして裸でしょうかって。
……それ、無理。ゆっくりいこう。
「あの、昨日、私」
「はい」
「なんかしでかしました?」
だよね、きっと。
「ほんの少し馬鹿だっただけですよ。正確には脇どころか全面的に甘くて嵌められただけです」
「……それであの、助けていただいたのでしょうか」
ぼんやりと榛瑠と電話した記憶がある。それから優しい声と、あと、黒い人影。
「私と、もう一人でね」
「……あの、彼は?」
私に何か飲ませたであろう人の名を言いたくなかった。でも、気にはなる。
「さあ?」
榛瑠の返事はそっけなかった。
まあいいや、さすがに私も、今はそれどころじゃない。
ちょっとまってよ、車に乗せられた記憶はなんとなくある。で、多分ここまで来て……。
ドウシテハダカ?
口を開いたまま次の言葉が出ない私を見て榛瑠が言った。
「誤解のないよう言っておきますが、服を脱いだのはあなた自身です。私が脱がせた訳ではありませんから」
「……え……」
なんでそんなことした、私?人生やめるつもり?
「あ、でも、お風呂に入れたのは私ですけど。入るってきかなかったので」
水音……、聞いた……。お風呂って、いれたって、ハダカって……。
私は頭から毛布を被ってその場で丸まった。顔がめちゃくちゃあつい。耐えられない!
見られたどころじゃないわよ、どうしてくれるの、私!
なんとなく、覚えている。髪とか撫でてもらったし、ドライヤーの音とか聞いた気がするし。
それに、……それに、なんだかすごい気持ちよかったような……。
そう思った時、心臓が飛び出た、と思った。
ついでに涙も滲んだ。
「すごく恥ずかしがっているみたいですが、あなたがお小さい時、着替えさせたりしてたの私ですからね」
「……一応、もう五歳児ではないもので」
私はボソボソ言ってみる。
「御心配なく。言うほど変わりません」
「……酷い」
「違うというなら、試して見ましょうか?」
え?
ぎしっとベットマットが揺れるのがわかった。思わず顔を上げる。
榛瑠が近寄ってくる。私は身動きも出来ず、ただ思いっきりぎゅっと目をつぶった。
そして、私は身を思いっきりよじった。
「ちょっと、やだ、やめて!お願い!ごめんなさい!やだってば!」
人が脇腹弱いの知ってて!
榛瑠は私の脇腹をくすぐるのをやめてそのままベットを下りた。
「ほら、子供の時と変わらないじゃないですか」
涼しい声が頭の上から降ってくる。私は悪魔みたいな声の主を見上げた。
無表情な金色の目が私を見下ろしていた。
「ねえ、もしかして、榛瑠怒ってる?」
榛瑠はわたしを見下ろして婉然と微笑んだ。
だめだ、これはかなり怒ってる。
そう思ったら急に悲しくなった。私は毛布をまた頭から被った。
なんで怒るの?そりゃあ、私も油断したと思うよ?でも、同僚と飲んだだけじゃない?私のせいなの?やだ、もう。
横に榛瑠が座る気配がした。体に力が入って縮めてしまう。と、毛布の上から頭にそっと手が置かれた。
「何か、食べられそうですか?」
私は毛布にもぐったまま首を横に振った。
「じゃあ、温かい飲み物でもいれましょうね。ゆっくりでいいので、起きて来て下さい」
そう言った後、部屋から出て行く音がした。私はそっと顔を挙げた。誰もいない。
着替えは部屋のスツールの上に畳んで置いてあった。
毛布を引きずりながら取りに行く。昨日着ていた服全て、きちんと洗濯しておいてあった。……下着も。
恥ずかしいのと、悲しいのとで、その場に座り込んでしまった。
もう、いいや。もう、お嫁にいけない。覚悟を決めて榛瑠にもらってもらおうかな。
彼にだってメリットはあるんだし。もういいや、それで。
もう、どうでもいい気がしてきた。
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